09 表と裏がある学園生活って怖いです!


「ちょーっと、ストーップ!」


 わたしはシャルに手を掴まれたまま廊下へ連行されていました。


「なによ」


「説明してよ。せっかくギルバート君に魔法を教えてもらって、あわよくば友達にもなれたかもしれなかったのに……」


 言い方は悪いですが、シャルによってそのチャンスが奪われてしまいました。


「友達なら他の奴にしなさい」


「だから何で……って、ああそういうことね」


 そうか、わかりましたよ。


 ふふ、何だかんだ言ってシャルも素直じゃありませんね。


「シャル……さてはわたしを見てヤキモチ妬いたんだね?」


「……はっ!?妬いてないし!!」


 あ、やはりこの反応。


 お姉ちゃんは分かります。図星の時にシャルは声を上擦らせてしまうのです。


 それに若干ですが顔が赤くなっていますよ。


「うんうん、お姉ちゃんだからこそ言えないことってあるもんね。でもわたしは大丈夫だから安心してよ」


「え、ちょっと、なにそれどういう……!?」


「前は否定してたけど、やっぱりギルバード君が気になるってことだよね?」


「……は?」


 あれ、声のトーン変わりましたね。


「ギルバード君が取られるかもと思って、わたしを止めに来たんでしょ?」


「だから……アイツなんか興味ないって言ってるわよね」


 あれれ……姉だから分かります。


 これは呆れて少し腹を立てている時の声です。


 ん~?


 じゃあ、さっきのヤキモチの時の反応は何だったんですか……?


「わかった。ここなら人がいないからちゃんと声に出して教えてあげる」


 ビシっ、とわたしを指差してきます。


「あんたね、今の状態でギルバートなんかと友達になったらどうなると思う?」


「魔法を教えてもらって、友達も増えてハッピー?」


「ほんと頭の中、お花畑ねっ!」


「えっ、そうかなっ!?」


「あいつは女子人気すごいって教えたわよね?それを、誰もいない中庭でラピスが親密になろうとしてたらどうなると思う……?」


「ライバルの出現によって、ギルバート君を懸けた恋愛戦争ぼっ発……!?」


 わたしは早々に離脱ですね。


 とても勝てるような戦いではありません。


「そんなわけないでしょ……。本格的に疎外されるのよ、あんた」


「え、そうなの……!?」


「当たり前でしょ。今あんたは成績が悪い子だから敬遠されているだけ。でもギルバートを横取りしようとしているなんて思われたら、一気に風当たりは変わるわよ」


「こ、これ以上にツラい目に遭うの……?」


「女友達は絶対出来ないでしょうね。根回しされてあんたは学園のコミュニティから締め出されるのよ」


「こ、こわい……」


 はあ、とシャルは深い溜息を吐きます。


「急に教室を飛び出して行くから何かなと思ったら……。よりにもよって相手がギルバートなんだもの……アレを誰かに見られたかと思ったらヒヤヒヤして、居ても立ってもいられなかったわよ」


 だとしても窓から飛び降りて来るって、異常な気もするけど……。


 でも、何だかんだシャルはわたしのことをよく見てくれているんだね。


「そっかあ……心配してくれたんだ。ごめんねシャル」


「べっ、別にどうでもいいけど……!姉があまりに不出来だとわたしの出来まで疑われそうだから嫌なだけっ!」


 と、いつもの調子でシャルは教室へと戻っていくのでした。


        ◇◇◇


 さて……。

 

 休み時間が終わるまで、まだもう少し余裕があります。


 教室に戻ってもいいのですが、特にやることもないですし。


 また、ぼっちタイムを発動するのもイヤですし……。


 ※誰もいない所で一人は平気


 かと言って底冷えする渡り廊下にずっといるのもイヤです……。


 なにしましょう。


「あっ、いたいたー!エメちゃーん!」


 ――ずきゅん


 わたしの心臓が射抜かれました。


「え、えへへ……なんでしょうか?」


「うわっ、すっごい緩んだ顔してるっ!」


 だっていきなり“エメちゃん”呼びですよ?


 今日だけで二人も名前で読んで頂けるなんて……なんて素晴らしい日なのでしょう。


「すいません、あまりの嬉しさに……って、ミミアさん?」


 わたしのことを呼んでくださったのは“ミミア・カステル”さん。


 クラスメイトで、一番大所帯になっている女子グループの中心的ポジションにいる方です。


 桃色の髪を左右で結ったツインテール、ぱっちり瞳に常にニコニコした表情は愛嬌が溢れ出ちゃってます。


 しかも、制服の上からでも分かる大きいお胸……。


 まるでアイドルのような方です。


「あっ、ごめんねぇ。いきなり声掛けちゃって。ミミアとお話しするの初めてだもんね?」


「そ……そうですね。ミミアさんとは初めてだったので、ちょっと驚いちゃいました」


「あははー、やだなぁエメちゃん。クラスメイトなんだから“さん”はいらないよー?」


「え、ですが何とお呼びしたら……」


「んー?ミミアでいいんじゃない?」


「――!?」


 いきなり呼び捨てだなんて、なんという距離感の縮め方……!?


 こ、これが大人数のグループに君臨する方のコミュ力なのですねっ……!!


 ち、違い過ぎます……!いつもオドオドしているわたしなんかと比べ物になりません……!


「ほら、呼んでみてー?」


「……ミミア…………ちゃん」


 無理です!いきなり呼び捨てはさすがに抵抗ありすぎます!


「うん、ちゃん付けで呼び合うのも可愛いね!」


 ぬおおお。


 なんですか、この可愛い生命体は……!?


