9.隊長との付き合い
隊長の恫喝とも取れる“
おかげですんなり打ち合わせを終えられ、解散となる。
「あ~。マーティン君は残ってなぁ」
うげぇ……。
隊長室に二人きりになり、隊長から応接セットを指され向かい合って座る。
「な、なんでしょう……?」
「なんでしょうなんて、マーティンもつれないなぁ。僕が班長だった時代に同じ班にいた仲じゃないかぁ」
そう。俺はかつて隊長の班にいたのだ。
彼は、エドガー・アビエース。
俺が入ったばかりの頃から、彼が副隊長に昇進するまでの十数年間、一貫して彼の班にいた。
容貌は今よりもだらしなく、ボサボサ髪を肩まで伸ばし、無精髭もなかなか剃り落とさない人だったな。
当時は18班までしかなく、平民の班長なんていなかった。
実は今でも18班しかないのだけど、彼が隊長に昇進し、その際に俺が平民出身初の班長になるに当たり『第18班』を欠番とし、ひとつ飛ばした『第19班』を新設して貴族達の不満を抑えたそうだ。
で、エドガー班は、更新の度に第8~第10辺りの序列を行き来していた。
俺は間近で見ていたから分かるけど、彼は狙ってその序列になるように調整していたのだ。目立たぬように、突出しないように。
面倒くさいから、だそうだ。
「……じゃあ聞きますけど、どうして俺――第19班を担当なんかに? 周りが騒ぐでしょうに……」
俺の方から尋ねると、エドガー隊長はソファに背を投げ出し、背もたれに片肘かけて頬杖をついて応える。
「さっきカンタスの勘違い坊主に言ったこと、聞こえてただろぉ?」
「……事故が少ない、から?」
「そぉう! それでいて目立ってないから! 上手くやってるじゃないのぉ」
俺もエドガー“班長”の薫陶を受けて、日頃から目立たない事を念頭に置いている。
俺なんか特に平民だし、出れば潰され、失敗を犯せば叩き潰され……どっちにしろ潰されてしまう。
大きな失敗は犯さないし事故も起こさせないけど、本来報告義務のないような現場解決した事案を、「多少揉めてしまったので、後で申し立てが来るかもしれない」と報告をするのだ。
そして隊長や副隊長から小言をくらえば、周りの隊員は俺らを取るに足らない班だと認識してくれる。
まあ、副隊長は嫌味が酷いしキヨドールみたいな奴もいるけどな……。
「残念ながら1~3班を引っ張られてしまったから、君に王城前の難所を切り盛りして欲しいんだ」
うげぇ……。
面倒だけど……新人で平民の俺を、衛視としてやっていけるように鍛えてくれたし――
ミミィさんのご飯にほとんど消えるけど、班長に引き上げてくれて手当てで給料も多くなった恩もあるし――
「……分かりました」
俺が返事をすると、隊長はパンと手を合わせて身を乗り出して大袈裟に喜ぶ。
「良かったぁ! いや実はさ、その日に何か起こりそうなんだよねぇ~?」
「え……?」
「君と、君の班員の“力”が必要になるかもしれないから、よろしくねぇ~!」
「は? ええっ! な、何があるんですかっ?」
「さあ? 知らない。僕の勘だよ。いやぁ、備えが出来て良かったぁ」
「えっ!? え?」
訳が分からず混乱していると、夜も更けてきたからと半ば追い出されるように隊長室から出されてしまった……。
遅くなったことで食堂で晩飯を食べ損ね、ミミィさんのご飯の肉屋さんは閉店したところを無理に頼みこんで割増料金で肉を買うはめになり、ミミィさんはご機嫌斜めだし……散々な目にあった。
そして日が流れ、国王陛下主催パーティー当日を迎える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます