第6話
俺は怖くなって妻を殴り倒して、凶器を取り上げ、床に押し付けて首を絞めた。
我を忘れ夢中で、首をしめた。
妻は大きな目をさらに大きくして、俺を真っ赤に充血した目で睨みつけている。
爪を立て俺の腕肉を削るように食い込ませる。
俺はあまりの痛さに膝を畳んで、思いっきり妻の腹に叩き込んだ。
ぐうぇっ!と呻いて吐瀉物と吐いた血を俺の顔に浴びせて、手から力が抜けていった。
俺は首にかけた手は離さなかった。
どのくらい時間がたったのか、ふと気付くと、じたばたしていた妻は、大きく目を見開いたままで、その顔からガラスが切り裂いた血肉がダラリと垂れ下がり、惨たらしくとても正視に耐えなかったが、大人しくはなっていた。
慌てて手を放して、妻の胸に手を当てるが鼓動がない。
初めて殺してしまった、と気付いて震えた。
どうしたらいいのか考えた。しばらくの間身動きが出来なかった。
ひまりに電話した。
事情を話してすぐ来てくれと言った。
家の周りには塀があって中は見えない。植木もあって畑もある。
2メートルほどに育った庭木の脇を掘った。汗だくで掘った。その内ひまりが来た。
ひまりに手伝わせ妻の下着も全部剥ぎ取り穴の奥底に遺体を捨てた。
血まみれの顔が上を向いて、目が俺を睨みつけているように見えた。
「ひぇっ」驚いて思わず悲鳴が口から出て尻もちをついてしまった。
「どうした?」訊いたひまりに穴の中を指さして「俺を睨んでる」と声を押さえて言う。
ひまりが覗き込んで「何言ってんのよ。目なんか瞑ってるじゃない」と言う。
えっと思って覗くと、確かにそうだった。
「あんた、何ビビってんのよ!」
「ひまり、お前度胸あるな」と言うと、「怖いけどビビらないから私」と言う。
土を1メートルほどかけて、傍の庭木の周りを掘って、庭木を遺体の上に移動した。
そして、動かないように土をたっぷりかけて、踏み固めた。そして余った土を庭木のあったところへ埋めて平らにならした。
その上には離れた場所の雑草を、根ごと運んで掘り返した跡が残らないように気を配った。
これで一度雨でも降ったら分からなくなると思った。
リビングに戻って、壊れたテーブルは片付け、代わりに昔使っていた木製のテーブルを置いた。
酒を飲みたかったが、その前に泥だらけの身体を洗い流したかった。
ひまりと一緒にバスルームへ行って、お互いの身体を綺麗に洗った。そして一緒に湯船につかって手足を伸ばした。
そこで、はたと思いついた。妻には親類もいないし、自分にも親しい親戚はいない、死んだ妻とひまりは背格好は同じだ。
顔の輪郭までは同じだ。
顔つきは違う。
声は違うが話し方は似ている。
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