08 友達を作りたいです!
「ん~……」
お昼休みです。
ぼっちには一番ツラい時間がやってきてしまいました。
皆さんご友人と学食に行かれたり、教室で一緒にお弁当を食べたりしています。
こ、これは声を掛けるチャンスでもあるのです……!
やってみるしかありません。
大人数の所は気が引けますので、まずは少人数の所から……。
周囲を見てみます。
前方。
「はっ!ラピスがこっちを見ている!?」
「な、なにが目的だ!?」
「べ、弁当の中身じゃないかっ!!」
「ま、マジか……くそっ、卵焼きくらいなら……!」
……うん。
この男の子二人組はダメですので、視線を逸らしましょう。
真横。
「……」
おっ、セシルさんはまだご飯を食べていない様子。
これなら声を掛けやすいです。
「せ、セシルさん……?」
――ひくっ
「な、なに……?」
セシルさんはちょっとだけわたしに慣れてきてくれたのか、以前ほどはビクビクしないようになってくれました。
それでも警戒心はかなり強そうですが……。
ですが打ち解けるのに食事を共にするのはもってこいです。
断られるのは怖いですが、ここで勇気を振り絞らなければ先に進めません。
「ごはんまだのようでしたら、一緒に……」
「食べない」
「え」
即答で心臓が止まります。
「私、昼食はとらない」
なるほど、ご飯自体を食べないという意味でしたか。
そんなパターンがあるんですねえ……。
ご飯を食べないと力が出ないわたしには考えつかない発想でした。
「そうなんですか、セシルさん細いですもんね。ダイエットですか?」
「いや……食欲、ないだけ」
突然の敗北感!
くうぅーー!
言ってみたい、言ってみたいです。そんなセリフ!!
わたしなんてついつい食べ過ぎちゃってシャルには止められるし、体重が増えるのは止まらないしで大変なんですよ。
小食で自然と痩せて可愛いなんて、女の子として最強じゃないですか。
ズルですよ、ズルっ。
「……で、ですがご飯はちゃんと食べた方がいいんじゃないですか?ほらわたしたち育ち盛りですから、健康にも良くないと聞きますよ?」
ああっ……!
悪い、悪いわたしが出ちゃってます!
食べないセシルさんが羨ましくて、
「でも食べたくないから……」
「そんなに細いんですから、もうちょっと食べた方が……」
――ビクビク
「わ、私を太らせてどうしたいの……?」
あ、まずいです。
深追いしすぎました。
せっかく慣れてきてくれたセシルさんが怯え始めています。
「いえ、どうもするつもりは……」
「肥えた私を、食べる気……?」
「そんなわけないですよね!?」
セシルさんは恐怖によって正常な判断能力が欠如していますっ!
「おい、今ラピスがセシル様を食べるって……どういう意味だ?」
「そりゃお前……大人の意味に決まってるだろ!」
「は?大人……?」
「そんなことも知らないのかっ!……ごにょごにょっ」
「な、なんだって!?……だがまて。それって映画じゃ大人の男女がやる行為じゃなかったか!?」
「世の中広いんだよ」
「……オレにはまだまだ知らない世界があるんだな……」
なんか前の男の子二人は意味が分からないことを話し始めていますし……。
居づらくなってしまいました……。
結局わたしは空気に耐えられず、教室から出て行くことにしました。
◇◇◇
「さて、どうしましょうか……」
教室を後にしてみましたが、お腹は空いています。
学食に一人ではハードルが高いですし、他にどこで……。
「あっ、中庭がありましたねっ!」
そうです。昼食は中庭でも食べていいと聞いたことがあります。
それに友達を作るのは何もクラスメイトだけにこだわる必要はありません。
何となくですが、中庭には穏やかな人が集まる気もします。
そこで親睦を深めるのもアリですねっ!
