85.タイムからダンの手に

 ダンは、4ケ国の公使として、見事南大陸国王との条約を締結して帰国した。

 帝国はこれを大々的に宣伝し、楽団を動員しパレードを組んで、一行を英雄として歓迎した。ヤミーがダンを迎えるヒロインに押し立てられ、二人の抱擁は新聞にも描かれた。

 これが下手に美化されず、ヤミーそっくりだったので驚いた。美人という訳ではないけど、笑顔が可愛いヤミーが実に上手く描かれていた。

 どうも城から新聞社に働きに出たコマッツェ門下の手による者らしい。この絵が人気を呼び、ダンとヤミーは新大陸へ愛を伝える伝道師みたいに歌われた。

「どうしてこうなった!」後日ダンが新聞を手にして叫んだが後の祭りだ。

 実際、彼は真剣に体当たりで南大陸外交を成し遂げたのだ。嘘じゃあなかろう。

 ヤミーはと言えば。ダンが土産に持ち帰った香辛料で新しい料理「カレーライス」を大喜びで煮込んでいた。周りの育児部の女性陣が香ばしさにウットリしていた。みんなウハウハいうよ。

 次はカカオ豆っぽいものでチョコを作ろうな。


******


 帝国から、フロンタから麦や酒が南へ向かう。

 船には魔導機関が、魔導レーダーが積まれ、嵐を避けて高速で進む。

 超弩弓を積んだ護衛艦も同伴する。


 アブシンからも紅茶や香辛料、貴石類といった、腹を満たす事は出来ないが大陸貴族の嗜好にあう贅沢品が運ばれる、検疫設備を通って。

 南大陸からは蜜輸入品も運び出されたが魔導レーダーで上陸前に発覚した。碌に防疫もしていない乗員は黒死病を発病したため、沖合で沈没させられた。密輸に携わった商会は忽ち捕縛され、商会員やその家族は路頭に迷う事となった。そのため密輸は割に合わない商売として、その後は発生しなかった。


 そして。


******


 ミデティリア帝国、フロンタ王国からダンに対し、名誉伯爵号の贈与が打診された。ほどなくして同調したダキンドン王国からも打診があった。護児国もこれに先立ってダンを陞爵する必要が生じた。

 ダン、今年で26歳。

「そろそろいいかなあ」

「何がだよ?」


 例によって、三之丸商店街の「覚悟亭」だ。

「いらっしゃ~」と8歳になった看板娘ちゃんがお水と手ぬぐいを持って来てくれる。大きくなったなあ。奥では女将さんが赤ちゃんをあやし、三度大きくなったお腹を抱えて休んでいる。亭主は…20代だよな?40代じゃないよな?偉く老けてないか?


「ダン、お前、王様になれよ」

「嫌だよ!親父が王様だ」

「だから親父じゃないって」

「そもそも王様ってのはヒゲが生えて偉そうな感じで」

「エンタ王やウチのお義父サンはそうだけど、イキでナイスでスマートなキオミーも麗しの聖女王オーティもそんなんじゃなかろ?今や王や校庭はヤングソルジャーな時代だよ」

「でも俺が王様かよ?」

「ああ、前のダキンドン王やアブシン王なんかよりよっぽど立派だ。お前、体張って大陸同志の条約を結んだ英雄なんだぞ?」

「俺はブリナ提督の友情に答えただけだ!ってアブシン王?」それは気にすんな。


「いや、俺じゃああはできなかった」

 一緒に通訳したジョーが反論した。彼も名誉子爵を打診され、受理する事になっていた。

「あの時率先してお前が話した。だから俺もついていけたんだ」

「そうそう、俺も同じですよ」とミムラタ。

「お前、コイツラについてけるなんて、がんばったなあ~」しきりに感心するコマッツェ。

「この人無茶苦茶ですよ!でもあの時あの突っ込みがあって、あの提督…公爵かあ。必死に会話してくれたんですよ!」

「ミムラタは正しい。帝国や総本山の偉い学者よりも、ダン、お前の気持ちが二つの大陸の架け橋になったんだ」ジョーは熱気を込めて行った。

「んな大した事じゃ…」

「それがどれだけ偉大な事で、他の貴族に真似できない事だと思ってるんだ?

