王都へ

 どうしてこうなったのだろうと僕は王都へと向かう馬車の中で頭を抱えていた。

 時は数時間前まで遡る。


◆◆◆


「レオンお前何やったんだ? ギルド本部でもお前が笛1本でドラゴンゾンビを倒したって話で持ちきりだぞ?」

 

 【常闇の安寧】から帰還した僕達は【常闇の安寧】のボスが大幅に強くなっていることをギルド本部へと報告しにきていた。

 ダンジョンへ挑み、適正難易度が変わっていたら報告するのもギルド本部に所属するギルド会員の仕事の1つだ。

 そして僕は今、サムさんにドラゴンゾンビを倒した方法を問われていた。


「何をやったと言われましても……」


 僕にもわからない。

 勝手に光って音を撒き散らす笛がドラゴンゾンビに突っ込んだかと思ったら次の瞬間にはドラゴンゾンビが消えていた。

 

「わりい。冒険者は手の内を明かしたら終わりだったな。お前がBランクでランクを止めてるのにも何か理由があるんだもんな……」


 冒険者にとって自身の手の内を晒すというのは悪手だ。

 それが真似れる技術であるとすれば真似をされるだけで自分が冒険者という職で食べていけなくなるかもしれない。

 それほどのリスクを秘めている。

 だけど残念ながら僕にはそういったものは何もない。

 僕はいつだって真面目に目の前で起きたことを報告しているだけなのに……。


「あーそうだ。レオン、お前に王宮から招集命令がきてる。いつもはこっちで断ってたんだが……」


 流石にそろそろ逃げられないらしい。

 いつもは【旋風演舞】ラカンに全部任せていたツケが回ってきた。


「わかりました。これ以上、ギルド本部のメンツを潰すわけにもいかないし行きますよ……」

「そうか! これで王宮から圧力をかけられずに済む! 馬車は下に用意してあるからすぐに出発してくれ」


 気がついた時にはギルドメンバーに何処へ行くかも告げる暇なく、馬車の中に押し込まれていた。


◆◆◆


「で、なんでティナも一緒なわけ?」


 僕が馬車の中で頭を抱えていた理由の1つがこれだ。

 別に王都に行くのは面倒くさがってただけでそのツケが来たと考えたら問題ない。

 だけどティナを連れてくるのだけは避けたかった。


「マスターの護衛。正確にはギルド本部からマスターが変なことをしないか見張ってろって」


 同じギルドのSランク冒険者が果たして見張になるかは置いといてだ。

 【聖女】なんて呼ばれてるティナにも1つだけ弱点がある。

 それは壊滅的に家事全般ができないことだ。

 ご飯を作ろうとすれば鍋が爆発するし、掃除をしようとすればバケツをひっくり返す。

 冒険者として成功してなければ間違いなく、住む家すら失っていただろう。

 だからこそ目を離したら何をやるかわからない以上、王都に着くまでの数日間、僕がティナのご飯や洗濯の面倒を見なければならない。


「マスターの作るご飯は美味しいから期待してる」


 そうやって目を輝かせて言ってくるティナは可愛いがここでもう1つ付け足しておかなければならない。

 ティナは小柄な割にとてもよく食べる。

 普通の冒険者の5人前といったところか。

 それだけの量を王都に着くまでの数日間、僕が用意しなければならない。

 つまりティナを護衛にすると護衛される側の方が疲れるというよくわからない現象が発生するわけで。


「僕はティナのご飯を作りに王都に行くわけじゃないんだけどな」

「マスター何か言った?」

「いやなにも……」


 そんなことをぼやきながらティナと僕を乗せた馬車は順調に王都へと向かっていた。



———

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