わたしは軽い足取りで中庭へと向かいました。
――ひゅ~~~~……。
「……さむいです」
考えてみれば季節は春が始まったばかり。
まだまだ肌寒い日々が続きます。
それなのに屋外である中庭でご飯を食べようだなんて方は一人もいませんでした。
景色は中央に据えられた木と、芝生が広がります。
貸し切りです。
「あはは……ま、まあいいや。ここなら落ち着いて食べられそうです……」
一人で隅っこのベンチに座ってお弁当を広げます。
シャルがいつも用意してくれているものです。
「いただきます」
――ぱくぱく
うん、こんな時でもシャルの作ってくれるお弁当は美味しいです。
寂しいわたしの心を癒してくれます。
お弁当はすぐに食べ終わりました。
「さて……すぐに教室戻るのも気まずいですね」
どうせなら授業が始まるギリギリに戻りたいものです。
時間を潰しましょう。
「あ、そうだ。誰もいないのですから魔法の練習をしましょう」
今日は実技の授業はないので、座学で学んだ魔法理論を実践してみましょう。
人より遅れているわたしは、こういう所で努力しないと……!
中庭で火は危ないので、水魔法の練習をしてみることに。
魔法に集中します……。
「
――じわり
手の平が湿りました……それだけ。
「うええんっ、やはりわたしには魔法の才能がぁ……」
うずくまって頭を抱えます。
「――あれ、先約がいるなんて珍しいな」
と思えば、背後から男の子の声が!?
どこかで聞いたことのある声でしたが……。
「えっ、うそっ、ギルバート君!?」
振り替えるとそこには主席のギルバート君がいたのです!
「ごめんね、いきなり声掛けて。ここいつも誰もいないから思わず声掛けちゃったよ」
「い、いえ!とんでもないですっ!」
うわあ、こんな近くにギルバート君が……。
しかし、見れば見るほど整った顔立ちですね。直視するには眩しすぎます。
「それでエメさんは、ここで何してたの?」
「――ッ!?」
わたしの背筋が震えます。
その反応に驚いたのか、ギルバート君が目を丸くします。
「え、どうかした……?」
「いま、わたしのこと何と仰いました……?」
「“ここで何を……”」
「その前です」
「え……?“それでエメさん”かな……?」
きゃーーーーーっ!!
名前!名前ですっ!
わたしのことをラピス呼びしない人がいましたっ!!
しかも主席でイケメンのギルバート君がですよっ!?
「ありがとうございます!わたし、とっても嬉しいです……!」
わたしはギルバート君の手を握り、ぶんぶん回して感激した気持ち表現します。
「え!?ご、ごめんっ。話が見えないんだけど……」
「名前で呼んでもらえたことです……ううっ……」
「な、泣くほどなんだ……」
あ、まずいです。ギルバート君が引いています。
感情を抑えないと……。
手を放します。
「でも、わたしみたいな子をどうして知ってくれているんですか?」
「ここ難関なのに姉妹揃って入学なんて珍しいからさ。噂になってるよ」
「いえ、それは妹がステラで凄いからですよ……。わたしはラピスなので名前をあまり呼ばれないくらいですから……あはは」
恐らくステラのシャルが有名で、その姉がラピスという逆転現象があって際立ってしまっているのでしょう。
「ああ……なるほどね。ここは実力主義みたいな所があるから、そういうの気にする人もいるもんね」
「ギルバート君は気にならないのですか?」
「そりゃ切磋琢磨する仲間なんだから、そんなこと意識しないよ」
な、なんて素敵なお方なのでしょう……!
主席なのですから一番そういったことを気にされていると思っていましたが、本物は考え方が違いますね……!
わたしがいかに狭い視野に囚われているか思い知らされてしまいますっ。
「それで、魔法練習してたんでしょ?」
「あ、はい。未熟なのでこういう時に練習をと思いまして」
「手伝おうか?」
「……はい?」
あれ、幻聴が聞こえました?