 お前、ヤミーを待たせて、海を越えてさ、一度裏切られて死にそうになって、それでもまた行ったんだぞ。

 普通もう嫌だって言うだろう」私も力説した。

「そんな事言うヘナチョコ、貴族なんか止めちまえ」

「そんな奴ばっかりなんだよ貴族って。アッチの王様もそうなっちまったろ?」

「そんなんで貴族って言えるんなら…俺が王様になっても…ん~やっぱおかしいって!」

「「「お前もヘナチョコじゃん?!」」」

「できらあ!」

「「「おおー!!!」」」

 店の他の客たちが、立ち上がって拍手した。「「「キャー!!!」」」女の子たちが新王誕生の瞬間に立ち会えた事に歓喜していた。

「ダンさんがんばってー!」「あー!あんたズルいー!」

 亭主が黙って子守歌の純米吟醸の生を持って来て、高級な切子の杯に注いでくれた。

「新王誕生に!」「「王様に乾杯!」」「え?俺が王様だって?」あれ?またページ逆に読んだ?


「これで今度はヤミーちゃんが王妃様かあ」

「国民だけじゃなくて世界に愛される王妃様だなあ」

「ヤミーは俺の妻だぞ!」

「いやそういう意味じゃなくてさあ」

 この店は今日も笑顔で一杯だ。嗚呼。子守歌の純米吟醸生酒が旨い。この酒もよくぞここまで育ってくれたなあ。

 目の前の、ダン、コマッツェ、ジョー、ミムラタ、ここにいないムジカ、ヤミー達と一生懸命育てた米が、ここまで美味い、スッキリしつつコクがあり、飲んだ後に甘い香りが鼻に残る良い酒になった。みんな小さかったなあ。可愛かった。ダンは生意気だった。

 そのダンが国王か。

 皆で大きくなったんだ、私も多くの子と一緒に大きくなった、この城を一緒に大きく育てたんだ。

 有難う、みんな。


******


 できれば護児国だけでも早めに民主主義に移行したかった。しかし他国は納得しないだろう。

 今ならダンという新しい英雄の誕生にかこつけて世代交代出来る。平民の王だ。


 国王譲位をオーティーに話したら「国王様の気持ちに従います。従いますけど…早すぎませんか?お城が国になってまだ10年にもなっていませんよ?」

「てか俺の妻ん所にホイホイ来ないで欲しいなあ」

「おう、済まない。改めて出直します」そうだよもう人妻なんだよオーティーは。

「いや、もういいよ。このノリでクソガキ教皇ブっ殺したんでしょ?

 そういう歴史をホイホイ動かすお歴々のお仲間になれたって事で…許す!」「許されちゃったよ」コイツ、ますますノリがキオイーっぽくなったな。


「で、要はなるべく城の事を子供達に任せて、自分達で回せる様にさせたい、自分は後ろで見守りたい、ひいてはお手柔らかにヨロシクって事でしょ国王サマ?」ロボシ王配ならその位は解るか。

「話が早すぎるな」「私の夫は頭がいいのよ」仲がいいな、よかったねオーティー。

「でもダン将軍は真直ぐ過ぎる。それがいいとこだけど、悪い奴等の餌食になりそうだ。

 かといって魔導士サマが後ろで見てちゃあ成長出来ない、でしょ?」

「流石キオミージュニア」

「いや、俺の友達に、あいつとソックリな奴がいてさ、気が気じゃないんだ」天才少女モネラを射止めた熱血騎士フラーレ君だな?

