8.第19班にもやってもらう

 

 メインとなる“特別交通整理”箇所は、当然王城への一本道に接続する王城前大通り。

 都内には『大通り』と名の付く通りは教会前や第1商会通り、ギルド街等いくつかあるが、王城前は段違いに交通量が多く、貴族家や名家の割合が高い。


 上り下りは各三車線、それにその間の緩衝地帯(反対車線の建物へ右左折するための待機スペース)で一車線分、計7台の大型馬車が余裕を持って並走出来るほどの幅がある。

 それが500モーテー(半クレモーテーkm)以上、うちの双子の身長が約2モーテーだから……いっぱい連なるほど続く。


 うげぇ……。


「それでだなぁ……。担当を決めにゃならん」


 日々の業務で二班で担当しているところを、慎重を期して三班で行うそうだ。

 第1~第3班でいいんじゃないの?


「第1~第3班が担当するのでは?」


 俺と同じことを考えた人がいたみたいで、班長らの列の中から質問が飛んだ。

 その方向を二人の副隊長が睨む。


「まぁまぁ。そう思うところだろうけどさぁ、その三班には、“上”からご指名が入ってねぇ」


 第2と第3班が、貴族の邸宅が並ぶ貴族街と王城を結ぶ別ルートの警備。

 第1班が王宮から迎賓館までのルートの警備。

 それぞれに充てられるそう。


 なら、上から順番でいいでしょうよ~。


「それでぇ……。一応、私の頭の中ではどの班がいいか決めてるんだけど……いる? やりたい人……」


 隊長がボサついた髪を掻きながら尋ねてくる。

 ササッと大勢が俯く衣擦れの音が虚しく響く。もちろん俺も目を逸らす。


 そんな中――

「ここは当然我らの班でしょう」


 再びの衣擦れとどよめきに顔を上げると、キヨドールが腕組みをして胸を張っていた。

 長身痩躯、相変わらず金髪のテカテカオールバックで、顎を上げ全班長を見下すようにグレーの三白眼を向けている。


「そうだねぇ。それが順当だ」

「でしょうとも!」

「うん。他には?」


 またみんなで目を逸らす。俺も。


「……じゃあ、指名するしかないねぇ?」


 ……やりたくない。


「第5班にそこまでのルートを仕切ってもらってぇ、第6班! 担当な」


 ほっ。この流れだと、もうひと班は7班あたりだな。


「あと第19班。これで決定なぁ」

「ええっ!?」


 うげぇっ! なんで?

 ちょ、ま――


「なんで19班なんだっ!」

 そうだ!


 俺が言わんとしたことを、キヨドールが叫ぶ。

 お前に言われるのも癪だが、いいぞもっとやれ!


「はいはい。話は後で聞くからなぁ。とりあえずこの三班は俺んトコ集合ぉー。1~3班は解散。他は副隊長について出て行ってぇー」


 他の班長が退出している最中から、キヨドールが隊長に食って掛かる。

 いや、それ俺がしたいんだけど?


「なぜ俺様が平民と組まにゃあならんのだっ!」

「必要だからに決まってるでしょうが。んん?」

「うぐっ!」


 隊長の眼光が一瞬鋭くキヨドールを射抜くと、長身は怯んだ。しかし、すぐに気を取り直してもう一度突っ掛かっていく。


「せ、説明を求める!」


 確か……男爵家出身だった隊長に子爵家のキヨドールが強く出る。

 この期に及んで家格なんて関係ないだろうに……。


「はぁ~。君は知らないだろうけどぉ、この隊でマーティンの第19班が、一番事故が少ないの。分かる? 君らよりも多く現場に出てるのに、一番少ないの」

「そんなものっ、いくらでも揉み消せるはず! そうだ、揉み消しているんだろ?」


 “揉み消す”という言葉が出た瞬間、隊長がキヨドールの懐に飛び込み、胸倉を掴んで引き下げた。

 早っ! 強っ!

 そして、ちょうど隊長の口元にまで下がったキヨドールの耳元に囁く。


「事故を揉み消したり、貴族有利に裁定下してんのはお前でしょう? こっちは知ってて黙ってやってんの。尻拭いもしてやってんの。分かる? ん?」


 全然囁きじゃなかった! 丸聞こえだったぁ!

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