【慧眼の担い手】と王からの依頼

 ティナのご飯を作り続け、数日。

 ようやくお目当ての王都が見えてきた。

 この数日間、グリフォンに襲われかけたりレッドドラゴンに襲われかけたり散々だったが、そんな疲れも一瞬で吹き飛びそうな活気が王都にはある。

 

「マスターのご飯もここでおしまい……」


 残念がっているティナを置いて僕は王都へと降り立つ。

 噂には聞いていたが、これは想像以上だ。


「こんなことならもっと早くきておくべきだったな」

「マスター私はいつも1回は行った方がって言ってた。なのにマスターいつも丸投げで……」

「それは本当にごめん。王都でご飯でも奢るから許してよ」


 確かに丸投げだったなと僕は少し反省する。

 適材適所だと思い込んで王都での呼出はティナに任せることが多かった。

 理由はティナが王都でもっとも力を持つデズ教会教皇の娘だからだ。

 それだけにティナの王都での権力は絶大なものになる。

 だから僕は最高の仲間達キャマラッドが悪い方向に転がらないように王都の用事はティナに頼むことにしていた。


「ティナは実家に顔を出さなくていいのか?」

「……いい。あそこは別に楽しくない」

「そうか」


 ティナにも色々とあるのだろう。

 僕は深くは聞かずに王宮へと向かった。

 今日の用事は別にティナの実家に顔を出すことではないのだから。


◆◆◆


「お主が【慧眼の担い手】か」


 王宮へと着いた僕は珍しくトラブルらしいトラブルもなく、セストリア王に謁見していた。

 そして封印していたはずの2つ名を呼ばれ、悶絶もしていた。

 冒険者の2つ名は基本的にSランク冒険者にしか与えられない。

 地位と名誉を併せ持つ特別なものだ。

 それを何故Bランク冒険者風情の僕が持っているのかというとこれもまたサラの実績のおかげといえる。

 ちなみに知っている全員を口止めしているので、最高の仲間達キャマラッドのメンバーには話したことはない。

 だからか隣で跪くティナにも驚きの表情が宿っていた。


「はい。私が【慧眼の担い手】兼最高の仲間達キャマラッドマスターのレオンです」

「噂は聞いておる。今回お主を呼び立てたのは【銀灰の英雄】の件……」


 そうだよなと僕は思う。

 【銀灰の英雄】の後埋めや何故【銀灰の英雄】が辞めたかの聴取が必要だ。

 そして過去1番【銀灰の英雄】サラに近かった人物が僕だ。

 何か唆したのではないか、そんな容疑が掛かっても不思議ではない。


「と行きたかったが今日は別の用がある」

「はい……?」


 てっきりサラのことだと思い込んでいた僕は少し頓珍漢な声を出す。


「お主冒険者として登録はしておるな?」

「ええ。ランクはBですが」

「ならよい。要件はメルストリア国際会議で我が国の姫が出席する。そこまでの護衛依頼を頼みたい」

「それはうちのSランク冒険者にでしょうか? それとも【銀灰の英雄】に?」

「いやお主にじゃ。【慧眼の担い手】はランクこそ低いが、凄腕の冒険者だと聞く。そんなそなたになら任せられるじゃろう」


 いやいやいや王様?

 仮にも一国の王女を預けるんですよ?

 もっと実績がはっきりあるSランク冒険者に依頼しましょうよ!

 なんてことを言えるはずもなく、僕は無言で頷く。

 例え、王がカラスは白いと言ったら白なのだ。

 僕は長いものには巻かれる主義だからな。


「おお! 受けてくれるか!」

「ええまあ……。ただ数人うちのギルドから人をつけてもいいですか?」

「それは勿論だ。近衛からも何人か選別する。出発は明後日明朝じゃ」

「わかりました……」


 こうして断る暇もなく、僕は王女様の護衛を引き受けることになった。

 一体全体どうしてこうなったのだろう……。



————

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