「俺は今幸せだ、イテキバン戦争の時北はダン将軍が守って、南に俺がいた。どっちも絶対勝つってそんな気持ちがあってさ。

 そんで南大陸との外交を大成功させたでしょ?悔しいったらありゃしない。いっしょに南に行きたかったさ」

「いつか行けばいいさ。色んな国が南に行ったり北に行ったり、疫病に気を付けて言葉の違いも乗り越えて往来して、世界は強くなる」


「面白いな、本当。御屋形様のお蔭だ…いや、お陰です」

「何だよ改まるなよキオミージュニア」

「嫌だなあその言い方」「いや、お前はあのキオミーのジュニア以外の何物でもない!」

「死にてぇ」「うふふっ!あはははー!」「おお、聖なる女王様はご満悦だぞ?」

「だってなんか貴方達、あはははー!ずっと友達だったみたいだもん!」

 ダキンドンの夜は笑い声に包まれた。


******


「てか帝国の皇帝だぞ、ホイホイ来ないで欲しいなあ」

「うるせえ防疫戦争回避したお礼と思え。てか言い回しがジュニアそっくりだな」

「嫌な事いうなあ。勘当してダキンドンに追い出したんだぞ」

「ああ。お蔭で南大陸に行きそびれた、ウチの次期国王と一緒に外交したかったって悔しがってたぞ」

「あ”ー。しくじったよ。そういう胆力って言うか瞬発力ある奴の筆頭がロボシだった。外交権益かっさらい損ねたなあ。死にてぇ」

「やっぱり親子だ」

「うるせぇ」


「他国の事に口を出すのははばかられるが、俺は反対だ。せめて後10年は待つべきだろう」

「そうか…」

「今護児国に政変があれば、いかにあの英雄が王になろうと、わが帝国を含め各国の強欲な貴族達の餌場になるのは目に見えているぞ。下手すりゃあの子本人だけじゃなく、可愛がってる奥さんや他の城の子にだって暗殺の手が伸びるかもしれんしな」

