Ignition_5 存続と繁栄
クリスタル製の極細針を十本ほど作り終えて、ほっと一息ついた。
サラマンダーの蒼炎で炙って柔らげ、変形させて空冷すれば固まる。ただそれだけだが、顕微鏡で自分の手元を覗きながら先端幅が十ミクロメンタルの形状が揃ったものをいくつも作るという作業は、それほど誰もがやりたがるわけでもないらしい。
けれど想像したものを自分の手で創造するのは楽しいものだ。
できたての針をアクリルケースに収め、サラマンダーを残して工作室を出る。
*
件のトリノ・フォーミング計画は調査団内の複数チームで推進中だ。
母星の再現環境の提供は始まりに過ぎない。彼らの目標はガイアの環境に自らが適応すること。
よってこの計画の真髄は、意図的に進化を促し、彼らをニュー・トリノ星人に仕立て上げることにある。
せいぜい数ミクロメンタルの彼らは重力など微塵も感じていないだろう。今は俺が提供したクリスタル・ハウスを使って仮想居住実験中だ。
今回試作した針は仮想居住のサポートチームから依頼された。
グリセロールを満たした通路を通すよりも、ハウスの煙突穴から直接針で必要物資を届ければ速いのでは、と。
クリスタル・ハウスは今、トリノ星の平均気温を加味して四十度の恒温培養室に設置されている。徐々に温度を下げつつ、その負荷に耐え生き残る系統が選抜・継代されてゆくだろう。
さらに空間を満たすグリセロールに少しずつ水を混ぜ、最終的には生理食塩水、つまり海水中で生きてゆけるよう導かれるはずだ。
あるいは……
いや、この考えは馬鹿げている。
それはそうと母星トリノに残留する者もいるそうだ。
外へと飛び出す者と元の環境に残留する者の違いは、一体どこにあるのだろう。
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