10 御三家令嬢という方がいるみたいです!


「それで、ミミアさんと何がありましたの?」


 リアさんは意外にも事の顛末を気にしてくれました。


 助けてもらったので打ち明けたいところですが、リアさんもギルバード君が好きだという可能性もあります。


 そうなると迂闊には話せません。


「詳しくは話せないんですけど。ざっくり言うと恋バナです」


「……恋愛の話であんな必死に逃げ出そうとすることがありますの?」


「リアさん、恋愛のいざこざは一番トラブルになりやすいんですよ」


 って、シャルから聞いたことがあります。


「つまり、エメさんはご友人から逃げ出したのですね?」


「へ?」


 リアさんは真っすぐな瞳でわたしに尋ねます。


「恋愛話ができるほど仲が良いミミアさんから逃たのでしょう?」


「リアさん……」


 ――ガシッ


 わたしはリアさんの両肩に手を置きます。


「え、なんですの!?」


「リアさん、そんな残酷なこと聞かないで下さいよ……」


「ど、どういうことですのっ!?」


「わたしにそんな素敵な方がいたら、こんなひとりぼっちでいるワケないじゃないですか!!」


 リアさんは目を瞬かせます。


「……え、あぁ……そうですのね」


「リアさんみたいに綺麗で強くて気品があったら、わたしも自信つくんですけどね……」


 とほほ。それはあり得ない話なのです。


「あっ、貴女、突然何を言い出しますの!?」


「リアさんこそ顔赤いですよ?どうしました?」


「きっ、気のせいですわっ!それより変なことを言って驚かさないで下さる!?」


「変なこと?言ってないですよ?」


「むっ、無自覚ですの……!?」


 珍しく動揺している様子のリアさん。


 なぜでしょうか。


「あっ!わたしなんかがリアさんのような可憐で格好いい女の子になれるわけないから、可笑しくて赤くなってるんですね?」


「貴女、まだ言いますの……!?それに、笑ってなんていませんの!」


 いえ、そう言って可笑しいのを我慢して顔を赤くしたんですよね。


 面と向かっては言えないので隠したい気持ちは分かります。


「くっ……結局、事情はよく分かりませんでしたが。ミミアさんとそんなお話をしているだなんて随分と余裕がありますのねっ!」


「余裕?なんのことですか?」


「貴女……、あの方の左胸が目に映っていませんの?」


 胸……?


「左どころか、ミミアさんのおっぱいは両方ご立派でしたよ?」


「おっ、おぱ……!?」


 あれ、リアさんが挙動不審です。


「貴女という人は!非常識なことを言わなければ気が済みませんの!?」


「ええっ!?リアさんから言ってきたんじゃないですか!!」


 突然怒られましたっ!


 身に覚えがありませんっ!


「私は左胸にあるブローチの話をしていましたのっ!胸囲の話などしておりませんっ!!」


「えっ!ブローチってことは……ミミアさんもステラ!?」


「そうですっ!どうして大きさは見ているのに、ブローチが目に入っていませんの!?意味が分かりませんわっ!」


「いえ、ステラが霞むくらい立派だったので……つい」


「いい加減その話はおよしなさいっ!はしたなくてよ!」


 ええ……!


 今、リアさんの方が話を広げてきましたよね!?


「私は“ステラの方と恋愛話をする余裕がありますのね”と、お伝えしたかったのです。ラピスなのですから、もっと他にやるべきことがあると思っていましたので」


 うっ、それは耳が痛いです。


 確かにそんなお遊びをしている余裕なんてわたしにはありません。


 ……あれ、でも元々は中庭で魔法の練習してただけですよ?


 なぜこんなことに。


        ◇◇◇


「……は?ミミアに狙われた?」


 帰宅してお料理中のシャルに報告すると、意外そうな表情で返事をされるのでした。


「うん、ギルバート君とのやり取りを見られたみたいで……」


「そう、やっぱり見ている奴がいたのね……」


 ふう、とシャルは息を吐くとおもむろにエプロンを脱ぎました。


「残念だけど、これであんたの居場所は無くなったわね。ツラいでしょ、今日くらい外食でいいわよ。何食べたい?」


 なんか同情されていますっ!


