第19話 ゾディアック教団編10

 これが騎士シュヴァリエ同士の闘い……。


 目の前で繰り広げられる剣戟を注視し改めて感嘆の声が漏れそうになる。


 なんて猛々しくて綺麗なんだろうか。


 ライオネットは騎士シュヴァリエではないから、実際は騎士シュヴァリエ同士の闘いとは言えないが、彼の強さは並の騎士シュヴァリエには引けを取らないだろう。


 そのライオネットと互角以上に渡り合っているリディアさんもまた凄まじい。


 身体中に小さな傷を負っているがそれはこの闘いが始まる前に付いた傷。

 ライオネットと剣を交え始めてからはまだ一度も攻撃をその身に受けていない。

 対してライオネットもダメージを負った様子はない。


「本当に君達は楽しませてくれるなぁ……。リディア君のその剣術。今までに見たことがない、こんなに実戦的で獰猛な剣は初めてさ」


「ふん、そうだろうな。私の剣は我流だ」


「え? でも君の剣、根幹に何か他と違うものを感じる。誰かに教わったことはあるんじゃない?」


「――減らず口を叩いてる余裕があるか?」


 リディアさんの赤い魔力が身体に纏わりつき炎のように燃え上がる。

 魔力が急激に上昇し、辺りに赤い火の粉が舞う。


「いいね! ノッた」


 呼応するようにライオネットの周囲の魔力が渦を巻き始めた。

 どういうことだ? ライオネットは魔力が使えないはずじゃないのか?


 その時だった――。


「そこまでだ」


 少し気だるげな男の声が響いた。

 低く重い声。

 だがその声はよく響いた。


 黒い大きな体躯の馬に跨った男の後ろには大勢の鎧を身に着けた騎士シュヴァリエの姿が見える。


 それまでいつ剣を交えてもおかしくなかった二人の様子が男の登場と共に一変した。

 二人は一斉に男の方に剣を向けたのだ。


「おいおい、いきなりそんな殺気の籠った眼で見つめるなよぉ。そんな眼で見られちまったら――」


 男の姿が消える。


「――俺もやる気になっちまうだろ?」


 気が付くと男は二人の大剣を取り上げにやりと笑みを浮かべていた。


「な……!?」


「流石!」


 二振りの剣をひょいと後方に放り投げるとゆっくりとした足取りで騎士シュヴァリエ達の方へ向かっていく。


「いやなに、俺はアイツからブラン公爵邸で賊が暴れまわってるからどうにかしてきてくれって頼まれただけなんだが……。どうもおかしな事になってるみたいだな、ライオネット?」


「これはこれは……黒の騎士団の団長ともあろう方が自らいらっしゃるなんて光栄なことです」


「そーゆうのいいから。で、どうして誘拐されたはずのクロエ嬢ちゃんが傷だらけでその賊を庇うようなことしてるんだ?」


「え?」


 振り返るとクロエさんが僕の後ろで騎士シュヴァリエ達を射殺さんばかりに睨みつけていた。


 僕が見上げていることに気が付いたクロエさんは優しく僕を抱きしめる。


「……もう大丈夫よ。あの方が来てくれたならもう平気。こんなにボロボロになるまで戦ってくれて、ありがとう……」


「いえ、僕はなにも……」


 安心感からか緊張が解けて一気に脱力してしまう。

 クロエさんに後ろから抱きかかえられるようにして背中を預ける。


「まあ詳しいことはこれから聞けばいいだけだ。ここにいる奴らは全員騎士団に運ぶ、大人しくついてこい」


 言うだけ言った男は馬に跨ると背を向けて帰って行ってしまう。

 僕達の周りを騎士シュヴァリエが取り囲む中、同様に騎士シュヴァリエに囲まれたライオネットが不敵に笑みを浮かべる。


「困ったなぁ、僕は同行しませんよ」


「――そうか。なら力ずくで連れて行く」


 声が聞こえたかと思ったら既にライオネットの隣に男は立っていた。

 そしてライオネットの首元には剣の切っ先が突き付けられている。


「それは出来ないですよ」


「なに?」


 突然ライオネットの下に穴が開いた。

 一瞬で穴の中に姿が消えたかと思ったらライオネットは空中に立っていた。


「計画が失敗した以上もうここにいる用事もないですから。それに失敗はしたけど、収穫もあったからね」


 そう言ってライオネットは僕とリディアさんに視線を向けた。


「クロエはお返しします。それでは」


 今度は空中に、先程と同じように穴が開きライオネットは今度こそ完全にその場から消えた。


「だ、団長! 彼を追わなくていいのですか!?」


「んー? だって俺があいつから頼まれたのはブラン公爵邸で暴れてる賊をどうにかしてくれってことだけだし。ライオネットがどこに行こうか俺の知ったこっちゃないな」


 その後は振り返ることもなく馬に乗って早々に場を離れていく彼の背中が見えた。


「あ……」


 全身の倦怠感がドッと増す。

 瞼を空けているだけでも辛くなってきた。


「シン……大丈夫?」


 後ろから優しくクロエさんが声を掛けてくれているのが朧気に聞こえてくる。


 流石にもう限界か……。


 ゆっくりと暗転していく意識の中、僕はクロエさんを助けることが出来たという小さな満足感を抱いてゆっくりと瞼を閉じた。


 ※今回は短めですがここまでとさせていただきます。

 代わりに明日はエピローグも含め二話投稿すると思いますのでよろしくお願いします。


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