ドラゴンと痛む心臓(side【星屑】メアリー

「ギルマスはアルメリア王女殿下の護衛を! ティナと【星屑】殿行くぞ!」


 護衛をと言われても僕ができることなんてアルメリアの不安を少しだけ取り除くぐらいなものだ。

 戦闘面だと本当になんの役にも立てない。

 ブルードラゴンの羽ばたきによって揺れる車内で僕はアルメリアに話しかける。


「アルメリア殿下大丈夫ですか?」

「大丈夫ではないです……。そもそも竜の谷を通るのであれば私は先を進む進言なんて」

「アルメリア殿下は冒険者としての知識がなかったので仕方ないかもしれませんが、あそこの野営地点を過ぎると次は帝国近くの町を目指さねばならなくなります。理由はわかりますか」

「いえ……」

「貴女を安全に護衛できなくなるからです。1番初めにアルフレッドが選んだあそこは見晴らしがよくて野盗が襲いに来ても先手を取って対応できました」


 それから先のセストリア王国からミストリナ帝国近くの町にはそういうポイントが存在しない。

 だからこそアルフレッドはあそこを選んだ。

 まあ僕もサラとミストリナ帝国に行くことがなかったら知らなかった知識だし仕方ないとも言えるんだけど……。


「私はとんでもないことを進言してしまったのですね……」

「大丈夫とは言いませんが、そういうことに対応する為にSランク冒険者の皆がいるので」

「レオン様は戦わなくて大丈夫なのですか? 父上からお話を聞く限り貴方がセストリア王国で1番お強いと伺ったのですが」


 アルメリアというかセストリア王まで勘違いしているらしい。

 僕はただの【銀灰の英雄】のおまけだ。

 【銀灰の英雄】が引退した今、僕はただの弱いギルドマスターでしかない。


「アルメリア殿下僕は……」


 そう言いかけた瞬間、馬車が大きく左右に揺さぶられる。

 何かに掴まっていないとそのまま馬車から放り出されそうな勢いだ。

 さっきの羽ばたきによる揺れとは大違いで何かがぶつかったような威力があった。


「アルメリア無事?」


 揺れが収まり、少しするとティナが馬車の中へと駆け寄ってくる。


「なんとか無事です」

「ティナ何があった?」

「【星屑】が無理やり重力の魔法でドラゴンを押し潰そうとして回りの地面が無くなった」

「あぁそう……」


 ブルードラゴンの攻撃ではなく、安心したもののあの少女もきちんとSランク冒険者なのだなと実感する。

 魔法1つでお手軽に地形を変えないでほしい。


「とりあえず私は戻る。マスター達はここから動かないで」

「ハイ」


◆◆◆


「ブルードラゴンと対峙するのは久しぶりですね」

「【剣聖】それ私達、天命のエデンズサンダーのこと馬鹿にしてるわけ?」

「あぁ。そういえばあの時もブルードラゴンでしたか」


 私は最高の仲間達キャマラッドのことが嫌いだ。

 ギルドマスターであるレオンもそうだが、【聖女】を除いて全員が力を持っているのにそれを誇示しようともしない。

 それを見ていると過去の自分達を咎められているようでとても虚しい気分になる。


「とりあえず先制攻撃は私がするわ!」

「どうぞ。元より僕の剣では空を飛んだ状態のドラゴンに対して不利ですから」


 嘘をつけと私は内心毒を吐く。

 この化け物が毎回単独でドラゴンを狩っているのはどこのギルドでも有名な話だ。

 そんな男が空を飛んでいるドラゴンに対して有効策を持っていないわけがない。

 私はそう思いながら重力の魔法を発動させる。


「これはあの時の……」


 【剣聖】が何かを呟いているが知ったことはない。


「落ちろぉぉぉぉぉー!」


 数秒後、ブルードラゴンは目論見通り地面へと叩きつけられる。


「素晴らしい。成長しましたね」


 そういう【剣聖】から頭を撫でられる。

 突然の行動に私の脳がフリーズした。


「何上から目線でモノ語って頭撫でてんのよ!」

「これは失礼。癖みたいなものでして」

「どうでもいいから早くとどめを刺してきなさい!」

「では」


 【剣聖】が大きく振りかぶり剣を振り下ろす。

 その所作1つ1つが美しく、私達がブルードラゴン討伐に失敗した時と変わらない……いやその時よりも美しく磨き上げられた動きだ。

 振り下ろされた剣は真っ直ぐにブルードラゴンの鉄よりも硬い首を切断する。


「綺麗……」


 私は思わずそう呟いた。

 【剣聖】の太刀筋を見るたびに心が躍り、さっき頭を撫でられた時から何故か心臓の音がうるさい。

 【剣聖】に会うたびにこうなるから最高の仲間達キャマラッドのことは嫌いなのだ。


◆◆◆


 ブルードラゴンを退けた僕達はそこからもドラゴンの恐怖に怯えつつ、ミストリナ帝国近くの町へと無事に到着した。

 どうやらドラゴンも自分達の住処を破壊し尽くした人間に手を出すつもりがなくなったらしく、ブルードラゴンとの戦闘からは一切近づかれることもなかった。


「アルフレッド様。本当に申し訳ありませんでした」

「お気になさらずに。我々はその為に雇われているのですから」


 アルメリアのミスで自分達が襲われたというのにアルフレッドは気にすることなく許した。

 僕達にも謝られたが、僕以外は特にドラゴンに対して恐怖を持ってない輩なので問題はない。

 僕だって別に怒ってはないし。

 こうして波乱の1日が終わりを告げた。



————

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