第4話 親代わりの女性

俺は義妹の痛みが分かる。

どれぐらいかって言えば家族を失ったのは俺も同じだから。

だからかなり痛みが分かる。

だけどそれはそれこれはこれ。

今は.....俺は義妹の事は絶対に許せない。


「親父。.....俺はどうしたら良いと思う?」


仏壇に向けて手を合わせる俺。

俺と義妹は共同でこの仏壇を使っている。

だからこうして手を合わせているが。

これで良いのだろうか。


「何でアンタ死んじまったんだかな。.....俺は悲しいよ。.....そして呆れた」


それから言いながら俺用の数珠を置いてから俺は立ち上がる。

するとそのまま襖に手を掛けて開けると。

そこに義妹が居た。

俺を見て心底ビックリしている。

コイツは何をしている。


「ご、御免なさい。盗み聞きじゃないの」


「.....まあそうだろうな。お前がそんな真似をするとは思いにくい」


「うん.....」


「だけど何故この場所に居る」


「偶然です。お供物をしようと思っただけです」


言いながら俺を見て直ぐに目を逸らす義妹。

その様子を見ながら足を見る。

擦り傷は相変わらず痛そうだな。

俺はボリボリと後頭部を掻きつつ聞いた。

消毒はしているのか、と。


「.....はい」


「そうか」


「痛みがまだありますけど.....でも大丈夫です」


「消毒だけはしろ。死んでもらっちゃ困るんで」


「.....はい」


そう言いながら俺は襖を開けてそのまま去る。

そして窓から外を見ると。

少しだけ晴れていた。


今日は日曜日だ。

だから結構な思いがあるな。

外に行きたいとか。


〜〜〜〜〜


正直言ってしまうと。

私はお兄ちゃんに嫌われたのがショックでショックで仕方が無い。

それはもう言った通りだが本当にショックなのだ。

自業自得。

それを言ってしまえばそれで終わりだが。

どうしたら仲を取り返せるのだろうか。


「.....お姉ちゃん。.....でも甘い考えだよね。こういうの」


こういうの.....本当に甘いけど。

でもお兄ちゃんと仲をまた取り返したい。

だってお兄ちゃんは.....私の恩人であるのだ。

それもあるし.....私に取っては大切な想いの人でもある。

正直これが好きとかいう感情なのかは分からないけど、だ。


「.....甘い考えかもしれないけど。.....私は.....」


仲を取り返したい。

でも私が悪い。

どうしたら良いのだろうか。

こういう時に相談出来るって言ったら。

凛花お姉ちゃんしか居ない。


美容室のお姉さんだ。

そのお姉さんならきっと私の相談に乗ってくれるだろう。

思いながら私は座布団からゆっくり立ち上がる。

それから痛みを感じながら足を摩ってからそのまま玄関から外に出た。


〜〜〜〜〜


アイツがどっか行った。

俺には知った事では無いが。

だけど何処に行ったのだろうか。

傷を負ってもらっては困るので無茶はやめてほしい。

死んでもらっては困る。


「.....まあ.....勉強するか。アイツがどっか行ったなら」


思いながら居るとスマホにメッセージが入った。

そこには山部春香(やまべはるか)からのメッセージだ。

俺の幼馴染の.....女子だが。

こんな事が書かれていた。


(義妹ちゃんに嫌われたって?アハハ。君も変わらずだね。また碌でもない事を言ったんでしょ?)


頭に血が上った。

そして俺は、そうだな。お前さ。変わらずだけどお前と絶縁するわ、と送る。

すると数秒してから、え?、と素っ頓狂な答えが返ってくる。

俺は、その通りなんで。もうこのメッセージは使えなくなるからな、と送った。


(え?ちょ、意味が分からないよ?)


(煩い。お前とは話したくない)


そして俺はメッセージを打ち消した。

それからアカウントも消す。

ようやっと絶縁出来たな、と思いながら。

鬱陶しいんだよなマジに。

考えながら。


「.....みんな死んじまえば良いのに。クソめが」


俺はそんな事を呟きながら。

そのままスマホを投げ捨ててから勉強を始めた。

すると今度は電話が掛かってくる。

誰かと思ったら花梨さんだった。


『もしもし?やっはろー』


「.....?.....どうしたんですか?」


『いやいや。実はね。君と話がしたいなって思って。髪を切りに来たの。君の義妹ちゃんがね』


「.....それで?」


『.....うん。悩み事があったらお姉ちゃんに話してごらんなさいって話だよ』


大葉花梨さん。

俺たちにとっては夜遅い帰宅になる親に代わっての親代わりとなる女性。

40代ながらもそんな姿には見えない感じの女性で。

長い黒髪をしている柔和な女性だ。


「.....正直何も話す事はないです。絶縁したんで」


『そっか。.....また髪の毛切りに来なよ。それ以外でも良いから』


「.....」


こんな調子だから。

気が狂うもんだな、と思う。

もう10年来の付き合いなのだが。

俺にとっては、だ。

全く.....、と思う。


「.....はい」


俺はそう返事をしながら電話を切った。

それから空を見上げる。

バルコニーに出てみながら、だ。

そして息を吸って吐いた。

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