Sランク冒険者とはぐれるダンジョン探索
拝啓お父様お母様お元気でしょうか?
僕は今適正外のダンジョンでSランク冒険者とはぐれて死にかけています。
目の前にはサイクロプス、背後にはワイバーンの鳴き声。
僕はどうしてこうなったのかを思い出す為に一度ダンジョンの床へと腰を下ろす。
時は【常闇の安寧】の入り口に入ったところまで遡る。
◆◆◆
僕達3人はごく普通にダンジョンへと入ることができた。
入り口でギルドカードを提示して僕だけが渋い顔をされたもののいつものことだ。
脅威はあると色々エリッサには説明したが、その実ティナぐらいの冒険者であれば目を瞑ってでも踏破できる難易度だ。
だから僕としては安心しきっていた。
何故ならどう転んでも僕が死ぬことは宝くじが当たることと同じぐらい低いから。
実際、ティナにはそれぐらいの力がある。
僕は余裕ぶって鼻歌を歌いながら2人が魔物を殲滅していく様を見つめていた。
「マスターいくら私が強くても気は抜かないで」
「そうだぞ。いくらティナが強者とはいえ何が起きるかわからない。気を抜くのは感心しないな」
2人の言うことはもっともだが、万一なんてそうそう起こり得ない。
奇跡は起きないから奇跡なのであり、それは不幸によっていても同じだ。
そんなことを考えながら歩いていた時のことだった。
「マスター! 下がって!」
現実に引き戻されたのはティナの珍しい大声に驚いたからかそれとも転移の罠を踏んだからか。
未だに自分でもわかっていない。
僕は咄嗟に同時に罠を踏んだであろうエリッサを罠の外へと押しだす。
咄嗟に伸びたティナの手は残念ながら僕には届かなかった。
◆◆◆
そして目が覚め、現在に至ると。
「まあどう考えても死ぬな……」
僕は目の前を通り過ぎていくサイクロプスを横目に意外にも冷静だった。
人間どうしようもなくなると逆に冷静になれるものなんだなと感心する。
「ティナと合流しようにもランタンはないし暗視の魔法は使えないしなぁ。どうしたものか」
どうしたもこうしたも何もないわけだが。
僕には残念ながらサイクロプスを倒す力もなければ魔法もない。
残念ながら能力を隠していてピンチの時は最強になれるなんてこともない。
僕が今できることは震えながらティナを待つことぐらいだ。
そんな後ろ向きな結論を出した時、僕はふと1つ大切なことを思い出した。
『マスター、ピンチになった時はこれ使って』
『ギルドマスターは弱いからな。俺らからの普段の感謝ってやつだ』
『死なれたら困るしね。俺達3人分の力が込められてるから』
そんなことを言いながら3人からそれぞれ何か貰ったような……。
僕は自分のポケットを探り、目当てのものを見つける。
ティナからは笛、アルフレッドからはペンダント、ラカンからは指輪。
それぞれどういう効果か聞かなかったが、とりあえず今はそれぞれ試してみるしかないだろう。
「笛は音が鳴るから後回しだ。まずはペンダントから使ってみよう」
そんな独り言を言いながらペンダントを首からかけてみる。
……数秒待ってはみたが何も変化はない。
「アルフレッドが不良品を寄越すなんて珍しいな……。気を取り直して次は指輪だ」
指輪を小指へとはめる。
ペンダントと同じで数秒待つが、何も変化はない。
「ラカンまで不良品を渡すなんて明日は雨かな? ハハハ……。ティナ、僕は君を信じてるからね?」
僕は最後の希望を託し、笛を吹く。
吹いているはずなのに音が聞こえないし何も起きない。
笛としても欠陥のある品あるんだなと僕は諦める。
Sランク冒険者達が揃いも揃って何も起きない品を渡すなんてもしかしたら、あれは彼らなりの冗談だったのかもしれない。
僕はそんなことを考えながら床に笛を置く。
次の瞬間、笛がとてつもない輝きを放ち、狂ったような音色を放つ。
「え?」
僕はそんな素っ頓狂な声をあげてしまった。
何故なら笛の音色を聞いた魔物が勝手に爆発していたから。
「これなら脱出できるかもしれない」
僕はティナに感謝しながら密かにそんな希望を抱くのだった。
——
嬉しいことに異世界日刊60位ぐらいでした。
これもひとえに応援したくださっている皆様のおかげです。
いつもハート星ブクマありがとうございます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます