記憶とおでかけと依頼
にこやかに私を見て微笑むお母さんとそれを見て嬉しそうにそれでいて照れ臭そうに笑う父。
そんなお母さんと父のことが大好きだった。
でもあの事件が起きて父からも私からも笑顔が消えてしまった。
轟々と赤く燃え盛る庭と家。
治癒の力を使える父が教会本部へと赴き、居ない時を狙った自宅への放火だった。
私が火の手に気がついたのは建物に炎がかなり回り、逃げ道を失ってからだ。
「お母さん! 起きてよ! ねぇ!」
倒れたお母さんに向かって必死に声をかける。
誰がどう見ても助からない火傷なのは明白だ。
時期に私も焼け死ぬだろう。
ならばと私願った。
「もし神様がいるのなら願わくばお母さんを助けられる力を……」
そこまで口に出したところで私も煙にやられ意識を失った。
◆◆◆
「夢……?」
随分と昔の不快な夢を見てしまった。
もうあんな優しい頃の父には会えないしお母さんにも会えないというのに……。
それにこの力だってお母さんを救えなかった時点で不要なものだ。
別に人を治せたところで放火の犯人を見つけることはできないのだから。
「はぁ……。昨日要らないことを考えたせいかもしれない。とりあえず最高の
気分が沈んだ時にはフィーネとマスターと一緒に出掛けて食べ歩きするに限る。
マスターは最近フィーネにお金を使いすぎな気もしなくはないが、気持ちはわかってしまう。
あの可愛さは反則だ。
「午後からはエリッサのダンジョン探索につきあわないといけないし」
私はマスター達と合流するべく宿を飛び出した。
◆◆◆
「フィーネ次は何が食べたいんだ?」
「んーとあれ!」
フィーネは最高の
素直に欲しいモノは欲しいというようになったし、嫌なことは嫌と言えるようになった。
僕に娘が居たらこういう感じなのだろうなと思いながらニコニコしている。
「そういえばぱぱ最近お仕事疲れてない?」
「うーん。まあいつもとそんなに変わらないかなー。ちょっと気になることもあるけど……」
「そういえばマスターエマが気にしてた。何が気になってる?」
「色々と変な噂をここ数日で聞くようになったんだよ。まあそのうち自分で調べるから2人は気にしないでよ」
「……マスターがそういうなら」
まさか『ティナの実家のデズ教会は人体実験をしているのか?』なんて聞けるわけもない。
それに別に噂の域留まっているならそれでいい。
僕としては止める権限も実力もないわけだし。
他の噂に関してもそうだ。
今はフィーネ達とのお出かけを楽しもう。
僕は気持ちを切り替えるのだった。
◆◆◆
「いいですか? これはエリッサさんにしか頼めない依頼です」
「そういう依頼をエマから貰えるのは嬉しいが……」
「では受けてもらえるのですね?」
「待て。それは依頼の内容を聞いてからだ」
まあそうですよね……。
私は内心少し落胆する。
二つ返事で受けてくれればかなり先が楽になったのですが……。
「依頼内容はデズ教会教皇グレイの素行調査。これはセストリア王国第一王女アルメリア様からの直接の依頼です」
「王女様から? 最高の
「ええまぁ。できれば最高の
デズ教会は昔から黒い噂が絶えないところだ。
王宮内の文官への賄賂やミストリナ帝国でのクーデター未遂、それに人体実験の噂。
流石にこれだけ様々な憶測が飛び交えば王宮とて動かざるを得ない。
「わかった。受けよう。ただし命に危険が及ぶと判断した時は中断する。それでいいか?」
「勿論です。報酬は期待していいですよ」
「それは楽しみだな。それで具体的にどうすればいい?」
私はエリッサに監視の方法と報酬の内容を伝えた。
とりあえずこれで事が次の段階に進みそうだと私は胸を撫で下ろす。
————
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