進言と竜の谷
「ところでレオンさんはティナのことどう思ってますか?」
僕はミストリナ帝国へと出発した馬車の車内でアルメリアと雑談をしていた。
ティナのことをどう思っているか……。
大切な仲間だとは思うが、それ以下でもそれ以上でもない。
勿論、感謝もしているし、それを裏切るつもりはないけど。
「大切な仲間ですね」
「仲間……ですか」
何か言いたげなアルメリアを横目に僕は外の景色に目を向ける。
多分、アルメリアは僕にティナに対する恋心でも期待してたのだろう。
でも僕はもうサラで懲りた。
特別な感情なんて向けても向けられてもお互いが困るだけだ。
それっきりアルメリアとの会話はなくなってしまった。
◆◆◆
「今日はここで野営をしましょう」
アルフレッドが馬車を止め、全員に告げる。
Sランク冒険者はほとんど野営をしない。
全員が強すぎて目標の敵を倒して帰ってくるまでに1日かからないから。
反面、アルフレッドはSランク冒険者でも手を焼くドラゴン討伐のエキスパートだ。
だからここに居るメンバーの誰よりも野営に慣れている。
だからこそ【星屑】含めた僕達は大人しくアルフレッドの言うことを聞けるわけだ。
「あのアルフレッド様」
「何でしょうか? アルメリア王女殿下」
「不躾ながらまだ日はあるように見えます。それに帝国までの道のりは長いです。こんな早く休んでは工程通りにいかないのではないですか?」
意外にもアルメリアはここで野営をすることに反対のようだ。
確かにまだ日は高い。
流石の僕でもここで野営する理由は説明できる。
だけどアルフレッドの答えは意外なモノだった。
「そうですね。では先を急いでみましょうか」
『え?』
アルメリア含め、全員の声が重なる。
ここで野営をしないということは次にいい条件の場所か町が見えてくるまで下手をしたら、夜通しで移動することになる。
「アルフレッド本当に良かったのか?」
「まあ一度経験しておかないとアルメリア王女殿下もわからないでしょうからね」
どうやらアルフレッドは今日の睡眠時間を犠牲にアルメリアに野営の大切さを徹底的に説くつもりらしい。
僕達も巻き込まれることにはなるが、これからのことを考えたらそちらの方がリスクが減る。
「上手くやってくれよ」
「勿論ですよ。それに【星屑】メアリー様は最高の
アルフレッドはイケメンスマイルを僕に向け、御者へと戻っていった。
◆◆◆
数時間後の僕達は酷いものだった。
さっきアルフレッドの提案した場所を超えて安全な地帯に入るには竜の谷と呼ばれるドラゴンの群生地を超えなければならない。
そして今僕達の馬車の頭上には50匹前後のドラゴンが飛び回っていた。
「レオンお前のところの【剣聖】どういう思考回路してるのよ!」
正直メアリーが怒るのもわかるよ。
僕も最高の
「どうって言われてもね……」
「アルフレッドにも考えがある。そもそも野営を止めるように進言したのはアルメリア」
「そうだけど王女様を責めれないでしょ!」
意外と常識はあるんだなと僕はいつも噛みついてくる金髪碧眼の【星屑】メアリーを見つめながら思う。
「とりあえず竜の谷に足を踏み入れちゃった以上は走り抜けるしかないよ。こんなところで野営をしたらそれこそ命が何個あっても足りないし」
僕達がこんな話をしている時にアルメリアはというとひたすらにドラゴンに怯えていた。
Bランクに上げるまでにそこそこの場数をサラと踏んだ僕ですらドラゴンは怖い。
それを箱入り娘の王女様に見せたらそうなるだろう。
実際の話、今日無理やり行軍しようとしなければ竜の谷を避けて通れた。
つまりはアルメリアの自業自得なわけで。
「あっ」
そのまま外のドラゴンの様子を眺めていた僕は異変に気がついた。
ブルードラゴンが1匹こちらに飛んできている。
「アルフレッド! まずい! 1匹こっちにきてる!」
馬車の中に緊張感が走る。
ブルードラゴンはドラゴンの中で最弱種とはいえ、その力人間なんて一撃で殺せてしまう。
Sランク冒険者でさえ、油断していると下手をしたら死ぬ。
「あれは様子見でしょう。ただもう一度こちらへ飛んでくると危ないですね」
ドラゴンの習性にも詳しいアルフレッドが解説してくれる。
どうやら今はまだ大丈夫らしい。
ホッとしたのも束の間、馬車の上空を飛び去ったブルードラゴンがこちらへと戻ってくる。
「アルフレッド……あれ戻ってきてないか?」
「……どうやらやりあわないといけないらしいですね」
どうやら僕達はアルメリアを守りながら最強種の1体と戦わなければならないらしい。
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