7.特別交通整理

 

 庁舎に戻って副隊長に任務完遂を報告し、昼食へ。

 また副隊長から『訓練指令』を受けて、班員揃って屋内訓練場へ行く。

 王都外にも魔法訓練用の屋外訓練場もあるけれど、俺達にはほとんど縁が無い。


 訓練は、基本的には木剣を使っての実践訓練なんだけど……。


「「アタシ達は“筋肉ちゃん”と対話してくるわねぇ?」」


 双子の大男はそそくさと訓練場の片隅へ、器具を使った筋肉酷使訓練をしに行く。

 まあ、別に訓練を監視する奴はいないからいいけどね。


「ベルジャナはいつも通り訓練場を走って、体力をつけようか」

「…………ん」

「他の訓練中の人達に気をつけて走ってね?」

「…………ん」


 嫌なんだな……。でも君、体力無いでしょ? まずは走れるようになってからだよ。


「エヴァレットは――」

「――エヴァですっ! エヴァとお呼びください!」

「お、おう。エヴァは俺と――」

「――はい! お願いしますっ!」


 瞳を輝かせたエヴァが完全に食い気味に返事をしてくるが、彼女は俺と模擬戦だ。

 エヴァは幼い頃から騎士に憧れていて、剣の稽古も重ねていたそうだけど――

 例の『魔力属性不明』が判明して、騎士の道は閉ざされ、自ら貴族家を出た。


 でも、彼女は腐ること無く「自分に出来ることで国の、民の役に立ちたいです」と、常に前向きに頑張っている。

 剣の実力も確かだ。



「よし、訓練やめぇー」


 教会の鐘が鳴るまで、休憩を挟みつつミッチリと訓練出来たな。


「はぁっはぁっ……。け、結局一本も取れませんでした……。自分が情けないですぅ。班長凄いですぅ」

「ハハッ。そんなこと無いぞ? エヴァは十分上達しているぞ」


 俺だって伊達に20年以上衛視をやっていない。いわば20年の稽古の積み重ねがある。16歳、衛視2年目のひよっこにやられるわけにはいかないからな。

 ぜえはあ息切れを隠すの大変! ……もう少しで負けそうっ! ううっ!


「……ゼエ……ハア――うぷっ……ゼエ……ハア」


 ベルジャナは青白い顔で、両手をだらりと下げて酷い千鳥足で戻ってくる。

 よく頑張った! 明日は久し振りの全休だ! ゆっくり休もうな?


「マーちゃ~あん! アタシの筋肉がまた一歩完璧に近付いたわ! 見て見てぇ~」

「あん! お待ちなさいサンディー! アタシの方が完璧に近いわっ! 午前中も荷台を持ち上げたしぃ~」


 二人が俺に見せつけるようにポージングをしてくる。


「お、おう。……いいぞ、その調子でな……」



 そんな仕事を繰り返すこと数日。

 夕刻、通常勤務終了後に王都交通整理隊の全班長に呼び出しが掛かった。


 庁舎最上階の隊長室に全班長が集まり、久々に第1~第3班の班長の顔を見た。

 第1班班長は、腰まで伸ばした金髪ストレートヘアーに琥珀色の瞳の“冷徹”美女。

 第2班班長は、入隊2年目のあどけなさが残る小柄な青年。

 第3班班長は、ウェーブのかかった炎のような赤髪ツインテールの“苛烈”美女。

 最前列で堂々と隊長を待っている。


 当然第4班のキヨドール・カンタスもいる。

 俺は下手に絡まれないように、気配を消してこそこそと後方に並ぶ。

 そこに隊長が二人の副隊長を引き連れて入室してきた。


「揃ってるようだねぇ~?」


 隊長は、いつも通りの様子だけど……副隊長達に緊張の色が見えるな。なんだろ?


「皆も実家かどこかで聞いているとは思うけど……今日集まってもらったのは、特別交通整理の要請があったからだ」


 うげぇ……。

 “特別交通整理”とは、文字通り特別な交通整理の事だ。

 国王陛下や王族の往来や外国要人の来訪に際して、王都民の通行を止めて円滑な移動を提供する事や――


「来月に行われる国王陛下主催パーティー。その夜会への参列者の車列誘導だ」


 うげぇ……そっちかぁ! しかもデカイ奴かぁ……。

 王都内はもちろん、王都外の各領地、国外からも参列者が集まる最大級のイベントだ。

 全然聞いてないっつうの! 俺、平民だし実家無いし……。

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