脱出と死と

「特に何も目立った動きはないな」


 あれから数日間見張っていたが父であるグレイに変わった様子はなかった。

 いつものように礼拝を済ませ、食事をして書類仕事を終わらせ帰宅する。

 幼少の頃から見ていた父のルーティーンだ。


「ただ火のないところに煙は立たないと言うしなぁ」

「私もそこが引っかかる。噂は所詮噂だけど……」


 そう父の行動に変わったところはない。

 だが噂が一人歩きしただけとは考えにくい。

 色々と思考を巡らせた結果、私は1つの結論に辿り着く。


「……デズ教会教皇補佐ケイン」

「え?」

「エリッサ! 今すぐ監視の精霊をケインに移して!」

「わかった」


 父を監視していた精霊がケインを映し出す。

 そこには痩せこけた父の姿と培養液につけられた赤ちゃんが写っていた。


「これは……?」

「わからない……。だけど間違いなく」


 ケインが噂の出どころで間違い無い。

 しかもあろうことか教皇である父に何かをしている。

 ということは私達が見せられていたのは影武者の1日だった……?

 すぐに帰ってマスターとアルメリアに報告をしないといけない案件だ。


「エリッサすぐに帰って報告を……」

「すまない。勘付かれてしまったようだ」


 突然、エリッサの意識がなくなり床に倒れる。

 私は突然の出来事に理解が追いついていない。

 ただエリッサは倒れる直前に勘付かれたと言っていた。

 なら私がするべきことはただ1つ。

 全力でエリッサと一緒にここから脱出することだ。


◆◆◆


 ティナとエリッサが何とか脱出をした数分後、デズ教会の一部屋で男2人が集まり話をしていた。


「ケイン様宿はもぬけの殻で逃げられた後のようでした」

「そうか。ところで聖騎士団隊長、私は君達が出る時に何と言ったかのう?」

「……必ず捉えてこいと」

「それで何故手元に賊がいないんじゃ?」

「それは……」

「レイン。こいつらを殺しなさい」

「はい。お父様」


 どこからともなく少女が現れる。

 少女の背格好は幼い愛嬌のあるモノだ。

 だが下半身は人のそれではなく蛇のような形をしている。

 そして蛇は獲物を自分の体に巻き付けて殺す。


「ぐぅぉぉぉぉ。何故……何故ですか……! ケイン様私は私はァ!」

「要らなくなった不要なモノは捨てないと部屋が汚れるからの。仕方ないと思ってレインの糧となってくれ」

「お父様この人間不味いです……」

「でも強くはなれたじゃろ?」

「ええまぁ。でも次はもっと美味しい人間がいいです!」

「安心せい。次はもっと美味で強くなれる餌を食わしてやるからのぉ」


 静かになった部屋には大きな血溜まりと蛇が部屋を這う音だけが残されていた。



 

 

 


————

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