合流とドラゴンゾンビ

 勝手に開いた扉を光りながら音を撒き散らす笛と奥に進むにつれ戦闘音が徐々に聞こえてくる。

 どうやら前に入ったパーティーがまだ戦闘中だったようだ。

 戦闘音が聞こえた時点で獲物の横取りにならないようにその場で留まろうかと考えたが、笛の暴走が止まらない。


「おい! 獲物の横取りをしたらサムさんから怒られるだろ! 止まれって!」


 僕は慌てて笛を追いかける。

 本当に獲物を横取りしてしまったらサムさんからの大目玉どころでは済まない。

 獲物の横取りは冒険者にとってもっとも重い罪の1つだ。

 それこそ殺人や横領と同等かそれ以上とされている。

 このままじゃギルド本部で『光と音を撒き散らしながら空を飛ぶ笛を制御できませんでした』なんて意味のわからない弁明をしないといけなくなる。

 それだけは避けなければいけない。

 僕は必死に笛を追いかけ、遂に他のパーティーが戦っている場所まで辿り着いてしまった。

 

「マスター……?」

「レオン?」

「え?」


 だがそこに居たのは知らない他のパーティーではなく、はぐれたはずのティナとエリッサだった。


◆◆◆


 私の予想通りマスターは半刻では来なかった。

 エリッサへの試練だから当然といえば当然かもしれない。


「では先に挑戦するぞ」

「わかった。ただ絶対に気を緩めないで。マスターのことだから何か策は考えてるとは思うけど……」

「わかった。一応警戒はしておこう」


 そうは言っているが、エリッサは油断している。

 確かに本来であれば【常闇の安寧】に出てくるボスは弱い。

 【常闇の安寧】がAランクダンジョンに定められているのはそのギミックと道中の魔物の強さだ。

 ボス自体に強さはそこまでなく、道中で夜目になったAランク冒険者であれば簡単に突破できる。

 もっともそれ以下のランクの冒険者であればかなり苦戦は強いられるが。


(だけどさっき感じた雰囲気は明らかに違った。あれはもっとレッドドラゴンやグリフォンに近いモノ……)


 私は嫌な予感を感じながらもエリッサとボスへと挑むのだった。


◆◆◆


 ボスの討伐は順調に進んでいた。

 出てきた魔物も【常闇の安寧】に出てくるボスであるレッサーバットという蝙蝠型の魔物1匹だけ。

 あまりにも手応えがなさすぎる。

  

「あまりに手応えがなかったな」

「そう。なら貴女はAランクは確実にある。私は特に……」


 そこまで言いかけたところで周りの温度が突如、急激に下がるのを感じる。

 本能が今すぐにこの場所から飛び退けと警告している。


「エリッサ避けて!」


 私の声に弾かれたかのように反応したエリッサは何とか天井から降ってきた化け物に潰されることなく、避けた。

 私も後数秒避けれるのが遅れていればあれの下敷きだっただろう。


「エリッサ動ける?」

「あぁ。なんとかな……」

「治癒が必要ないならとりあえず私が気を引いて隙を作るから、なんとか精霊魔法を打ち込んで」


 私はそれと同時に駆け出す。


 (マスター……。いくら試験でも前衛じゃない私と前衛じゃないエリッサにドラゴンゾンビの相手をさせるのは過酷すぎると思うんです……)


そんなことを考えながら。



———

想像よりも伸びててビビっています。

星ブクマハートをくださる方々に感謝を!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る