84.南海の花束

 二つの大陸間の歴史的な協定は、相互の人権尊重、不可侵、刑法尊重、人身売買の禁止、防疫手順の順守といった、実に基本的な項目に絞って定められた。

 勿論、「翻訳の誤りで齟齬があった場合は、協議の上円満に解決する」との一文も添えられた。悪く言えばザル法だ。

 二か国語で書かれた文書に、皇帝と、アブシン国王の代理としてブリナ公爵が署名する。

 そして、グランディア側の用意が出来次第、アブシン王国への表敬訪問の艦隊を派遣し、アブシン王国はそれを歓迎する約束が交わされた。

 皇帝から送られた二か国語で書かれた文書と大陸の宝物、そして美酒を満載した艦隊は、魔導レーダーを使い好天が予想される日を選んで帰途に就いた。


 半年後。魔導機関車の原理を応用した動力を持つ、長距離航海船5隻がポルテを出港した。帆を持たぬ、魔石でスクリューを回して従来の船の数倍の速度で突き進む大型の新造船は、見送る観衆の想像を超えた時間で視界から消えた。

 出航したのは大陸同盟公使としてダンが選ばれた。というより押し付けられた。

 無論本人の意思もあるが、各国の貴族とも腰が引けて名乗り出る物がなかったからでもある。特に南の海は波が荒い時があり、船乗りたちも恐れる程であった。

 結局ダンと、護児国に押し付けられた守旧派子弟の内、「俺と新しい世界に乗り込む奴はいるか?!命懸けの旅だ!」との檄に応じた数人、そして新しい船に興味を持った恐れ知らずの船乗りたちが同行する事となった。

