第31話 復讐

 差し迫った危機のことなどすっかり忘れて、

ジャコバン派を代表する代議士であるマクシミリアン・ロベスピエールは

獣のように全裸で四つん這いになって、ソーセージで

激しく突かれ、喘ぎ声をあげていた。籠の中で小鳥が


「朝までガンバレ、ガンバレ!」 

と歌い踊りながら励ましていた。

 童貞眼鏡マクシミリアンはメガネがずり落ちたまま、後ろを振り返って、


「なあ、ルイ、おまえはわしのことを本当に愛しているのか?」

と問いかけた。


「こんなに愛されてるのにまだ、君はおれのこと、

 信じていないの? もっと奥まで攻めてあげようか?」

 奥まで執拗にかき回されて息も絶え絶えになりながら、

童貞眼鏡マクシミリアンはこう言った。


「どれくらい? ジョセフ・ル・バよりも?」


「フフフ。ヤキモチ焼いてるの? マクシムが一番に決まってるじゃない」

 突然、どこからか


「ウーンウーン」

と唸るような声がかすかに聞こえてきた。

驚いたサン・ジュストは心配そうに恋人(男)の目を見つめた。


「マクシムったら、急にどうしたの? またどこか傷むの?」


「今のはわしじゃないぞ。空耳だ」


「ウソつき。君にも聞こえてるじゃん……ああん、キモチイイ!」

 童貞眼鏡マクシミリアンは大事な部分に顔を埋め、

貪るようにエキスを搾り取って追及をたくみにかわした。


「フフフ、おれにもお返しさせて」

 邪悪な天使は童貞眼鏡マクシミリアンのソーセージを口に含んで

わざと歯をあてたがその痛みすら快楽に変わった。興奮した籠の鳥が


「四十八手、ムクドリ!」

と絶叫した。

 快感のあまり、全身の力が抜けてぐったりした恋人(男)を

横目に見ながら、天使はベッドの下をのぞきこんだ。


「マクシム、誤魔化しても無駄だよ。

 ここに間男でも隠しているのか?」


「あっ、よせ!」


 ベッドの下をのぞきこんだ天使はグルグル巻きに縛られて

猿ぐつわをかまされた親友、フィリップ・ジョセフ・ル・バと

目が合ったので悲鳴をあげた。


「ジョセフ! 昨日からまた行方不明になってると聞いて心配してたら、

 こんなところに閉じ込められていたなんて! ひどいじゃないか」


「ひどいだと? おまえがわしの部屋からさらわれた晩にこの男が

 わしにしたことをそっくりそのまま、返してやっただけだ!」

 飲まず食わずで監禁され、衰弱したル・バを

抱きしめながら、天使は童貞眼鏡マクシミリアンをきっとにらみつけた。


「マクシム、君を許さない! もうここには来ないでくれ」

 天使は素早く服を着込むと、さっきまで熱愛していた

恋人(男)に背を向け、ル・バを抱きしめ口づけし始めた。


「待ってくれ! わしを信じてくれないのか!?」

 あわれな童貞眼鏡マクシミリアンは天使の足元に

ひざまずいて泣き崩れた。それ以上見ていられなくなった

シャルロットは天井裏から飛び出してこう叫んだ。


「ちょっとひどいんじゃないの!? あの夜、兄さんは

 ル・バに縛られてベッドの下に押し込められて苦しんだ

 あげく、デュプレのババアに襲われたのよ。

 それでもあなたは兄さんを裏切ってル・バを選ぶつもり!?」


「あの、ここはおれの家ですけど、いつの間に

 忍び込んでいたんですか……?」

 

「そんな些細な事はいいから! ケンカにならないように

 曜日を決めて、二人で仲良く天使君を分け合えばいいじゃない?」

 シャルロットの提案に男三人の目がテンになった。


「いやだ! 勝手に決めるな! 愛する天使を他の男と

 共有するなど耐えられない……」

 家の近くで群衆の悲鳴と爆発音や銃声が鳴り響き、

童貞眼鏡マクシミリアンの言葉はかき消された。


「外で何が起こっているのか見に行きましょう」

 シャルロットは音がする方向に走っていった。


「危ないから隠れていろ!」

 シスコンなマクシミリアンはあわててあとを追った。


「あらまあ、マリー・アントワネットが天馬に乗って銃乱射してる

 じゃないの。歴史上の有名人の肉体と別人の魂を紐づけするのは

 禁止されているはずなのに、誰か不届き者が暴走しているようね。

 取り締まらないと!」

 シャルロットは屋根の上から魔法の網を広げて

体を乗っ取られた元王妃を捕獲しようとしたが、

背後から誰かに羽交い締めにされ魔剣を突き付けられた。


「せっかく脱獄させた操り人形を有効活用したいのに

 邪魔しないでくれる?」


「その声は……サン・ジュストの妹?」


「うふふ。コルデー、この女を始末してちょうだい」

 シャルロット・コルデーはロベスピエールの妹である

シャルロットの心臓を魔剣で一突きにしようとしたが、

魔法で巨大化し、飼い主を背に乗せた小鳥に

体当たりされ、屋根から転落した。


「兄さん! 助けに来てくれたの?」


「早くわしの後ろに乗れ!」

 兄妹は二人乗りして飛び去った。


「おのれ! 独裁者め、逃げさないぞ!」

 ジャンヌ・サン・ジュストが投げつける火の球をかわしながら、

進んでいるうちに、鳥はマリー・アントワネット率いる反乱軍

にすっかり取り囲まれてしまったのだった。

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