 彼も深慮遠謀の末若くして皇帝になった男だ。周りに犠牲者を出した事も、その逆もあっただろう。

「それはな、多分遅かれ早かれ、だ。だったら今盛り上がっているこの時を逃す手はない、そう思ったんだ。

 彼は今、南大陸への窓口という強力な手札を持っている。やるなら今だ、そう思ったんだよ」

「今下手に手を出す者がいたら逆に吊し上げられる、って事か。

 全くホントにお人よしだなあ。俺だったら逆に襲ってきた奴虱潰しにして政敵を消し去ってやるのにな。

 そんな芸当あの子にゃ無理だろ?」

「ぬう…」

「提案だ。もう少し裏稼業に慣れろ。使うか使わないかは兎に角、ウチの手練れを貸してやるからそっから学べ」

「申し出はありがたいが、考えさせてくれ。ま、受けるにしろ断るにしろ、見返りは考えるさ」

「そりゃ話が早い。そうだな、アブシン行きの道案内から、だ」

「反対する理由はない。そもそも最初に彼らを歓迎したのは帝国だからな。俺なんかより先にあっちに乗り込む権利はある。秘密部隊の受け入れは兎に角、用意しよう?」

「ほう!久々にオイシイ話にありつけたな!ははっ!新国王様に乾杯だ!」

 海洋国家としてフロンタを出し抜きたかったのか、余程嬉しそうだ。

「ありがとうな、タイム」

「この程度の事…」「いや、お前はいつも俺達のずっと先を見ている。いや、知っている。

 だから、一番犠牲の少ない方法で、一番多くの人を幸せにする方法で、俺達を導いている。

 お前がいなきゃ、皆死んでるさ。礼など言い尽くせない。

 今度は俺達がお前の子供達を護ってやる番だ」

「そう言ってイキナリ攻め込んでくるなよ?」

「お前の子供達が国の舵取りを誤らない限りはな。譲位した後もちゃんと面倒みてやれよ?」


 この二国、二元首なら忌憚のない意見を話して貰ったと信じられる。

 その後、フロンタ、総本山、そして義実家にも面会を申し出、事情を説明した。


******


 城の首脳陣に対し、

「私は護児国王を座を辞し、ダンにその座を譲る。晴れて私は無職のフーテンだ」

「どーせ色々ちょっかい出して、新しい物作ったり新しい酒造ったりすんじゃろ?」

「はは、そらそうだが。ステラはどうだ?」

「私は、…嬉しいわ。ダン、おめでとう。みんなを宜しくね」

「姉ちゃん?大丈夫か?」

「何でもないわ。王妃になったと思ったら今度は弟が国王なんて、おかしいよね?」

「ふう。これで王妃様なんて肩書ともお別れだねえ」

「ていうか普通王妃様なんてなれるもんじゃないよ」

「ましてや私ら田舎娘がねー」「ねー」「「あははは!」」イーナムとジーミャって時々姉妹みたいに感じるな。


「それでは各国に通知を出しますが、理由としてはイテキバン撃退の功績と、アブシン王国国交樹立の功績を讃え、という事で宜しいでしょうか?」ジョーが確認する。

「後、若い力がこれからの世界を導く、そのために道を譲る、と書いて欲しい」

「それは他国への挑発と受け止められませんか?」

「もう大体は話してるよ」「そうですか…」

 斯くて独立承認後わずか7年で若き国王への譲位が決まり、各国首脳は内々に聞かされていたとはいえ、改めて衝撃を受けたのであった。


******


 思えば、シャトー・ダキンドンでの奇跡の落雷を皮切りに、総本山クーデター短期鎮圧、聖女王オーテンバー即位、大陸首脳会議、イテキバン戦争と戦勝式典、聖女王と帝国皇子結婚、南大陸の発見と国交樹立。国際的な大事件が立続きの10年だった。

 そして今。


 大陸暦1518年5月。護児国、新国王即位式典。


 再び護児城の地に各国首脳が、そしてアブシン王国からブリナ公爵が、条約締結時に姿を現さなかった国王を連れて来た、というか首根っこを引き摺って連れて来た感が見て取れる。

 そして迎えの魔動船に食糧支援の感謝の品々、酒や貴石、貴金属も満載して。

 グランディア大陸からの援助で麦類が育ち、芋に替わって人々の命を繋いだ。

 こちら同様抵抗勢力はあったものの、委縮した王に替わってブリナ公爵が排除し、飢餓の恐怖は回避できた様だ。

 護児国王即位式典への出席は、それに対する返礼の場でもあった。


 南の大陸から王が来る報せは、北大陸を沸かせた。

 未知の大陸の王とあって、ポルタの街も、帝都マンナも、シャトー・ダキンドンでも大歓迎であった。

 まず彼らアブシン王国使節団は鉄道に驚愕し、軍楽隊による歓迎に感動し-どうやら彼らには長い軍楽隊の歴史があったのだが、こちらの方が洗練されていて驚いた、という事らしい-各元首の友好的な態度に感激した。

 グランディア大陸風の巨大建築にも、尖塔を多く配した豪壮な建築を眺め楽しんだ様だ。

 どうやら建築の巨大さではアブシンも相当なものがあるらしい。見に行かねば。観光も交易の目玉になるな。


 常に医師が付き添い、体調を管理した事も喜ばれた。

 大陸縦線がイニロトナス山入口のトンネルに入ると不安がり、地上へ出ると…

 林檎並木と菜の花畑が、今回も来客を歓迎してくれた。始めて見る色彩の世界に、南国の客人は、あの臆病な国王ですら我を忘れて感動していた。


 他の元首たちも、

「初めてここに来た日を思い出すな」「次はこの花の咲く木を私達の国に植えましょうよ!」「またおねだりかね」とフロンタ王夫妻。その位お易い御用です。


「久々に来たなあ。今回みたいに裏工作をあれこれ考える必要がないってのは気楽だね」

「いえいえ。フロンタは必ずアブシンに通商条約を持ち掛けますわ。出し抜く手は既に打ってある、そうお考えでしょ?」

「やだなあ。久々にロボシの顔も見れるし、そんなバトルしたくないねー」とミデティリア皇帝夫妻。


「いつ来ても、この花は綺麗ですわ」

「ああ。今度ばかりはウチはのんびり大人しく、花を眺めていようかね」

「いいえ。南の大陸では多くの人が飢えと隣り合わせでいます。今しばらく支援が必要です。

 その支援の見返りを求めなければ国内が納得しないでしょう。少し頭が痛いですわ」

「オーティ、君はゆっくりしてくれ。それは俺の仕事だ」とダキンドン女王夫妻。


「南国にはどんな酒があるんじゃろなあ!強ぇ酒がありゃええなあ!」

「私はこちらとは違う香りと噂のワインが楽しみですわ」義両親は相変わらずだ。


 そして、結局未だに退位できずに総本山を取り仕切っている教皇ディグニ49世も再び護児城に来てくれた。後継者が不足しているのではなく、逆に多くて決め切れずに困っているとか。まあ安泰だ。