 帝国からの助言でダンと元貴族子弟は護児国にて叙爵され、貴族として派遣される事となった。


 愛するダンを見送ったヤミーが「これならすぐ帰って来るかな?」とあどけない顔で聞いて来た。「ああ。すぐ帰って来るさ」と、彼女の笑顔を崩さない様に答えた。


******


 それから、ダンの手紙が海鳥の足に括り付けられ、最長1000kmの海を渡ってポルタで待つヤミーの下へ届けられた。マギカがダンに特訓した伝書鳥の使役魔術の成果だ。

 そこに書かれていたのは、親書と言うには他愛もないものだった。


「船乗りが早さに驚く、流石アンビー様だ」


「船乗り伝統の飛び込み競争を提案されたが、船の早さのため取りやめになった。

 マストも無いのでマスト昇り競争も無く、止む無く御屋形様直伝の『相撲』大会となった。

 勝者に酒が贈られる事になった。

 俺は決勝で大男の船員に負けた。」


「船乗りが魔導機関の操作に慣れて来た。アンビー様を讃えている」


「地平線が見え、迎えの船が来た。ブリナ公爵自ら来てくれた。

 天然痘の予防接種は進んでいないため、滞在地は王都ではなく港町だけになった。

 凍らせたプリンさん達の乳を提供し、港町の市民への配布を頼んだ」


「残念だがプリンさん達の乳は貴族が奪った。港町は無防備のままだ」


「王都への招待を断り、港町での会見となった。

 向こうの貴族達は無礼と詰ったが、こっちも『市民保護のための薬を強欲な盗賊に奪われた以上、貴国の市民を危険に晒せない』と啖呵を切った」

 やるなあダン。


「港町は不衛生だ。ネズミが多く、御屋形様が言っていた感染の危険がある」

「ネズミによる黒死病伝染の危険を訴えたが無視された」

「ブリナ卿も説得に協力してくれるが相手も頑固な模様」

「国王代理、男爵級の使者と対面。献上品を受け取るとの通知。

 ブリナ公爵との条約について確認したが『知らぬ』との事。ブリナ公爵、使者を斬首」


 どうにも雲行きが怪しい。

 そして。


「下船した船員に黒死病発病。会見を中止し全艦直ちに帰投」

「最大船速でミデティリア帝国ポルタ港に寄港する。防疫準備請う。4日後に帰港予定」

「発病者の唾液は魔道具に納めて送る」

「発病した船員、栄養剤でやや回復。他に下船者3名発病。下船者と発病者は隔離済」

「明日帰国予定。発病者3隻で計20名。一部症状悪化」


 更に。

「本日午後帰国予定。発病者5隻で40名、死者2名。自分も発症し隔離」


 ステラは気を失って倒れた。

 ヤミーは「ダン兄ちゃんは大丈夫、強いもん」と自分に言い聞かせる様に言った。

「なんで…なんでダンばっかりこんな目に合わなくちゃいけないのよ!」起き上がったステラは取り乱していた。

「ダンに何かあったら、御屋形様だって許さない!」

 ステラの目には、狂気すら感じられた。


******


 城では、伝書鳥が運んだペスト菌のサンプルを使い、マギカとモネラが病院の研究室で顕微鏡を拡大して映すスクリーンと向き合い解析していた。

「細菌は二つに分かれて増える。病気を重くする細菌も同じだ。

 コイツをやっつけるには、二つに分かれた時、細菌を包む壁を造るのを邪魔する事だ。

 別の細菌、カビ菌を使って、ペスト菌に「壁が出来た」って騙す。

 そして分裂したら、壁がないから菌は崩れて死ぬ。こうすれば菌は増えずに崩れて死んで行く。」


 既に炭疽菌対策で作った抗生物質をペスト用に改良したものを完成させ、増産した。

「ヤミーちゃん、あなたの大事なダン兄ちゃんは絶対助ける!」モネラは心の中で誓った。


 午後、艦隊は帰って来た。疫病発生を知らせる旗を掲げて。


 完全防御の防疫船から医師が各船内の隔離区画に向かう。ダンもその中に居た。

「ヤミーに伝えてくれ…俺は帰って来た…」ダン達への投薬が始められた。

「兄ちゃんは大丈夫!大丈夫!」ヤミーは涙を堪えながら自分に言い聞かせていた。

 艦隊は3週間沖合に停泊し、乗員達へ家族からの手紙が届けられた。誰もが一日も早い上陸を望んだ。

 そして運よく発病しなかった者から上陸した。


 隔離区間では「ペスト菌」とモネラが断言した。

「もう抗生物質は出来てる。ダン兄ちゃん、絶対助けるよ」と、抗生物質の経口投与が続けられた。

 抗生物質投与で病気の進行を抑えられた人達は、ダンも含めて、徐々に回復した。

 しかし、初期に発症し壊死が始まっていた船員は、数名が死亡した。


******


 ポルタ港を中心に立ち入りが禁止された。

 この報せは帝国の、現皇帝への圧力を高めたい貴族達に喧伝され「この責任をどうするつもりか」「大陸を疫病に染めるつもりか」と無責任な揶揄が叫ばれた。「周辺領地への手当てを!」と乞食みたいな事を言い始める貴族が出た。

「責任というなら出航に反対せず、大陸間貿易に前のめりになっていた貴公等にもある。貴公等はどう責任を取るか?自ら首を切るならここに剣があるぞ?言い出した奴から手本を示せ!」と剣を抜いて、騒ぐ貴族の眼の前に突き立てた。


「艦隊は適切に行動し、帰って来た。現在の犠牲者は最小限に収まっている。

 彼らを侮辱する奴は私が帝国の名の元に末代まで許さぬ。家名を消してでも糾弾したいという者は名乗り出よ!その勇気に敬意を表して上下三代まで殺し尽くして呉れよう!」

 キオミルニ31世が切れた時の発言が脅しでないのは先の粛正で帝国全土に知れ渡っていた。

 本件での帝室批判はここに消えた。


 しかし。


「南大陸は野蛮な国です!出征して領土とし、国民は奴隷として開墾にしようしましょう!」

「いつか疫病を齎す前に征伐すべきです!」

 今度は能天気な征服論が出て来た。

 まあ、こっちが最大限の礼を以て接したのに向こうは男爵級を使わせ、しかも公爵の顔を潰してまで無礼を働き、公文書を反故にし、挙句の果てに疫病を移してしまった。これは懲罰戦争になっても仕方ない。


