わからないアレと依頼への同行
「ただいまってタイミング悪かったかな?」
ギルド会館のギルドマスタールームへ戻るとそこではエマさんとエリッサが話をしていた。
内容はよく聞こえなかったが『依頼を』と言っていたので恐らくエリッサへの指名依頼の話だろう。
高ランクの冒険者には時々ではあるが、指名依頼という通常の依頼よりも報酬の高い個人を指名した依頼が入る事がある。
かくいう僕もラカンやティナ、アルフレッドに依頼を振る時は必ず指名依頼という体裁を取っていた。
「いえ。今話がまとまったところなのでお気になさらず」
「そう? で何の依頼だったの?」
「あまり大きな声ではいえないのですがアレの件です」
「レオンがどうせ裏から手を回したんだろ? ありがとうな。わざわざ私に依頼を回してくれて」
うん。何のことだろう。
全くわからない。
アレって何?
何もわからない僕はとりあえず分かったふりをして返事をすることにする。
「うん。いいんだ。エリッサにもそろそろ経験を積ませたかったところだし」
「とりあえずアレの件はエリッサに任せておけば大丈夫だと思います。依頼の結果次第ではギルドマスターに動いてもらわないといけないかもしれませんが……」
「大丈夫だよ。もう手は打ってある。それにアレ自体には問題はないんじゃないかな?」
「と言いますと?」
「あくまで予想だよ。問題はアレの周りだと思うんだよね」
「なるほど……?」
エマさんの反応はもっともだと思う。
言ってる僕本人も何言ってるかわからないしアレが人なのかモノなのかはたまた別の何かなのか。
それすらもわからない。
「まあとりあえず調査はきちんとしてくるからレオンはゆっくり待っててくれよな」
「期待してるよ」
話についていけなくなったエリッサが部屋を出て行った。
まあ僕ももう話についていけてないから実質エマさんしか理解してないわけだけど……。
「とりあえずエリッサさんの件は置いといてです。ギルドマスターは書類仕事を終わらせましょうか」
ドサッと机の上に書類が積み上げられる。
見た感じいつもの倍以上の量がありそうだ。
逃げるのが賢い選択肢だろう。
僕はそう思いエマさんの方を向く。
「ハイ。ワカリマシタ」
エマさんの有無を言わさぬ圧に僕はそう返事をせざるを得なかった。
◆◆◆
「あれ? エリッサどこ行くの? 午後から私と鍛錬じゃ……」
「急に指名依頼が入ってな。すまん」
「へーエリッサにも特別依頼が入るようになったんだ。成長したね」
私はフィーネとマスターとの散歩を終え、エリッサと鍛錬をする為にギルド会館を訪れた。
「指名依頼の内容はなんだった? 何か大型の魔物の討伐?」
「いや? まあティナ先輩だけには話しとくか……。ここだけの話だけどデズ教会教皇の監視だよ」
「え?」
私は素っ頓狂な声をあげる。
最高の
「どうした? ティナ先輩なんだか顔色が悪いようだが……」
「い、いやなんでもない。その依頼私も手伝っていい?」
「ティナ先輩が手伝ってくれるならそれは助かるがいいのか?」
「うん。個人的に思うところもあるし」
「……わかった。エマさんには人数を多少増やしてもいいって許可はもらってるしな。ティナ先輩なら足手纏いになることもないだろ」
「ありがとう。準備してくるね」
私はそう告げると自宅まで駆け出した。
何故父が冒険者にしかも最高の
それを知る必要が私にはある。
そしてあわよくば放火犯に近づけたら……。
私はそんな気持ちを胸に秘め、食糧を鞄へと詰め込んだ。
————
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