 首脳陣を乗せた列車は、白く聳える天守と櫓の群れの下へと走って行った。。


 首脳が到着する都度、私とダンが歓迎し、パレードが行われた。久々の賑わいに城内の若者も、その子供達も、二之丸の子供達も来賓に花吹雪を捧げた。

 前回以上に、若い閣僚達が来賓を持て成し、各国首脳陣と顔つなぎを行った。

 前回に続く各国の歴訪で、護児国と外の世界の距離は一層縮むだろう。そうなれば交流も今以上に盛んになり、これは城に富を齎す。ケチケチせずパーっとやろう。


 妻達も各国来賓を迎え入れ、城の子達も、10人を超えるミナトナ達も衆目を集めながら来賓を大広間へと案内した。


 夜。前夜祭とばかりに本丸御殿は饗宴の場となった。今回は護児国の問題なので全部ウチ持ちだ。しかしイテキバン戦争での築城援助、軍事指導の見返りで国庫は過剰な程潤い、大陸経済を歪なものにし始めていたので、ここで一気に放出する事とした。金は動くことで世の中を潤すものだ。

 それも単なる贅沢ではない。大陸同盟の会議、集会は今では各国の物産会としての機能も果たし、普段触れる事の少ない各国の特産品、工芸品、食文化、音楽を交換する場となっていた。開催地の劇場では、各国人気の演劇なども上演され、芸術家たちを大いに刺激し、新しい消費を喚起していた。

 ましてや今回は新大陸からも参加だ。相当な人数が城に押し寄せ、練兵所や校庭、休耕地まで仮設宿舎に割り当てられた。これも災害時に活躍するだろう。


******


 翌日、一同は南之院に集合した。

 各国の王、大陸首脳を越えた大陸間首脳が集まった。

 荘厳な音楽と、聖典の歌が合唱される。演奏はもうムジカの指揮ではなく、テンポラが仕切っていた。ムジカとコマッツェは各国の学術・芸術の重鎮への対応に廻っていたのだ。

 そして各国の楽団が続いて祝典の曲を演奏した。


 教皇が祝福の言葉を述べる。宗教的な祝典ではなく、大陸の文化的権威による祝辞、という位置に止めていた。ドワーフと、新たに仲間に加わったアブシン国という異教徒への配慮である。

 私と、ステラ達10人の王妃は壇上の飾り台に王冠を返上した。

 私は進み出て、平易な言葉で話した。


「今日、私達は多くの困難に立ち向かい、奇跡とも言うべき勝利を勝ち取りました。

 飢饉、疫病、そしてあの忌まわしい侵略。しかし皆さんは勝ちました。

 そして更に、若い情熱は大陸を隔てる海を越え、未知であった国との友情を得る事が出来ました。

 この勝利と友情を祝し、私は、明日を生きる若者に、この国の未来を託したいと思います。

 皆さんに、新国王を紹介します。ダン」


 そしてダンとヤミーが壇上に登り、私に跪いた。私はダンに王冠を授けた。

「私は貴方を、護児国の新たなる国王に任命します。国を守り、皆を守り、多くの国との友好と平和を守る重要な役目を、貴方に頼みます。」


 そしてダンは、王妃の冠をヤミーに授けた。二人は立ち、宣言した。

「私、新国王ダンは、国を守り、国民を守ります。

 この大陸は、数多くの動乱を乗り越え、疫病と戦い、好戦的な侵略者と戦い、更に未知の大陸の友人を迎え入れる事ができた勝利と平和に包まれています。

 それらはここにお集まり頂いた聡明な主導者の皆様の、誰一人が欠けても成し遂げ得なかった奇跡です。


 私は皆さまの栄光の末を歩く者として、深く感謝を捧げると共に、多くの国との友好と平和を守る使命を果たす事を誓います!」


 ファンファーレが鳴り響き、それに続いて国家「収穫の歌」が演奏される。一同は立って、城の合唱隊が、会衆席の若者たちが、声を合わせて実りを喜ぶ歌を歌い上げた。

 ここに護児城は早くも代替わりする事となり、それは諸外国に受け入れられた。

 護児国二代目国王ダンは、最初の仕事を無事終えた。


 続いて各国を歴訪し、名誉貴族の位を授かり、二国間の懸案事項、主に貿易・技術伝授に関する問題の計画が立てられ、外交も無難に終える事が出来た。勿論皇帝の南大陸訪問の案内も買って出た。これにフロンタとダキンドンが続く予定となった。


 なお、ダンの仕事はそれだけでは終わらなかった。

 しばらくしてヤミーが身籠ったのだ。城は更なる歓喜に包まれた。

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