「まあ、ちょいとビビらせるのは賛成だ」とキオミー。

「だが、高速船とはいえたった数隻で出来る事なんて嫌がらせ程度だしなあ」と、帝国議会も停滞した。


 そこに、私に付き添われたダンがマスクで口を覆い、出席した。皇帝から意見を求められての出席だ。

 ダンは既に全快し感染の予兆も無かったが、それでも多くの貴族が彼から遠ざかった。


 とは言え議会の停滞を打破する意見を求めて、帝国議員が私と彼を注目した。

「私、護児国防衛部長、ダンは、再度アブシン王国に向かいたいと思います」

「自殺行為だ!」「命を失うところだったのだ!」「これだから子供は!」

「黙れ!友好国の将軍、そして南大陸外交最大の功労者の発言だ!お前達が何をした?彼以上の何をしたっていうんだ?!言える資格がある奴だけ何か言え!」

 皇帝の怒りに、一同静まり返った。皇帝は、ダンに優しく目で合図する。


「再度訪問し、先の無礼を問い正し、仲間が死んだことを訴え、改めて戦うか友たるかを問います。

 船には超弩弓を積み、その先端には爆薬を詰め、こちらが本気である事を示します。

 そして、アブシン王と直接の面会を打診します。

 無論、都市衛生と市民への防疫を徹底させ、プリンさん達ミナトナの好意を無駄にした犯人の逮捕と処罰を行わせた上で!」


 ダンも怒りに燃えていた。友情を裏切られ、共に航海した仲間の何人かが疫病とは言え命を失った。


「しかし、それでも私はもう一度彼らに会いたいのです!直接会って真意を問い、折角築いた友情をより強めたいのです!

 戦うのは、その友情が完全に裏切られた時まで耐えるべきです!」


 ダンの主張は受け入れられ、第二次派遣団が用意された。


******


「行ってらっしゃい」再出向の前夜、ヤミーはダンに言った。

「ダン兄ちゃんが行くって言うんだもん、あたしは待つよ。おいしーご飯作って待つよ」

「ああ。ヤミーのご飯は、この世で一番美味しいんだ。また帰って来るよ。次こそ、いっぱいおいしそーなものをお土産に持って帰るよ」

「そんなのいらないよ。兄ちゃんだけ帰ってくればあたし幸せよ。

 帰って来て、帰って来てよー」笑顔のまま、ヤミーは泣いた。

 健気なヤミーをダンは優しく抱き止めた。ヤミーは我慢した分、いっぱい泣いた。


「ヤミー。姉ちゃんの近くにいてくれ。俺は姉ちゃんが心配なんだ」ダンがヤミーに頭を下げて頼んだ。

「いや!あたしここで待つ」

「頼む!御屋形様と一緒に、姉ちゃんを守ってくれ。とっても嫌な予感がするんだ」

「兄ちゃん…」

「俺は毎日手紙を出してる。明日着くよって手紙が来たら鉄道ですぐ来れるだろ?」

「うん。今度は病気にならないでね」「ああ。病気になってヤミーを泣かせるくらいなら、あいつらと戦って皆殺しにしてやる!」

「戦いはもっと嫌!あんなのもう嫌!」

「ごめんごめん。でも、人には許しちゃいけない時だってあるんだ。そうならない様、そうさせない様、俺は行くんだよ」


 ダンも、ヤミーも、優しく、心正しい。本当に真直ぐに育ってくれた。

 翌日、ダン達代表団を載せた魔動機船は高速で再度出発した。


******


 アブシン王国の王都ドリア。その王宮では怒号が飛び交っていた。

「国王は私を追放する、我が領を没収する。私と全面戦争に臨む!その御覚悟で間違いないか?!」鬼の形相でブリナ公が王を問い詰める。

「誰もその様な事は申しておらぬ」完全に腰が引けた王が弱気に答える。

 平和な時代が長く続いたアブシン王国は、暗殺やクーデター等強気に出た者が勝つ、みたいな風潮が蔓延していた。これ他国から侵略されたら壊滅するな。

「我が友たる北大陸の使節からの、疫病対策の要請を無視したではないか!

