第23話 友達

「そんな事って有り得るんだね」


「.....そうだな。正直俺もビックリだ」


「確かに何か.....何かしたそうな感じではあったけど」


春香と話しながら歩く。

おっちゃんの喫茶店に向かおうとしている。

あのマスターが居る喫茶店だ。

確か春香は初めてじゃなかったか、と思ったので。

そして喫茶店に来る。


「ここ?」


「そう。此処だな」


「良い感じの喫茶店だね」


「そうだろ。中で話そう」


「うん」


そして中に入ると。

そこに.....花梨が居た。

予想外の人物に俺達は顔を見合わせる。

やっぱり此処か、と言う花梨。

それからゆっくりと立ち上がる。


「.....何のつもりだお前さん」


「色々な人に聞いて回った。此処なら話せるんじゃないかって思って」


「.....情報量半端じゃないな。お前」


「そうだね。私はそこだけ才能があるから」


そんな感じの会話をする。

そして俺は溜息を吐く。

それから、まあ俺も丁度良かった、と答えた。

そうしてから、お前と話がしたかったんで、と言う。


「何の話?」


「お前と鈴原の関係だ」


「.....その事を聞いてどうなるの?」


「お前は鈴原をボコボコにしたい。これに間違いはないな?」


「そうだけど。.....それが?」


「すまないがそれだけは止めてくれるか。アイツには妹が居てだな」


何でそんな事で貴方は庇うの?、と言ってくる花梨。

俺は、庇ってない、と否定しながら溜息を吐く。

そして真剣な顔をした。

それから花梨を見つめる。


「.....和平交渉で解決しないか。こういうのは」


「そうだけどね。でもそれに失敗したから。だから復讐する」


「.....お前.....」


「私は鈴原は許さない。私の額もそうだけどダメージを負わせたしね。今は守ろうという気にはならないから」


「原因は不良化で間違いはないのか」


「そうだね。引き摺り出そうとして失敗してこんな感じになった」


今となっては鈴原は許せない、と強く言いながら唇を噛む花梨。

俺はその姿を見ながら、お前は正義深いよな、と言ってみる。

それはどういう意味、と向いてくる花梨。

俺は、そのままの言葉だ、と回答した。


「.....俺も.....そしてこっちは春香って言うんだが.....コイツも。.....お前が一掃してくれたお陰で学校にまた通えそうだしな」


「それは私の為にやっているだけだけど?」


「お前は知らないかもしれないがそれはお世話しているって言うんだ。.....やり過ぎのな」


「.....は。馬鹿じゃないの」


そんな事を言いながらまた椅子に腰掛ける花梨。

その前に腰掛ける俺達。

それからマスターにオヤツとコーヒーを頼んだ。

そしてまた花梨を見る。


「お前は何がしたいんだ。マジに」


「言ったでしょ。私は鈴原に復讐がしたいって」


「じゃあ何で教室をより良いものにしてんだ」


「.....それは次いでよ。ただの。それ以外何もないわ」


それに学級崩壊なんてうざったいしね、と言う花梨。

俺は、それでは理由が乏しいな、と言う。

それから、もしかしてお前.....寂しいんじゃないのか、と言ってみる。

すると花梨は、あ?、とキレた。


「.....何が寂しいの?」


「お前に友人が居ないのが」


「.....友人なんて居るし。周りにいっぱい」


「だがその中で真の友人と呼べるものが無かったんじゃないのか。鈴原以外」


「だからこうしていると?そんな馬鹿な。はっ」


理由が乏しいしな。

怪しいんだわ。

思いながら居ると今度は春香が、私達が友人になっても良いかな、と切り出す。

それはぶっ飛びすぎだろ。


「は?何様?貴方」


「.....私は貴方と友人になりたい」


「.....バッカじゃないの」


「私は貴方は良い人だって思ってる。だから絶対に鈴原に復讐したい訳じゃない。理由があるんだって」


「.....アンタちょっと黙って」


「花梨。お前がやっている事はな。良い方向に向き過ぎている。だから気になっているんだわ」


そんな言葉を放ちながら。

俺は花梨を見つめる。

春香も心配げに見ている。

すると花梨は不愉快そうな顔から。

複雑な顔をし始めた。


「私はあくまでそんなつもりは無い」


「じゃあお前は何がしたいんだ?マジに」


「そうだよね.....」


「.....私は.....」


そんな会話をしていると。

もしもし、と声がした。

顔を上げるとマスターがコーヒーを3杯持っていた。

オボンに乗せて、だ。

俺達は目を丸くして見る。


「其方の女の子は悩んでいるのかな」


「.....はい。そうですね」


「学校の悩みとか?」


「そうっすね」


「ふむ。そうなんだね。でも深く悩む事はないよ。僕も悩んでいたけどね。でも結局は落ち着いたからねぇ」


そんな事を言いながら花梨に笑むマスター。

花梨は目を細めて威嚇していたが。

やがて柔和になった。

俺はその姿を見ながら、花梨、と声を掛ける。

そして告げる。


「俺はお前に感謝しかない。.....より良い環境にしてくれて有難うな。.....お前は感謝されるのが慣れてないのもあるんじゃないか」


「.....そうだよね。渚」


「ああ」


「.....バッカじゃないの!!!!!」


そしてそう絶叫してから立ち上がってからそのまま顔を覆う花梨。

それから号泣し始めた。

ありったけの涙を流し始める。


ああそうか。

苦しかったんだなコイツも。

そう思える感じである。

思いながら俺は花梨を見ていた。


「.....花梨さん」


春香が優しく撫でる。

それから頭をゆっくり撫でる。

まるで子供をあやす様な感じで、だ。


鈴原と仲良くしたかった。

だが感情がグチャグチャになったんだなコイツ。

それで復讐心が芽生えたが。

だがその中でも.....仲良くしたかったんだな。


「アイツは変わらないから.....だから腹立たしいから」


「.....うん」


「だからもうグチャグチャだから!!!!!.....鈴原を見返そうと思ってモデルになったのに.....!」


「うん」


「なのに何で!!!!!」


俺達は暫く泣きじゃくる花梨を見ながら。

マスターは音楽を変えながら。

そのまま暫くその感じを保っていた。

そしてまた座る。

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