第10話

「こら、ひまりふざけないで出てこい」小声で叫んだ。

返事はない。

玄関から外へ出て門の外や庭の方まで見たが誰もいなかった。


ただ暗闇が広がっていた。

さっきは確かにインターホンのカメラにひまりが写っていたのにと思って、ひまりに電話を掛けた。

しばらく呼び出した後「はい、どうした?」とひまりが出た。

「お前家のインターホン鳴らした?」と訊いた。

「何言ってんの、今日はそっちに持ってく服とか選んでるから、行かないって言ったよね」そう言って機嫌が悪い。

「インターホン鳴って出たら誰もいないんだ。

カメラに写った姿はひまりの昨日着ていた服だったから」そう言ったら、


ひまりが「あの服はクローゼットに置いてきたわよ。今朝の私の服見たでしょ」と言う。

確かに今朝の服は妻の昨日の服とは違っていた。

「じゃあ、俺が見たのは誰だったんだ?」と言うと、ひまりは「ビビってるから幻でも見たんじゃないの」と一蹴する。

「そっか、明日は来るのか?」と訊いたら「荷物持って行くよ」と嬉しい回答をくれたので、「じゃ、待ってる」そう言って電話を切った。

 

その後、しばらくテレビを見ていたが何事も起きなかったので、シャワーを浴びて寝ることにした。

時間は11時を過ぎていた。

一階はリビングから廊下を少し歩いて、洗面所、トイレ、バスルームの順に並んでいる。


二階は子供部屋が二つ並んでいてその向かいに洗面所、トイレ、シャワールームの順に並んでいる。

寝室は一番奥になっている。

下着が寝室にあるので二階のシャワーを浴びることにした。


リビングの電気を消して階段を数段上がると、不意に二階からシャワーを浴びる音が聞こえた。


ドキッとして足が止まった。


もう一度耳を澄ませると何も聞こえない。


なんだ、と思って階段を上がる。


と、またシャワーを誰かが浴びている。

単にシャワーを出しているだけの音ではなかった。


ぎょっとして、足がすくんだ。


しばらくどうするか考えたが、意を決して、一段一段そっと上がる。


シャワールームの電気はついていないので、中は暗いのに、黒い人影がシャワーを浴びている。


階段の電気、二階の廊下の電気、洗面所の電気も皆点けた。

その途端、シャワーを浴びる音はしなくなった。


すっきりしない気持ちのまま洗面所からバスタオルを出して、シャワールームのドアを開けて、 「うわっ」と叫んだ。


排水口に女の髪の毛がごっそり溜まっていた。


黒っぽい色は妻の髪の毛の色だ。


慌てて集めてゴミ箱に捨てた。

恐怖で止めようかとも思ったが、頭も痒かったので浴びることにした。


身体を洗い終わって髪の毛を洗っている時、シャワーの音に紛れて女の声がする。


言葉は分からない、急いで洗い流してシャワーを止めると、声は消えていた。


聞き違いかと思ってシャワーを出してふと鏡を見ると、血まみれの顔の妻の目が怨めしそうに俺を見ていた。


「うわっ」叫んで振り向くと誰もいない。


流石に怖くなって、シャワールームを出て身体を拭いた。

ドライヤーで髪を乾かす。


と、目の隅に妻の姿が写っているように見えた。

 

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