 男爵程度の者の道理も解らぬ蒙昧の輩を王代理として派遣し、あまつさえ北大陸使節に疫病まで移したではないか!

 これは北大陸に対する戦争の始まりを意味し、私を裏切り者として切り捨てる所業であろう!

 私はもう公爵ではない!北大陸と共に、約束を平気で破る野蛮人の国アブシンに対し、戦いを決意する!

 それでご異存はなかろう!」

「なにを北の蛮族ごときに腹を立てるか…」

「何が蛮族だ!我等が蛮族だ!」ガ〇ダムか?


 ブリナ公の権幕に、場は完全に怯え切っていた。

「彼らグランディアでは子供ですら何故人が病に罹るか、どうすればそれを避けられ、癒せるかを知っている!

 それを我等に教え、我等が病で死なぬ様に持て成してくれたのだ!

 しかも、かの国の若き将軍自らが、我等が退屈せぬ様に持て成し、技を競い、音楽を奏で、共に酒を飲んだのだ!

 私は、心の中で泣き、感謝したのだ!死出の船旅の果てに待っていてくれた友の持て成しに!

 それが我が国ではどうだ!野蛮人?それは我等だ、お前達だ!」

「お前はまだ若い。蛮族というものは…」

「私がお前達蛮族を皆殺しにしてやる!老人は若者にさっさと殺されて墓に入れ!」

「ブリナ待て!」「同じことを何十回も言わせるな老害!」

 次の瞬間、公爵は剣を抜き、彼の護衛達も剣を抜いた。

「解った!北の国との事は全てお前に任せる!」王はすっかり縮みあがった。

「邪魔もするな!」「わかったから剣を収めよ!」


 ブリナは王座に上がり、王を引きずり降ろして宣言した。

「国王に替わって貴族達に告ぐ。

 グランディア大陸から次の使者が来るが、それはもう友好使節ではない。

 我らの態度次第では戦争となる。全く何も得る事の無い、殺し合いとなるだけだ。


 私は非礼を詫び、恭順を誓う。現王族を捕らえ、奴隷として献上する事も辞さぬ!

 彼らを迎える街を綺麗にするぞ。

 北の大陸で私が見た街の様に、飲む水を流す上水も、屎尿を流し清める下水も大急ぎで造る。

 疫病をばら撒くネズミは皆殺しだ、奴等が死病を広める犯人だ。

 もっと早くこいつらが!」

「ひぃ!」国王を睨みつけると、王は玉座にしがみ付いた。

「やらねばならなかった事を、大急ぎでやるのだ!予算は王宮の蔵を空けて出す!

 抵抗する貴族は全て殺せ!」

 王宮内にブリナ麾下の兵が殺到し、王国や他の公爵達を幽閉した。

「皆、抵抗するな!ブリナの言う通りに従うのだ!」国王が怯えながら命じた。

 その晩の内に、大陸からの贈り物を独占した貴族、条約締結を邪魔した貴族は処刑され、親族は王城から追放された。


******


 南大陸にも、伝書鳥を操る魔導士は居た。洋上を進む魔動機船に降り立つ。

 ダンは足元の書を見つけ、先の無礼を詫び、王族を処罰し、歓迎の準備を整えるとの、たどたどしいグランディア語で書かれたブリナ公爵の書を確認した。その二日後。


 先触れの船が接舷し、

「ワタシノクニ、アナタタチヲ、ムカエル。

 王ダイリ、ブリナ公ガ、アナタヲ、ムカエル。

 ミナト、マチ、キレイ。ネズミ、ナイ。ビョウキ、ナイ。

 アナタノトモダチ、ビョウキ、シンダ、アヤマル」

と向こう側の状況を伝えた。


 ダンは複雑な思いを胸にしまって、解答した。

「ムカエ、アリガトウ。ワタシ、ブリナ、トモダチ。

 ダガ、ワタシタチ、ビョウキ、アル。

 ミナトノヒトタチ、コノ乳ヲノム、ビョウキシナイ。

 コレ、ウバウ、ユルサナイ、ワタシタチ、アウヒト、ミンナ、コレノンデ、オネガイ」


 2日後、ミナトナの乳という免疫を飲んだ市民の好機の眼に包まれ、ダン達帝国・王国一行は王城で国王代理ブリナ公爵と対面した。国王は怯えて後宮に隠れ、王族は一人も姿を現さなかった。