 最後の晩餐みたいになっちゃってます!!


「違うのっ、話はうやむやにしたままだから。確定にはなってないと思う!」


「え、なにそうなの?ミミアは結構な噂好きでしつこいって聞いたけど……、どうやって切り抜けたのよ」


「途中でリアさんが来てくれたから助けてもらっちゃった。えへへ」


 他力本願だったので笑って誤魔化そうとしちゃいました。


「は?リア……?あんた随分、ステラと絡むわね」


「言われてみると、そうだね……?」


 妹がステラだからか、そういう運が回ってきているのでしょうか。


「でも改めて考えるとビックリだよね。五人のステラの内、四人が同じクラスだなんてすごい偶然」


「偶然ではないはずよ。クラスは成績がある程度均等になるように振り分けられてるみたいだから」


「え、そうなの……?それなら四人も固まるのおかしくない?」


 二クラスしかないのに、そんな偏りは不自然です。


「それだけギルバードが抜きんでてるってこと。他のステラを集めてようやくあいつと一緒ってことなんでしょ」


「へえ、そんな凄いんだ……」


 あんなに優しくて大らかな人が実力まで異次元なんですね。


 それでいて王子様のようなフェイス……モテないはずがありません。


「ええ。“魔法御三家”を差し置いて、それだけの実力があるんだから。強敵よアイツは」


「……魔法御三家?」


 初めて聞く単語がシャルの口から出ました。


 その様子を見て、シャルはやれやれと頭を振ります。


「あんた、本当に何も知らないのね……いいわ説明してあげる」


 アルマン魔法学園でのステラは以下の五人。


 第一位 ギルバード・クリステンセン


 第二位 リア・バルシュミューデ


 第三位 セシル・アルベール


 第四位 ミミア・カステル


 第五位 シャルロッテ・フラヴィニー


 そして、この内の三人。


 『バルシュミューデ』『アルベール』『カステル』の三家はクラルヴァイン帝国の中でも抜きんでた名家とされている。


 この三家は魔法協会へ莫大な資金を援助しており、魔法協会の財源の大半を担っていると噂されている。


 魔族との戦争が熾烈を極める中、軍事力として最も有用とされている魔法士のバックになることが帝国の実権を握ると考えたのだ。


 その背景があり、この三家は“魔法御三家”と呼ばれるようになった。


 しかし、三家が資金を援助している状態では権力を独占することが出来ない。


 次第に御三家はより強大な実験を握るために“魔法士”を輩出することに力を入れ始める。


 優秀な魔法士を育成し、魔法協会内部から権力を握るという考えに至ったのだ。


 そして今期のアルマン魔法学園の門を叩いたのが『リア』『セシル』『ミミア』の三人だった。


「……で、今回の御三家は全員女の子だから“御三家令嬢”なんて言われ方もしているみたいね。しかも揃って優秀だから魔法士の中でも話題になっているみたいよ」


「ちょ、ちょっと待って……。なんか、いきなり大人な話多くない……?」


 さっきまで恋バナとか言ってたわたしにはついてけない……。


「バカね、これくらい常識よ。そしてこれを聞いた上なら、尚更ギルバードの異質さが分かるでしょ?」


「え?優秀な三人より凄いから、すごいってことだよね?」


「語彙力……。あのね、あんたが先生だとして魔法協会がバックについている生徒とついてない生徒、どっちの順位を上にする?」


「え、うーん……ごめんなさいだけど、魔法協会の子の方にしちゃうかも。なんか言われたら怖いもん……って、そうか」


「そういうこと。魔法協会と繋がっている御三家を差し置くなんて、よっぽどの差がないと起こり得ないわ」


「なるほどね、ようやくお姉ちゃんも分かったよ」


「やっと分かったか」


 シャルは肩をすくめました。


「うんっ!そんな凄い人たちの中でステラとして肩を並べているシャルは、同じくらい特別ってことだよねっ!」


「……ばっ、バカ!そういうことが言いたかったんじゃないから!全然わかってないじゃない!」


「我が妹ながら素敵すぎて惚れ惚れしちゃう!」


「はっ、話しを聞けーっ!!」

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