【碧眼の勇者】の離業と救出
「本当にあった……」
「姉さんの予想の精度は相変わらずですね」
僕達は【碧眼の勇者】の予想をもとに黒銀の翼のアジトへと辿り着いた。
アジトはさほど大きくない一軒家を少し縦に伸ばしたような大きさだ。
姉さんが【碧眼の勇者】として崇められてある理由の1つがこれと言えるだろう。
戦闘能力の高さもさることながら物事に対する予想が予知の領域に片足を突っ込んでいる。
【占星】ソフィリアほどではないにしろ常人からしたら鳥肌が立つほどの精度だ。
「このぐらいは出来ないと『最強』にはなれないからね。さて、行きましょうか」
「待って! 作戦は? 人質がいるかも知れないのに……」
「メアリーさんは心配性なんですね。大丈夫ですよー。私とアルフレッドがいれば人質が何人居ようと助け出せますから」
姉さんの目は本気だ。
それだけ自信があるのだろう。
僕もみすみす人質を死なすようなことはしない。
そもそも護衛として雇われておきながら、アルメリア王女殿下を攫われたこと自体が恥と言える。
怪しい動きを察知した時点で追うのはではなく、アルメリア王女殿下を守りに行くべきだった。
「弟君もやれるよね?」
「勿論です」
僕がやるべきことはアルメリア王女殿下を救い、黒銀の翼とやらを壊滅させることだ。
◆◆◆
アジト内部へと侵入するのはさして難しいことではない。
アジトの入り口の警備をウルフに任せていたせいで姉さんの強さに怯えたウルフは犬の如く、腹をこちらに向け降伏した。
『私いつも動物に近づくとあんな感じになっちゃうのよねー』と姉さんは言っていたが、『それはそうだと思います……。姉さんの纏う雰囲気は普通の人間を逸脱してますし』とは僕の口からとても言えなかった。
◆◆◆
アジトの内部ではほとんど戦闘になることなく、アルメリア王女殿下が囚われているであろう部屋まで辿り着いた。
部屋の入り口には鍵がかかっており、強固な魔法に対する耐性もあるせいで【星屑】メアリーでも中々苦戦を強いられていた。
痺れを切らした姉さんが前へと踏み出す。
「2人とも少し下がっててねー」
姉さんの言う通りに2人共後ろへと下がるとそれを確認した姉さんがおもむろに腰のカタナを抜く。
姉さんは昔に父が極東からカタナを仕入れてから気に入り、以来ずっとカタナを愛用している。
「……ふー」
一呼吸。
姉さんにはそれだけで十分だった。
凄まじい轟音と共にアルメリア王女殿下が居るであろう部屋の上半分を切り飛ばす。
扉はまるで初めからそこになかったかのように変形し、吹き飛んでいた。
部屋の中でアルメリア王女殿下を目張っていたであろう黒銀の翼の構成員は全員首から上が無くなり、倒れている。
だが気を失って椅子に座らされていたアルメリア王女殿下は無傷だ。
……人間にできるとは思えない離業。
「お姉ちゃん久しぶりの弟君の前だからちょっと本気出しちゃった。メアリーちゃん驚かせてごめんね?」
「い、いえ……」
【星屑】メアリーの目にも化け物に見えたのだろう。
同類のSランク冒険者からみても桁が違う。
これが帝国最強の冒険者【碧眼の勇者】だ。
◆◆◆
「思ったより小さな組織だったわねー」
アルメリア王女殿下と一緒に囚われていたミストリナ帝国宰相アッシを救い、黒銀の翼を壊滅させた姉さんは飄々としていた。
なんならもう1つぐらい同じ組織が出てきても簡単に滅ぼすだろう。
「まったくギルマスといい姉さんといい本当に敵わないな……」
僕はボソリとそう呟く。
「弟君何か言ったー?」
「いえ何も。それよりいつギルマスと会いますか?」
こうして僕達は無事にアルメリア王女殿下を取り戻すことに成功した。
ただ僕の心の中にはしこりが残った。
そんな気がする。
————
いつもご覧いただきありがとうございます!
星ブクマハートくださる方と読んでくださっている方に感謝を!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます