Ignition_2 異星人の水晶宮

 巨大組織『万物調査団』に身を寄せた俺は、透明で小さく、かつ頑丈な構造物を造っている。

 蟻社会を観察するための透明なゼリー容器をイメージするといい。ただし材質がクリスタルのように硬く、緻密に設計された非常に小さな空間は他に類を見ない。

 そしてフルオーダーメイド技術は、より独創的な分野で重宝される。


 俺は数ミクロメンタルのトリノ星人に合わせて通路や部屋をデザインしたクリスタル・ハウスを開発した。

 その一つひとつは顕微鏡で使用するプレパラートを二、三枚張り合わせたくらいの大きさのため、沢山用意してもそれほどスペースを必要としない。それに透明だから、重ねて置いても充分な光が届く。


 彼らトリノ星人は宇宙船ミューオンに乗って現れた異星人だ。

 高度な知性を持ち、テクノロジーを発展させた彼らの数は爆発的に増えた。しかしそれはトリノ星の資源枯渇をもたらし、さらには空間的な圧迫感のせいか不穏な暗雲と霧ストレスが立ち込める。そうなると自死や共食いといった現象が珍しくなくなるのは自明だろう。

 彼らは世代を重ねながら自らを小さく小さく進化させ、青い空を取り戻すことに成功する。

 が、そう長くは持たなかった。

 避けられぬ分岐に立った彼らは、いよいよ移星計画を始動する時が来たと、元より交流のあったいくつかの異星と交信し、受け入れを要請する。


 そのうちの一つが此処。俺たちの星・ガイアだ。


 古くからトリノ星人と交流を重ねてきたケンタウロスが、泡だらけのグレムリンに「オマエのトコロでちょうど良さげなモノ創れるダロ」と打診して、俺に話が回ってきたというわけだ。


 彼らは揃って一つの新天地に大移動する気はさらさら無いようで、可能性を見出したいくつかの異星に散り散りになったそうだ。


 存続と繁栄のために蒔いた種が全て芽吹くとは限らない。だから可能性の糸口は多い方が良い。

 それぞれの系譜の可能性に賭ける、生き物ならではの面白い戦略である。

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