Fire extinguish 術士の領分

 程なくして到着したレプラコーンは「すぐに済みますから」と、グレムリンをやんわり宥めて直ちに確認を始めた。

 マシンもボスも熟知している彼なら事を荒立てずに冷静に対処してくれるし、不具合を見つけ次第すぐに対応できる。


「この部屋には暫く立ち入らないように」

 程なくしてそう告げられた。

 

 当然だ。マシンの異音には注意すべきだし、体臭や排泄臭なら皮膚の産毛があれほど緊張することはない。


 彼が言うには、ポンプのオイル残量表示インジゲーターの窓が割れてオイルミストが室内に飛散した可能性が高いとのこと。ポンプは特殊作業室のマシン内部を真空状態にするもので、オイルにはそのマシン内で使うアレコレが溶け込んでいる可能性もある。

 グレムリンは慌てて飛び出してきた。


 「ほら見たことか」と思ってしまう己の矮小さに苦悩する。

 こんな時、無になりたいと切に願う。何も感じず、何も考えず。


 俺はたぶん、人より感覚が鋭い。目ざといし、うまくは説明できない直感や直観を行動や判断の主軸にしているところがある。

 とりわけ耳と鼻は敏感だ。重なり紛れているものを

 そして危険の可能性には沸き立つのだ。全身を巡る血が。

 

 感じろ、と。


 その感覚は電磁波ひかりと同じ速度なのに、言葉を扱う種族には話す速度で語られる理屈が必要だ。そして緊急を要する局面でこそ浮き彫りになる「オマエに何が分かる」という本心ひやみずにハッとする。

 生まれ持った身体機能センサーと傭兵としての経験則が融合したようなそれは、かみから学び得るようなものではないはずだ。

 何より〈術士〉の領域がものだということを忘れてはいないだろうか。

 

 誰かが「危険」とレッテル貼りしたことを無闇に恐れる者は怖い。

 誰かが「良い」とレッテル貼りしたことを無闇に信じる者も怖い。

 名もなき者の声を軽んじる世界は怖いのだ。

 さっき蹴飛ばした石ころにだって、神さまは宿っているだろうに。

 


 それとも刺激に満ちたこの世界は、創りものなのだろうか。

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