第22話 エロ天使と愛され童貞のノーパンウェディング

 男二人は散々イチャついた後で、抱き合ったまま寝転がって

うっとりと見つめ合っていた。マクシミリアン・ロベスピエールは穏やかな微笑みを

浮かべて幸せな気持ちに包まれていたが、不意にサン・ジュストが

勢い良く起き上がったので、


「わしは何かをしくじって、天使に嫌われるようなことを

 してしまったんだろうか?」

と不安になった。しかし天使はウキウキした様子で


「ねえマクシム、これあげる」

と言いながら小さな包みをマクシミリアン・ロベスピエールに手渡した。

 

「わしに贈り物?」


 心を躍らせながら中身を見た瞬間、根は真面目な童貞は赤面した。


「すまん。ちょっと、考えさせてくれ」


「フフフ。絶対似合うって。そうだ、おれが着せてあげる」


「ええっ!? ああん、そんなところをさわらないでぇ」


 乳首をつままれた童貞は思わず甘い声をあげたが、それは

序の口に過ぎなかった。激しい愛撫で快感のあまり

虚脱状態になった童貞は黙って恋人(男)のされるがままに

なっていた。


「こんなところに大きな着せ替え人形が!

 裸じゃかわいそうだからこれを着せて

 あげようかな、なんちゃって」

 小鳥は笑いすぎて止まり木から落ちてしまった。

寝室からキャッキャウフフといつも以上に声が漏れてくるので

嫉妬に駆られたエレオノール・デュプレがそっとのぞいてみると

胸元が大きく開いた花嫁ドレス姿でもじもじしている童貞マクシミリアン

彼女の恋敵であるサン・ジュストに抱きしめられていたので

衝撃のあまり、腰を抜かした。


「やだ、マクシムってば、すっごくかわいい!

 もっといっぱいエロいこと、したくなってきちゃったじゃん」

 エロ天使は童貞の薄くなった頭に純潔を象徴する

百合の花をちょこんと載せると顔中にチュッチュっと

音を立ててキスの雨を降らせた。


「はぁん、耳たぶをペロペロなめないでぇ。なめるならこっちにして」

 童貞自らスカートを大きくまくり上げたので、何もつけていない下半身が

むき出しになった。


「二人ともあんまりだわ! いつかわたしが着るはずだったドレスなのに!

 よくも女心を踏みにじってくれたわね! 同じ家で

 寝起きするなんて、もういや、耐えられない!」


 エレオノールは涙を浮かべて目をそらしたが、

つつましいソーセージに吸い付く唇が立てる卑猥な音がいやおうなしに

耳に入ってきた。二人分の体液だの汁だので上質な生地は汚いシミだらけになり、

豪華なレースやフリルはしわくちゃで、あわれな処女が抱いていた

結婚の夢同様、もはやボロ雑巾以下であった。錯乱した

負けヒロインは妹の嫁ぎ先であるル・バ家に行ってしまった。


「あきれたわ。兄さんにまったく相手にされていないのに

 もう花嫁衣装をあつらえていたの!?

 しかもそれを恋敵に盗まれるなんて」

 いつもの通り天井裏に隠れてのぞき見していた

シャルロットはこの異様な三角関係を前に興奮していたが、


「そうだ、妹さんも呼んで仲間に入ってもらいましょう」

と天使が言い出したのでぎょっとして危うく落ちそうになった。


「バカ者! 新婚の初夜に立ち合いなどいらん!

 わしら革命家が苦労して滅ぼした王家の悪習を真似てどうする!」

 嫉妬深いマクシミリアンは愛人(男)の体をつねりまくった。


「うわー! いくらモテないからって、女ならどれでもいいなんて!」


「このバカ鳥! 感電したいのか!?」

 シャルロットに念話で脅され、小鳥は口をつぐんだ。


 その直後、窓ガラスが割れて室内に何かが投げ込まれ、

煙が部屋中にもうもうと立ち込めた。


「危ない! 爆発するぞ!」

 男二人は窓から外に飛び降りた。


「急いで落とし主を追いかけてこれを返してきなさい!」

 シャルロットにかごから引きずり出された小鳥は

爆弾と思しき物体をくわえて飛び去った。


 ほどなくして上空で大爆発が起き、深夜の街が昼のように

明るくなった。騒音で目を覚ました人々が驚いて

起き出して来ると、全裸の若者が花嫁姿の中年男を抱きかかえて

呆然と立ち尽くしているのを目の当たりにしたのだった。


「あの二人、見覚えがあるぞ」

とパリ市民らが騒ぎ出した。


「わしの愛する天使の裸を見せるわけにはいかない!

 シャルロット、何とかしてくれ!」

 シャルロットから借りた大蛇を体に巻き付けて

遠目に見るとミニワンピースのような

格好の若者はあわてふためきながら、走り去った。


「置いて行くな!」

 追いかけようとしたマクシミリアンはドレスの裾を

踏み付けて派手に転んだ。勝気な妹は笑っている野次馬を

にらみつけると、米俵をかつぐように小柄な兄を運んで消え去った。


 次の日、ダントンの家でダンスパーティーが開かれていた。

ステンドグラスから月の光が差し込んできた瞬間、人々の首に

赤いリボンのような筋がくっきりと浮かんできた。やがて月が

雲に覆われると、例のしるしも消えた。


「ここにいる諸君はみな、独裁者(マクシミリアン)に恨みがある。

 復讐を誓って乾杯!」

 ダントンは陽気に笑っていたが、デムーランは

浮かない顔でグラスを見つめて何か考え込んでいたのだった。

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