刺激に満ちた世界は創りもの

蒼翠琥珀

Ignition_1 緻密な修正

 ガチャリ。

 開ききるまでがもどかしいとばかりにドアを押し退け、身体をねじ込みながらボスが入ってくる。何やら慌てているらしい。


 おおよそ察して作業を中断し、昼食前に打ち合わせした設計図を広げて話を待った。

「やっぱりここの経路は二つに分岐させて――」

 少し間をおくとより良いアイデアが浮かぶ。なんてことはよくある。


 ボスの思いの丈を小さき我が掌にひとしきり書きつけたところでぎょっとする。


 なぜなら了解の意思を伝えるべく図面から視線を移すと、そこに居たのは歯ブラシを握りしめ口の周りを泡だらけにしたグレムリンだったからだ。

 俺が型造りを始める前に言えてスッキリしたのか、さっさと修正作業を始めた俺に満足したのか、ボスは大人しく元の作業に戻っていった。


 ボスに言いたいことがあるとすれば、「歯磨き粉の量をもう少し控えてはどうか」ということだ。

 歯磨きの本質はブラッシングによる食べかすの除去。あまりに泡だらけにすると盲目的に磨いた気になってしまうものである。

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