 ダンは、たどたどしい南大陸語で再会を喜び、援助物資の提供を宣言した。

「アナタとワタシがタタカワズ、イッショ、イキル。アナタがネガエバ、ワタシタチはアナタタチを、タスケル。ムギ、イモ、ココデソダテル」

 アブシンの民は喜んだ。凶作を救ってくれる希望が見えた。

「アナタも、ワタシも、チガウビョウキ、モッテル。

 アナタタチ、クスリをカラダにイレル、ワタシタチも、チガウクスリを、カラダにイレル。イッショに、イキル。

 オネガイデス、クスリを、カラダにイレテ、ホシイ。アナタタチ、イキテ、ビョウキ、ナオシテ、オネガイ」

 ダンは必死に、ブリナ卿だけでなく、周りの人達に向かって「クスリ、カラダニ、オネガイ」と何度も頼んだ。


 それを受けたブリナ卿が民衆に語った。

「彼らは一度我が国に援助に来た。しかし無能な王のため彼らは侮辱され、港町の不衛生さのため死病を移されて何人か死に、急いで帰った。

 彼らは私の友だ。それを殺したのは愚かな王とその愚かな配下だ!私は奴等を許さない!


 しかしそれすら彼らは許し、新しい穀物の提供を申し出てくれた。今、心優しい友は再び来てくれた。

 私は命を懸けて友に誓う。互いの病気を防ぎ合い、我が国を救ってくれる穀物の提供を受け、ともに栄える事を!」

 民衆は歓喜の声を上げた。


 この件で、ブリナ公は国政に絶大な影響を持ち、王とその子供達を抑える力を得た。

 それでも彼の国にはこちら同様反体勢力も多いだろう。ブリナ公の指導力に頼るしかない。


******


 護児、ダキンドン、フロンタ、ミデティリア各国は、シンナイ大陸に自生していない小麦と米を提供し、試験的に撒き、育てた。

 無事に芽吹き、説明員は現地で収穫まで交代制で農業指導する事となった。

「パン、ビール、タベルデキル?」「100日、ムギ、デキル。ソレカラ。パン、ツクル」と指導員も覚えたてのアブシン語で応える。

 通訳も一応いるのだが、「自分の言葉で、気持ちを伝えるのが大切ではないか」との私の提案が通り、みんな必死に現地語を学び、無理にでも話す様にしている。

 通訳のサポートで細かい説明がなされ、アブシン人達も納得し、感謝を告げた。


******


「クーデターでブリナ公爵が代表に。ドリア港の衛生向上、ネズミ撲滅」

「王都で歓待、協力体制の約束更新」

「支援物資の麦の説明会、好評。パンにアブシン貴族達大行列」

「大きな種の中心を発酵させ、砂糖と一緒に飲むと美味。ヤミーに持って帰る」

「とても辛い木の根もある。ヤミーに持って帰る」

「ブリナ公爵との覚書、国王の署名を得る。農業指導団の護衛を残し外交団は帰国」

 伝書鳥の便りを私は都度ヤミーに、ステラに伝えた。


「ヤミー、ダンが帰って来るよ。おいしそうなお土産を持ってね」

「大きな種って、何だろうな?辛いのっておしいのかな~?」ヤミーの笑顔に、とびきりの幸せが輝いている。

「ダン、大丈夫?」

「今度は元気だ。大丈夫だよ。ステラのお祈りが通じたんだ」

「よかったね姉ちゃん」ステラはヤミーに微かにほほ笑み、抱き合った。

「あ~、よかった~…よかったあ」ステラは半分病人の様に泣いていた。


 そして船は帰って来た。今度も3週間の停泊の末、全員発病無しを確認してポルタに入港した。

 下船する一行は歓迎する市民が贈る花束を受け取り、ダンは笑顔で駆け付けたヤミーを抱きしめた。

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