ダンジョン【常闇の安寧】

「ギルドマスターおかえりなさい。隣の方は?」

「えーと、【銀灰の英雄】絡みで押し付けられたといいますか……」

「……失礼します」

 

 エマさんがそう言いながらエリッサのフードを外す。

 途端に騒がしかったギルドホールがしんと静まり返る。


「エルフ、ですか」

「まあそうとも言います。自己紹介してもらってもいいですか?」

「エリッサ。精霊魔法が得意で冒険の力にはなれると思うから気軽に話しかけて」


 エリッサの自己紹介が終わっても尚、場は凍りついている。

 エルフというのはそれだけ珍しいのに加え、人類にとっては近づき難い存在なのだろう。


「エリッサ君、どれぐらい精霊魔法を扱えるかね?」


 そんな沈黙の中でもSランク冒険者は臆さない。

 僕は内心ラカンに感謝しながらことの成り行きを見守る。


「そうだな。Sランクと言われる人達レベルではないけれど、ソフィリアにはAランクはあるんじゃないかって言われた」

「ソフィリアっていうとギルド本部の【占星】か! それはすごいな」

「エリッサ、私と一度ダンジョンへ行こう」


 横からティナが会話へと割り込んでくる。

 余談だが【剣聖】アルフレッドは依頼でギルドにいない。


「君はえらく小さいが君みたいなのも冒険者なのかな?」


 少し和んだ雰囲気がまた凍りつく。

 ティナに対してそれは禁句中の禁句だ。

 多分僕でさえ、そんなことを言ったら数週間は口をきいてもらえないと思う。


「エリッサ面白いこというね。私の実力見せてあげるからギルマスと一緒にダンジョンに行こう」

「いいよ」

「ティナ毎度言ってるけど僕をダンジョンに連れていくのは……」

「そうと決まれば早速いこう。荷物はまとめてある」


◆◆◆


 どうしてこうなったのだろうか。

 僕はAランクダンジョン【常闇の安寧】の入り口で立ち尽くしていた。


「マスターは守るから安心して。というか【銀灰の英雄】と来たことぐらいはあると思ってた」

「あるにはあるよ。ただあの時は怖いもの知らずだったしそもそもとして僕自身の実力を理解してなかったから」

「レオンにもそんな時期があったのか」

「ええまぁ。エリッサさんは怖くないんですか?」

「怖くないと言われると嘘になる。だけど今は期待の感情が勝ってると言ったところ」


 この人は強いなと僕は勝手にそんなことを思う。

 多分無謀と勇気を履き違えいた時の僕よりも心が強い。


「それでここはどういうダンジョン?」

「ここは【常闇の安寧】って言って常に暗闇でモンスターが襲ってくるんだ。別にそれだけだったらBランクぐらいなんだけど」

「問題はそのモンスターの強さと精神状態にある」


 そうなのだ。

 別段これぐらいのギミックだけなら僕1人でもクリアできないことはない。

 ただしそれは暗闇で襲ってくるモンスターがゴブリンやスライムの場合だ。

 ここ【常闇の安寧】で襲ってくるのはワイバーンやサイクロプスと言ったAランクで1人で視界がある状態でも苦戦する化け物ばかりだ。


「つまりここは1つミスをすると死ぬってことだ。エリッサも気をつけてな」

「うん。気をつけよう」

「じゃあいくよ。準備はいい?」

 

 ティナの掛け声に僕とエリッサは同時に頷く。

 久しぶりのダンジョン探索だが、ティナがいる限りは大丈夫だ。

 そう自分に言い聞かせながら。

 

——

びっくりするぐらい伸びてて少し驚いてます。

皆さまいつも星、ブクマハート等本当にありがとうございます!

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