Reminiscence_ⅱ 日陰に映える万能薬
元はといえば、俺は故郷のガーデンで
それが『草の根調査団』に加わることになった経緯だ。
当然ながら、右も左もわからない。
老ドワーフは何も知らない俺を外へ連れ出し、引っこ抜いたばかりの草の根を齧らせた。そしてこの上ない笑顔で、それが良薬の味だと言う。
俺はその姿かたちや色や香りを記憶した。もちろん二度と騙されないように。
そんな日々が薬草神ソーマの領域の奥深さを物語り、分け入ってみたいのだと自覚するまでに、そう時間はかからなかった。
薬とは言っても身近な草であることも多く、新しい視点で眺めると面白い。例えば
が、猛毒に悶え苦しむ者に与えて、たちまち毒が消え失せるような代物ではない。だから「薬が効いたようです。おかげで命拾いしましたね」といったファンタジックな展開は期待しないでほしい。
そもそも解毒とは、身体に備わる機能を調整・強化して、毒素が溜まるのを防ぐ機能だ。
「先生。
陽の光を奪い合う世界に生きながら、半日陰でこそ生命力に溢れる姿も慎ましい。
「ああ。怪我したり毒虫に刺されたりしたら、生葉を揉んで汁を塗るか、葉をそのまま貼り付けちゃえばいいよ」
「そんなことまで? それってもう万能薬じゃないですか! なんかスゴ――」
「万能薬なんて、つまらないよ!」
こうして俺の脳天は打ち砕かれる。
『草の根調査団』の団長相談役である老ドワーフは、かつては筋骨隆々で、人里離れたジャングルだろうが岩場だろうが自ら調査隊の先陣をきって進み、ひいては〈根っこ業界〉全体を牽引してきた薬術士の大御所。
そして根っからの
希少で効果が特徴的な薬草ほど商業的価値が高い。
老ドワーフがワクワクするのは物珍しい奴らしく、もしかすると俺にも何かを見出したのかもしれない。
本格的に薬術士を目指すよう諭されるも、ついぞ首を縦には振らず、その陽だまりのような場所を離れて荒野を征くことになるとは、この時はまだ知る由もなかった。
だがこうして過去を生きてみると、いつも視野の片隅に木陰で羽を休める鳥が居たことに気づく。
地を這う俺が空を飛ぶことは叶わない。けれど無意識に鳥の視点を求めたのだろう。あるいは鳥も知らないような、物珍しい万能薬を。
グラスグリーンの糸を元通りに巻き取って上着の内ポケットに収めると、懐かしい光景はじんわりと薄れ、元の無機質な空間が浮かび上がり始めた。
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