第5話 ウサギの子
著者の名はノエル、ここで四人の仲間と暮らしていたようだ。
『友だちも先生もみんな消えてしまった。ぼくはひとりになった』
『黒い風』に遭って、ノエルはひとり残されたようだ。そして街を
『おーい、君はだれだい? って声をかけられた。ぼく以外にも生きのこりがいたんだってすごくうれしかった』
その少年カーターに連れられてこの河原へやって来た。仲間と出会えたことで寂しさが
ここでノエルは仲間と暮らした。
『ぼくのつった魚がいちばん多くて、みんながすごいってほめてくれた』
『ウサギを見つけた。茶色い体でとってもかわいいんだ。アーサーって名前にしたんだ』
日々仲間と暮らしてゆくことで、キャンプのような楽しさがここにはあった。皆で食糧を調達し、火を焚いて語り合う。ノエルには寂しさはちっとも無かった。
けれど、そんなある日、『黒い風』が再び吹いて突如、仲間が消された。
『カーターが! カーターが消えた!
今日だって、体の弱いぼくにかわってまきわりをしてくれた。
なのになんで? なんでカーターが消えなくちゃいけないの?』
仲間の消滅は四人を悲しみに追いやり、楽しかった日々をあっさりと壊していった。忘れていた、忘れようとしていた『黒い風』の猛威を思い知らされることになる。
そしてまたひとり、風に消されてしまうと、残りの三人は恐怖に襲われた。
『次はぼくかもしれない。そう思うとこわくてこわくてたまらない。そよ風が吹くだけで体が固まり、ブルブルとふるえが止まらなくなる』
ノエルはテントから出るのが恐くなり、閉じ
『ウサギのアーサーは変わらず元気だ。人間のような大きな生き物が消えるのに、どうしてアーサーは平気なんだろう?
ウサギならあの風はだいじょうぶなの?
人間だから消えるの?
ぼくも……ウサギになりたい……』
そして更に仲間が消え、ノエルはいよいよ追い込まれていった。
『もうフリーマンと二人きり。みんな消えてゆく』
『どっちが先に消えるんだろう。そんなことばかり考えている』
段々とノエルは卑屈な感情に
『ぼくよりフリーマンのほうが体が大きい。消えるならフリーマンのほうにきまってる』
『あいつは、ぼくのほうが先に消えるって言った。すぐにおなかをこわすよわい人間だから、って。そうぼくに言うんだ。いやなやつ」
「アーサーをよこせって言うんだ。きっとアーサーを食べる気だ。なんてひどいやつ!
あいつなんて消えちゃえばいいんだ!』
そして……
『フリーマンが消えた! ははっ、ざまぁみろ!
ぼくのかちだ! ぼくが生きのこったんだ!』
アガサは読んでいて、悲しみに包まれた。
共に暮らしていた仲間の消滅を喜ぶなんて。
手帳はまだ文字が続いている。
ノエルはいったいどうしたのだろうか。
アガサはページを
そこからの文字はページを追う毎に段々と乱れ、荒くなっている。
ひとりになったノエルは、『黒い風』の恐怖に加え、孤独による寂しさに襲われていった。
荒廃した世界でひとり取り残され、頼る者も
ここに
なのに、なんで最終的に仲間が消えることを望んだのだろう。
ノエルはひとり泣き崩れた。
『ごめん、フリーマン……。ぼくをゆるして……』
楽しかった日々を思い出し、ノエルは昼も夜も泣き続けた。
河原でひとり黙々と暮らしていたが、既にノエルの精神は限界だった。食糧を調達する気力も無くなってきた。
ひとりテントの中で床に
ここ数日何も食べていない。腹が鳴る。
ノエルはじっとアーサーを見つめた。
そして、ケージを開け、アーサーを手に取った。
ノエルは横になって、空になったゲージを見つめた。
『ぼくはアーサーを……うしなった』
ノエルはひとりテントで体を横たわらせた。
アーサーも居なくなった完全なる孤独の世界。
ノエルは自分の体を抱き締めた。
『ウサギはさびしいとしんじゃうって言うけど……』
体を丸めてノエルは、ひとりきりになったテントでかすれた声で
『さびしくてしんじゃうのは、人間のほうなんだ……』
記述はここで終わっていた。
アガサは手帳を閉じ、深く息を吐いた。
「ノエルはこの後どうしたんだろう……」
エラリーもまたやるせない思いに胸が痛んだ。
「無事だといいけど……」
ノエルがその後どうしたのか、二人には知る
散乱した服が辺りにはない。きっと『黒い風』にやられていないはずだ。
けれど河原の端、釣竿の横に不自然に揃った靴が一足置かれていた。爪先が川へ向いている。
「まさか……ノエルの……」
エラリーはしゃがんでその靴を握り締めた。アガサは首を振った。
「違う。きっと違うよ!」
エラリーは唇を噛み締めた。
川は幅が広く、中央は深さもある。寂しさに耐えかねたノエルは……。
その時、藪がカサカサと音がして、茶色い顔が現れた。
「もしかして、アーサー?」
茶色いウサギは鼻を動かし、そしてまた元気に藪の中へと入っていった。
ノエルはきっとアーサーを逃がしたに違いない。
アガサは無理矢理に笑顔を浮かべた。
「ほら、アーサーだって立派に生きてる。ひとりで寂しくても立派に」
エラリーの肩に手を添えた。
「きっと、きっとノエルだって」
エラリーはゆっくりと立ち上がって、自分に言い聞かせるように、何度も何度も
「そうだね……」
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