「あはは、おかしいですね。主席のギルバート君がわたしなんかの魔法の練習を手伝ってくれるなんて、そんな都合いいことが……」
「ん?いいよ、僕も今ヒマだし」
「え?」
「え?」
お互いフリーズします。
あ、いや、これはわたしのせいですね。
「え、いいんですか……?」
「うん、いいよ。僕で教えれることがあればだけど」
か、神……!
ここに神が降臨しました……!
「ぜ、是非お願いしますっ!」
わたしは出来る限りのお辞儀をします。
「ああ、やめてよ。そんな大したこと出来るか分かんないし……」
くうっ!実力があおりでしょうに、どれだけ謙虚なんですかっ……!
……あれ?ちょっと待ってください。
もしかしてですけど。
ギルバート君なら、わたしの友達になってくれるんじゃありませんかっ!?
こんなに心の広い方なら受け入れてくれるような気がします。
今こそ千載一遇の好機!
「あ、あのですね、ギルバート君よかったらなんですけど……」
――コンコン
ん?大事な話をしようとしたタイミングで何やらノックのような音が。
音のする方へ反射的に振り返ると……。
「え、シャル!?」
なんとシャルが、窓からこちらを覗いていたのです。
教室は4階にあるため、かなり上から見下ろされています。
シャルは親指を立てて、ぐいっぐいっと自身の後方を指していました。
……あ、なるほど!
ギルバード君と友達になるのを“グッジョブ”と応援してくれているんですねっ!?
――グッ!
わたしも満面の笑顔で親指を立てて返します。
――ブチッ!!
え、あれ……なんでシャルは鬼の形相になるんでしょうか。
カラカラとシャルは窓を開け始めました。
「こっちに来いって言ってんのよ!!」
降り注ぐ怒声。お姉ちゃんビックリです。
でもシャル、それはあんまりだよぉ……。
せっかく友達第一号になってくれるかもしれない人が目の前にいるのにぃ……。
「あ、後でねー?」
わたしも声大きめで返事をします。
「今!今、来なさいっ!!」
「今はだめー。ギルバート君に魔法教えてもらうの―」
「ああっ!もうっ!!」
あ、あれ……シャル……?
窓の淵に足掛けてない……?
「あっ、あぶないよー。シャル、寒いんだから窓閉めなよー」
「うっさい!今そっち行くから!!」
え、ウソでしょ……?
シャルが窓から身を投げ出してるんですけど……そこ4階だよっ!?
――ドガーーーーンッ!!
「しゃ、シャルっ!?」
当たり前ですが、重力に従い急降下。
爆音と同時に粉塵が舞い上がります。
あんな所から落ちてくるなんて、何考えてるのあの子!?
わたしはシャルが落ちた場所目掛けて走り出します。
視界を奪う粉塵を振り払い、進んでいくと……。
――ガシッ!
「え?」
手首を掴まれました。
「行くわよ、このバカっ!」
そこにはピンピンしたままのシャルが……。
「え、それより大丈夫……?」
「当たり前でしょ!音と粉がすごいのは風魔法で衝撃を殺したから!」
ああ、さすがはシャル。器用な子です。
「や、ちょっと待ってよ。今ギルバート君が友達になってくれるかも……」
「そいつはダメなのっ!」
「で、でも……」
「でもじゃない!言う事聞かないと、もうお弁当作らないから!!」
「ええ……」
お姉ちゃんは、妹の勢いに完全に押し負けてしまいます。
シャルになされるがまま、ギルバート君の横を通ります。
「悪いわね、こいつに用があるから借りてくわ」
ちょっと、ちょっと、何その口調!?
「ご、ごめんなさい……ちょっと妹がわたしに急用みたいで……」
「うん、全然大丈夫。また何かあったら声掛けてよ」
ああ、本当にいい人ですね。ギルバート君。
魔法教えてもらいたかったなぁ……。
「ちっ、なにあれ。あんなウソくさい笑顔振りまかないで欲しいわね」
というか、シャルの異様な怒気が収まりません……。
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