やっぱりギルドマスターを辞められない

 チャンピオンに何故か勝ってしまった僕はティナの元へと戻ることにした。


「マスターすごかった。あの指輪が秘策だったんだよね」

「いやあの指輪は――」


 弁明をしようとしたタイミングでデズ教会教皇補佐ケインが話しかけてくる。


「【慧眼の担い手】様双方共に素晴らしい腕じゃった。これなら【慧眼の担い手】様を推薦しても……」

「待ってください。双方ってなんですか?」

「惚けなくてもいいんですじゃ。アルメリア王女殿下を救った手腕見事じゃったぞ。ではまた何処かで」


 本当に身に覚えがない。

 一体全体この爺さんは何の話をしているのだろうか?

 僕は首を捻りながらアルフレッド達との合流場所へと向かった。


◆◆◆


 アルメリアはどうやら体に傷等はないらしく、精神的にも特に何もない様子だった。

 曰く『慣れていますから』ということらしい。

 王族も王族なりの苦労があるのだなと僕はボーッと馬車から流れる景色を見ながら考えていた。


「それにしてもあんたいつアルメリア王女が誘拐されることに気がついたのよ?」

「僕は知らなかったよ。アルフレッドが優秀だったから気がつけたんだ」

「あくまでそういうことにするのね……。一緒に助けたんだから種ぐらい教えてくれてもいいじゃない!」

「そう言われてもな。僕もまさかそんなことになってるなんて思いもしなかったから」

「あくまで知らんふりってわけね。わかったわ。やっぱりあんたのことは嫌いだわ!」

「まあまあ【星屑】殿ギルマスの秘匿主義はいつものことです。あまり気にしすぎても良くないですよ」


 本当に何も知らないだけなのに酷い言われようだ。

 というかそう言ってるアルフレッドはどうやって気がついたんだろう……。

 やっぱり僕がギルドマスターをやるよりアルフレッドがやった方がいいんじゃないか?

 よし、最高の仲間達キャマラッドに帰ったら提案してみよう。

 これでギルドマスターを辞められるはずだ。


◆◆◆


 セストリア王国に戻ってきた僕達を待っていたのはセストリア王からの呼び出しだった。

 結果無事だったとはいえ、アルメリアを危険な目に晒したのだからペナルティの1つや2つは覚悟しなければならないだろう。

 僕はじっとセストリア王の言葉を待つ。


「【慧眼の担い手】まずは娘のアルメリアを救ってくれたこと嬉しく思う」

「勿体なきお言葉です」

「それとは別に――」

「覚悟はできております」

「褒美を……え?」

「ペナルティ……え?」


 僕の考えていたことは外れた。

 セストリア王は護衛としての仕事を全うできなかった僕らに褒美を下さるらしい。


「待て。娘を救ってもらっておきながらペナルティを課したりはせん。それに【慧眼の担い手】、ミストリナ帝国のコロシアムを優勝しただろう?」

「はい」

「あれは騎士団長であるメルメスの悲願の1つだった。だが奴は今遠征任務で席を外しておる。だからメルメスに代わって我から褒美を取らせる。何が良いか申してみよ」


 どうやらセストリア王が懇意にしている騎士の悲願だったらしい。

 確か褒美を選ばせてもらえる時は偉い人に委ねるのが正解だってサラが言ってた気がする。


「私自身が選ぶなどとは恐れ多くて出来ません。セストリア王にお任せいたします」

「うむ。では――」


◆◆◆


 最高の仲間達キャマラッドに帰ってきた僕はセストリア王からの褒美をとりあえず置き、Sランク冒険者とエマさんを招集した。


「皆、帰ってきたばかりで申し訳ない」

「いえそれで用件とは何でしょう?」

「僕はギルドマスターを辞めることにした!」

「えーと今回の功績が認められてギルドマスターを後3ヶ月は辞められないはずですけど」

「え?」

「え? マスター知らなかったの? 王から報酬を直接与えられた者の退任を3ヶ月禁ずってギルド規約に書いてる」

「そんな……」


 どうやら僕はまだギルドマスターを辞められないようです。






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