『フィーネ』と普通

「それでこの子が?」

「ええまぁ……」


 下手に最高の仲間達キャマラッドに帰ると僕自身の人間としての名誉が危ないと感じた僕はアルメリアが営む孤児院へと足を運んだ。

 残念ながらアルメリアは不在だった。

 そして経緯を聞いたシスターは驚いていた。

 かくいう僕もかなりびっくりしている。

 古代兵器オーパーツを開けたら幼女が出てきましたなんて誰に言ったら信じてもらえるんだろう?


「ぱぱこの人誰? 殺していい?」

「だめだ」

「何でこの子こんなに物騒なんですか……?」


 僕だって理由を知りたい。

 魔物や僕以外の人間を見るたびに物騒なことを言い放つ。

 なのに見た目はサラサラでふわふわな金色の髪と赤い瞳の幼女だ。


「と、とりあえずこの子名前とか無いんですか?」

「ない」


 僕が答える前に幼女が全部先に答えていく。

 僕としては楽だからいいんだけど。

 腐っても古代兵器オーパーツってことなのだろうか。

 そんなことを考えているとトタトタとアルメリアと話していた幼女が僕の方へと走り寄ってくる。


「ぱぱ名前決めて欲しい」

「僕でいいの?」

「うん」

「じゃあソラとかどうだ?」

「なんか嫌。次は?」


 自分の名前に次とかあるんだと僕は思いながら次の候補を考える。


「んー。じゃあフィーネとかどうだ?」

「フィーネ……。フィーネ。うん。しっくりきたから私は今日からフィーネ」


 こくこくと何回も首を縦に振り、頷いている。

 どうやら満足してもらえたらしい。


「それでフィーネちゃんはどうします? こちらでお預かりすることもできますが」

「フィーネはどうしたい?」

「フィーネぱぱと一緒がいい」


 こうして孤児院に預ける選択肢が無事に消滅した僕は幼女と暮らすことになった。


◆◆◆


 最高の仲間達キャマラッドに行くのがこんなに憂鬱な日が来るなんて僕は予想もしていなかった。

 最高の仲間達キャマラッドの仲間達はいつだって優しく僕を受け入れてくれている。

 きっと大丈夫だ。

 僕はそう確信し、ギルドホールのドアを開ける。


「おはようござい……ます……?」


 エマさんが開口一番に困惑している。

 エマさんの気持ちは痛いほど理解できた。

 僕だって今のギルドメンバーの誰かが幼女をギルドホールに連れてきたら固まるよ。


「マスターおは……よう……。それ誰との子供?」

「ぱぱこれ壊していい?」

「ギルマスついに結婚したのか!」


 朝からギルドホールは賑やかでいいなぁ。

 僕は遠くを見つめながらぐちゃぐちゃになった現状を収めることを諦めた。


◆◆◆


「え!? この子が昨日の古代兵器オーパーツ何ですか!?」


 エマさんの驚きの声がギルドホールに響き渡る。

 僕だって1日経って夢じゃ無いかなって目が覚めた時思ったよ。

 だけど僕の幼女が僕のベッドを占領してたし起きてからも話した。

 夢じゃなかったんだよ!


「マスターその幼女物騒過ぎない?」

「それは僕と思う」


 事あるごとに壊していいかとか殺していいかとか聞いてくるから気が滅入りそうではある。

 だけどフィーネは見た目だけは可愛い子供なのだ。


「ぱぱ……」


 不安になったのか、アルフレッドに抱かれていたフィーネが僕の元へと走り寄ってくる。

 ここだけを見るとただの可愛い子供なんだけどな……。


「それでフィーネだっけ?」

「うん」

「フィーネはどんな力があるの?」


 ティナがいい質問をしてくれる。

 僕はこの場に来るまでフィーネが古代兵器オーパーツであることを忘れていた。


「わからない」

「そんなことあるの?」

「フィーネは1000年以上封印されていた。だから記憶がとても曖昧。フィーネが覚えてるのはマスターの邪魔になるモノは消さないといけないことだけ」


 フィーネは意味ありげに僕の方へちらっと一瞥する。

 別に僕としては邪魔な物なんていないし無いわけないんだけど。


「僕は別にフィーネに何かを消してもらいたくて呼んだんじゃないんだ」

「じゃあフィーネは要らない子ってこと……?」

「違う。フィーネは普通に生きればいいんだ。僕と同じようにね」

「普通……。それは命令?」

「命令だ。フィーネは普通に生きてみろ」


 結構な無茶を言っている自覚はある。

 だけどこんな幼い子供に重い使命を持たせる必要はない。

 僕と同じように普通に生きてくれれば僕はそれだけで満足だ。







————

いつもご覧いただきありがとうございます!

星ブクマハートくださる方と読んでくださっている方に感謝を!


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る