罰ゲームとエルフ

「僕は最高の仲間達キャマラッドのギルドマスターだ。断定できるできないではなく、その手紙自体が証拠となり得ると思うんだけど」

「いえ。そもそも貴方、本当に冒険者ですか? その貧相な腕に装備も何もつけてないじゃないですか」


 それは受付嬢の言う通りだ。

 実際、僕は冒険者らしい見た目はしてないし装備は重いから普段はつけない。

 そこだけを取ると僕はただの怪しいやつになる。

 ただ出頭命令の手紙を持ってれば別だ。

 誰であれ受け入れねばならない。


「なにやら騒がしいと思ったらまたお前か……。いい加減勘弁してほしいんだがな、レオン」


 2階から黒っぽく焼けた肌に禿げた筋骨隆々のおっさんが降りてくる。


「そう言われましても。サムさんが受付の基準をどうにかしてくださいよ」

「そ、総支配人……」

「そいつはソフィリアの友人だ。しょうもない差別をしてないでさっさと仕事をしろ」

「は、はぁい!」


 ギルド総支配人のサムさんの一言は強力だった。

 先ほどまでの態度を一変させ、話し合いの場を整えてくれる。

 ギルド総支配人はこの国のギルド全てを束ねるトップだ。

 そんな人に逆らったらギルド本部でもギルドでも未来はないだろう。


「すみません。助かりました」

「いいってことよ。そもそも見た目で冒険者じゃないかどうかを判断するほうが間違ってんだ。後で俺がきつく言っとくから許してやってくれ」

「頭あげてくださいよ。サムさんが悪いわけじゃないでしょう。そもそも僕は師匠に会えたらそれでよかったんで」

「そう言ってもらえると助かる。まあまた教育はしとく。じゃあ俺はここで」


 面会室の扉の前でサムさんとは別れる。

 昔から世話になってるとはいえ、本当に面倒見のいい人だとつくづく思う。


◆◆◆


「来たか。まあ座れ」


 扉を開けた先に待っていたのは綺麗に伸ばされた黒の髪に意地の悪そうな目をした師匠である【占星】のソフィリアと床に着くほどまでに長い金髪を伸ばした浮世離れした美しさのエルフだった。


「はい。でご用件はなんでしょうか?」

「せっかちなのが昔からレオンの悪いところだな。久しぶりなんだし少しは世間話でも……」

「師匠、僕はいつも貴女達に無理難題を押し付けられてきました。例えば東のディアンス渓谷のレッドドラゴン討伐、北のノースアイランドでのグリフォン討伐……」

「その辺の件はすまなかったよ。まだ最高の仲間達キャマラッドに【銀灰の英雄】がいると思ってたからね」

「なんとなく今回の要件は読めますが、一応聞きます。なんでしょう」


 僕は今1番聞きたくない2つ名を聞き、聞かなかったことにして話を続ける。

 どうせこのデリカシーのかけらもない師匠は僕のスルーなんて無視して聞いてくると思うが……。


「誤魔化そうとするな。サラとはどうなった?」

「さぁ。少なくとも僕は……」

「嘘をつくなよ。私は【占星】だ。今からレオンの過去を見ればなにが起こったがぐらいはわかるぞ」

「本当に師匠は性格が歪んでますね……」


 僕は仕方なしに全てを話した。

 師匠の【占星】は対象1人の過去を全て見れるというものだ。

 だからこそ犯罪の調査なんかにすごく向いている。

 その功績が讃えられ、ギルド本部のお偉いさんになったわけだが、いかんせんデリカシーがないのが欠点だ。


「ははは! お前らは本当に面白いな」

「……なにがですか? 別に面白いところはないと思いますけど」

「いや面白いよ。レオンとサラの成長を見届けるまではまだ死ねないな」

「はぁ。もういいでしょう。要件を話してくださいよ」

「ああ、すまんすまん。要件はこのエルフをレオンのギルドに入れてやってほしいんだ」

「何故です? 師匠なら僕以外にももっと大手に伝手もあるでしょう」

「色々理由があるんだよ。そもそもこの国ではエルフ自体を歓迎しようとする場所は少ない」


 エルフという種族は自分達の聖域からほとんど姿を現すことがない。

 排他的で聖域にエルフ以外の種族が足を踏み入れようものなら殺される。

 だがエルフの聖域に足を踏み入れるものは後を立たない。

 何故なら見た目が綺麗だから。

 貴族がこぞって奴隷にしようと冒険者を送り、度々行方不明になっている。

 なのでエルフと人類の仲はとても悪く、街中にエルフが出てこようものなら攫われるか殺されるかどちらかだ。


「事情はわかります。ですが最高の仲間達キャマラッドに何かメリットがあるように見えないんですけど」

「そりゃないとは言わんさ。こいつは強いぞ」

「それはどれぐらいですか? Bランクとか?」

「Sランクと言ったら信じるか?」

「まさか……」

「冗談だよ。精々、Aランクだ」

「師匠、思わせぶりなこと言わないでくださいよ……」


 一瞬、ハイエルフという文字が頭をよぎったが、そんなことはあり得ない。

 エルフの中でも一握りの頂点の種族。

 森から決して出ることはないとされており、世界最強の魔法使いとも名高い。


「とりあえず自己紹介だ。ほれ」

「私はエリッサ。精霊魔法が得意」

「どうする? ちなみにサラが【銀灰の英雄】を返上した罰ゲームも兼ねてるから拒否権はあんまりないがな」

「……なら初めからそう言ってくれませんか?」


 それならば合点がいく。

 元は最高の仲間達キャマラッドに居た【銀灰の英雄】が、2つ名を返上すると国とギルド本部に迷惑がかかる。

 そこで高ランクの冒険者が2つ名を返上して引退する時は歳でない限り、元所属ギルドと所属ギルドに通称罰ゲームと呼ばれる厳しい依頼が発行される。

 それが今回のエルフの保護というわけなのだろう。


「拒否権がないなら受けます。ただし戦力にならないとわかったら……」

「その時は大人しくエルフの聖域に返してくるといい」


 約束を取り付けた僕はとりあえずエリッサを連れてギルドへ戻った。



———

順調に伸びてて嬉しいです。

目指せ二桁ですね!

皆様、星ブクマハート等くださってありがとうございます!

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