銀灰の英雄1

「どこの新聞もサラ様のことで持ちきりですね」

「まあそうだろうね。【銀灰の英雄】って言葉の重みは伊達じゃない。王都の犯罪とかも増えるんじゃないかな」


 とりあえずよくわからない勘違いを解くまではギルドマスターを辞められなくなった僕はとりあえずギルドマスターを続けることにした。

 サラに会いにいくのはまた今度だ……。


「それは予想ですか? それとも……」

「いやいやただの与太話ですって」

「そう、ですか……」

「とりあえず僕はギルドホールに顔を出してきますね」

「はい」


 エマさんのよくわからない深読みにも困った物だ。

 僕はただ誰でも予想できそうなことを言ってるだけなのに。


◆◆◆


 ギルドホールへと降りた僕は突然、ティナに手を引かれてギルド会館の外へと引き摺り出された。


「あの、ティナ? 痛いんだけど……」

「ギルマスあの噂は本当?」

「あの噂?」

「そう。【銀灰の英雄】とギルマスが裏で繋がってたっていう噂」


 そんなのは初耳だ。

 それに僕とサラの関係は本当にごく一部の人しか知らない。

 僕とサラ、そして師匠だ。

 まさかサラが喋るとは思わないし、師匠だって人にバラす様な人ではない。


「繋がってるわけないじゃないか。だって僕はただのBランク冒険者でギルドマスターなだけ。向こうは世界最強の名を欲しいままにした【銀灰の英雄】様だよ?」

「そんなに褒められると恥ずかしいですよ?」


 ティナ以外の人の声で僕は思わず振り向く。

 そこには綺麗な薄い灰色の髪に整った容姿の女の子が立っていた。

 きっと冒険者でなければいい貴族様と結婚して順風満帆な人生を送れただろう。

 そんな気さえしてくる。


「【銀灰の英雄】……」

「あらそんな貴女は【聖女】のティナさんでしたっけ?」

「【銀灰の英雄】に名前を覚えていてもらえてるなんて光栄。それで何をしに来た? 貴女はもう冒険者じゃないはず」

「その通りなんですけど冒険者ライセンスを返還しようとしたらギルド本部に拒否されちゃいまして」

「じゃあなんで獅子のライオンズアイに戻らないの? 【銀灰の英雄】のギルドはそこのはず」

「そこを突かれちゃうと痛いなぁ……」


 サラが少し寂しそうに笑う。

 何か理由がありそうなのはわかるが、突然訪ねてくるなんてサラらしくない。

 

「まあ理由は追々話します。今はそこのレオンに用があるんで貸してもらえませんか?」

「ギルマス、後できちんと説明して」

「わかった。ティナには後でちゃんと説明するよ」

 

 それだけ言うとティナはギルド会館へと戻っていった。

 残された僕とサラの間には少しの沈黙が流れる。

 2人きりになるというのがそもそも数年ぶりというのもあるが、サラにも僕にも負い目がある。


「ねぇ、レオン。私のこと怒ってる?」


 突然切り出された言葉に僕はすぐに返すことができない。

 それは急に冒険者を辞めたせいで僕らの夢を追えなくなったサラに対してなのか、僕をパーティーから捨てたサラに対してなのか。

 判断がつかなかったからだ。


———

 沢山のブクマ星ありがとうございました。

 これからも更新していきますのでよろしくお願いします。

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