 わたしなんかの呼び方で、ぴょこぴょこ跳ねて喜んでくれています。


 そんな事されては、表情がどうしても緩んでしまいます……!


 ――はっ!


 も、もしかして……ミミアちゃんならお友達になってくれるのでは……!?


「あ、あの良かったら……」


「それでねっ?なんでミミアがエメちゃんに声を掛けたかと言うとぉ――」


 声が被ってしまいますが、ミミアちゃんの声の方が大きいので掻き消えてしまいました。


 声を掛けられた側なのですから、ここは聞くべきでしょう。


「――ミミア、見ちゃったんだよねぇ?」


「なにをですか?」


「エメちゃんとぉ、ギルバードくんがぁ、二人でいるところっ♡」


「……!!」


 背筋に電流が走ります。


 頭がお花畑なわたしですが、シャルに言われたばかりなので、さすがに察してしまいます。


「なにしてたのか、気になるなあって……?」


 あわわわっ!!


 これはアレ、アレですよ!!


 女の子が仲良しを装いながら、実はイジメちゃうという……!


 陽キャ女子の固有スキルじゃないですか……!!※偏見です。


「ななっ、なんでもないですよ……!?」


「えぇー?ウソやめてよぉ。仲よさそうにしてたよねぇ、手なんか握ったりしちゃってさぁ?」


 ちちちっ、違います!

 

 あれはわたしが喜んで一方的に……!


 ああっ!でも他の人が見たらわたしが狙っているようにしか見えませんね!!


「あれは……その……手に虫がついてたので、取ってあげようと……」


「あははっ!ウソ苦しすぎ―。エメちゃんニコニコだったよぉ?虫とるのにあんな笑顔になる女の子いないよぉ?」


 あああああああああ。


 怖い、怖いですっ……。


 天使のような笑顔なのに、それで追い詰められているのが恐怖でしかありません……!


「ねぇねぇ、ホントのこと言ってよぉ。ミミアは知りたいだけなんだよ?なんでエメちゃんが、ギルバートくんとあんなに楽しそうにしてたのかなぁって?」


 は、迫害されてしまいます……。


 このままだと、わたしはこの学園での居場所を本当に失ってしまいます……!


「誰にも言わないからね。ミミアだけには教えて欲しいなぁ?」


 む、むりです……!


 友達になろうとしていただけですけど、それは好意と捉えられることでしょう!


 そして恋愛感情を隠していると思われて、わたし終了です……!!


 絶体絶命ぃ……。


「――ちょっと、貴女達。ここは生徒が通る廊下、それを二人で塞がれては迷惑ですのよ」


 ぴしゃり、と注意を促す少女の声。


 こ、この……お嬢様口調で威圧的な空気の方は……!


「リアさんっ!!」


「げっ……また貴女ですか。私の通り道を邪魔するのが趣味か何かですの?」


 こ、これはチャンスです!


「リアさんっ!待ってたんです……!」


 わたしはそのままリアさんに擦り寄ります。


「な、何のお話……?」


 リアさんは凄い嫌そうな顔をしていますが、構わずリアさんの背後に回り耳打ちします。


「たっ、助けて下さい……」


「ですから、一体何のことを言ってらっしゃるの?」


「ここから脱出したいんです。ミミアさんから逃げないとダメなんですっ」


「はぁ……?貴女、そんな下らないことで私を利用するおつもり?馬鹿にしてらっしゃるの?」


「ちっ、違います!でもリアさんに助けてもらわないと、わたしの学園生活が終わってしまうんです!」


「は、話が見えませんの……」


 リアさんは嫌を通り越して困惑顔になって、肩を落としました。


「このままわたしを連れて行ってもらえればいいですから……!」


「はあ……分かりましたわ……。このまま付きまとわれるのも面倒なので、協力してさし上げます」


「リアさんっ……!!」


 不思議そうにこちらを眺めていたミミアさんと、リアさんの鋭い視線が重なります。


「エメさんは貴女から離れたいそうですの」


 リアさんっ!?


 それ言わなくていいんですよ!?


「ええ?ウソだよぉ、さっきまで一緒に仲良く話してたんだよぉ?」


「知りません。ですが本当に仲睦まじいのなら、私の背中に隠れたりなど致しません」


「いや、それはエメちゃんがミミアに隠し事するからぁ……」


「――くどい」


 その一言で空気が凍りました。


「私、同じことを繰り返すのが好きじゃありませんの。これ以上不要な問答をお望みなら実力で説き伏せる事になりましてよ……?」


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ!!


 リアさんの魔力が体から溢れ出ているようです……。


 まだ魔力の抽出段階だというのに底なしの魔力量を伺わせます。


 あ、あと実力行使だと“捻じ伏せる”になっちゃいますよ……?


「いやだなぁ。ミミアそんなつもりじゃないもん」


「なら、お互いにここで分かれましょう。それが健全です」


 納得してくれたのかミミアさんが退きます。


「もう~エメちゃんっ。リアさんに用があったのなら先に言ってよね?言ってくれたらちゃんと待ってたのにぃ」


 ぷくぅ、と頬を膨らませるミミアさん。


 か、可愛い……。


「ご、ごめんなさい……」


「ううん、いきなり声掛けたのはミミアの方だもんね。また今度お話しようねっ!」


 そう言ってミミアさんは、ぱたぱたと去って行くのでした。


 最後まで可愛いままで、お腹の底が見えない方です……。


「はい、終わりましてよ。これで良いのでしょう?」


 ……リアさん。


 助けてくれて凄い嬉しいですけど、やり方が怖いです。

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