Reminiscence_ⅰ 毒と薬は紙一重
かつて身を寄せていた『草の根調査団』で、俺は
〈薬〉とは実のところ〈毒〉と紙一重である。
特に乾物を煎じて飲む場合、薬効成分が少なすぎれば効かず、多すぎればかえって身体の負荷となる。薬草の品質が安定してこそ、長い時の中で地道に培われてきた処方が真に意味を成す。
「姿が大人でも薬草としては未熟。なんてことはままある。なのに採っちゃうんだもんなあ。嫌になっちゃうよ」
後半のボリュームが大きい。
郷里のべらんめえ口調は我慢したらしい老ドワーフの言葉は、色々と悟らせるものがあった。
まだ育たぬうちに刈り取れば粗悪品。
加えて幻の薬草を生みかねない。
だが理解を求めても乱獲はなくならないだろう。
それもまた生存本能ゆえに。
だから俺たちは薬草が如何なる環境に生きるかを調査し、その品質の幅を知ることで代替品となりうる植物を探索する。
しかし何事においても既知は氷山の一角。調べやすく目立つ挙動を見せるものだけに注目するようではいけない。
「先生。いわゆる薬効成分単独ではなく、極めて微量な成分が補助することで作用する可能性もありますよね。代替品と言ってもそう簡単には――」
「御託はいいからデータを持ってきてください」
「……」
そう言って啜る老ドワーフの手元の珈琲はさっき俺が淹れたものだ。
ニヤリとする師の眼は鋭くも澄んでいて、いつだって淀みの無い心で物事を眺めている。だから俺に期待をかけてくれていることも真っ直ぐに伝わってくる。
師であり、昼食友達である老ドワーフは、そんな風に毒とも薬とも付かぬ表裏一体の姿勢で若輩の俺に接してくれた。
彼が手作りして持ってくるサンドイッチはとっくに腹の中。
俺が今日の具は何だったのかを聞いて食後の甘いものを勧め、老ドワーフが頑なに断るところまでがお約束。
甘いお菓子も言葉も、その匙加減ひとつなのだ。
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