第4話
それから、俺は渓谷へ向かう。
近づくにつれて、彼女の声は喘ぎに変わってゆく。
全身がビクリと痙攣するように跳ねる。
渓谷の傍には小さな泉があって、湧き出る女水を指先にして窪みに沿ってなぞると、その端に隠れていた花芯が、敏感に喜んで花唇から姿を現し、さらに陶酔を求め嬌声を口ずさむ。
そして、俺は、しばらくの間、
花の香や香水のような匂いを楽しみ、
舌先で触覚と淫動を悦び、味わう。
それにつれ彼女の息遣いが荒くなり俺の身体をまさぐるように優しい指が徘徊する。
そして一度大きく跳ねて呼吸が緩やかになる。
その頃には俺にもさざ波が立ってくる、そして彼女の波と重ねる。
その波は岬の狭間の奥深い入り江の岩屋に導かれ、そして高波となり力を得て、岩屋の周りに激しくぶつかりながらさらに奥へ、奥へと進んでゆく。
その奥の大きな岩が岩屋の終着点のようだ。
終に、大波はその大岩に激しくぶつかり、
はじき返されて、
真白の波の花を空中にまき散らし、波は急激に静かになる。
しかし、さらに隠れていた淫口が開いて強く波を吸い込む。
引こうとする波を吸い上げるように引き込む。
そして生気も吸い取られ、思わず俺は硬直する。
時間が止まり、心が身体を離れ宙に浮いているように軽く、そして心地よさが残る。
しばらくして、薄く目を開けると彼女もそうなのだろう、真白の波の花をのせた、火照りの色に包まれた肌を、大きく波打たせて荒い息をしている。
そんな経験をしてしまった俺は、ひまりと会う頻度が増えてしまう、すわに疑いをもたれる。
少し間を空けようとするが、ひまりはうんとは言わない。
ある日帰ると、すわが茶の間に封書を置いて待っていた。どうした、と訊くと、浮気の証拠をつかんだという。ドキッとした。
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