21.護児オリンピック

 年に3回のお祭り、今回は宗教とは関係のない、農村の収穫祭だ!


 祭りは先日引っ越しが終わったばかりの本丸御殿で開催した。飲み食いだけじゃ面白くないって提案があって、色々考えた。夕方のパーティだけじゃなく、昼から開始しようか。その結果…


 最初は乾杯。それから、野良仕事に因んだ競技大会を始めた。

 唐門から大広間先の庭園のゴールまでをレーンにし、

 男子は束ねた麦袋を担いてダッシュする袋担ぎ競争を。

 女子は紅組白組に分けて麦袋リレーを。

 年中組は紙に書かれたものを年長組から借りてゴールを目指す借り物競争を。

 年少組はみんなで歌に合わせて踊りを踊った。

 短めの運動会の始まりだ。


 競技中も、小さい子の歌にも、ムジカ達音楽隊が頑張る。走るコースの準備や、小物の用意にはコマッツェが頑張る。二人の息もぴったりだ。

 音楽隊の女の子たちがなんかウンザリした様な顔をしている。腐るな、明日のケルビム達。きっといい男達が君達を待っているぞ。


 年少組も競争するが、転ぶ子供も出て年長の世話役が大変だ。泣いた子、怪我した子を甲斐甲斐しくあやし手当てする。

 そして歌と踊り。ムジカがオルガンを演奏すると、年少や幼児が歌って踊る。ムジカは音楽隊の指揮に、演奏する曲の編曲にと大活躍だが、子供の歌を奏でたり、夜泣きする子に子守歌を歌ったりする方が、本当は好きなんだろうな。

 あの小さくやせ細っていたミッシも、元気にみんなとえっちらほっちら踊っている。あまりのかわいさに年長組がキャーキャー言ってる。


 ゴールが決まる度、競技が終わる度に、みんな大喜びで拍手喝采した。負けた子は悔しそうだが、応援している子は笑顔だ。競技が変われば、さっき悔しがっていた子も、満面の笑顔に変わる。


 お互いの敢闘を讃え、勝った紅組に金の杯を与える。代表のダンが優勝カップをチームに向け高く掲げ、昼の部は一旦終了。

「たのしー!子供達が走ってるだけなのに、何かたのしーわー!」

「なんか、アタシも思いっきり走りたいッスよ!」駄目。男子全員秘宝館から出できた客みたくなるから。

 競技を終えて、皆温泉でサッパリしてから夕の部だ。


 先に風呂を済ませたお料理係が、本丸庭園に夜店を準備して待機していた。大広間から庭園まで往来できる様筵を敷いて、200人で楽しめる様準備した。

 庭園の緑と泉をライトアップしつつ、泉に落っこちない様柵を立てる。庭園の景観を妨げない様に、夜店は左右に配置する。そして大広間の向かいに建つ能舞台には音楽隊。


 まずは、運動会の表彰式だ。最も活躍したMVPには紅組も白組も関係なく、金や銀で造った小さいメダルを授与する。負けたチームから呼ばれた子は驚き、チームメイトも喜びの歓声を上げた。

 あれ?これ本物の金銀だ。アンビーがニヤってしてる。みんなー、なくさないでねー!将来の小遣いと思って大切にしてねー!


 料理も色々だ。

 果実を煮込んだソースを臭みの多い肉に合わせて美味しく柔らかく煮たシチュー。

 麦畑を休ませるための大豆や小さく切った野菜を鶏肉の出汁で煮込んだスープ。

 トマトソースやハーブソース等をからめ、オリーブで炒めたパスタ。

 塩漬け肉を麦の粉で塗し、菜の花畑で採れた油=菜種油で揚げたカツレツ。

 ビタミン豊富な葉菜と小さい果物を塗し、粉にしたチーズであえたサラダ。

 小さなヤミーが「こっち茹ったら笊に開けてお湯をきってー!」「ちょっと火を小さくしてー!火事こわいからねー!」「みんな、もちょっとでできるから待とうねー」と屋台の内外に声を掛けて飛び回り、その後をダンがフォローして付いている。


「怖い位なんだ」何か?と畑仕事を仕切っているアグリの話を聞く。

「取れる実りが多いんだ。俺が村に…まだ捨てられなかった頃だけどね。もっと広い畑でも、こんな多く取れなかった。ここの畑は凄すぎる。御屋形様の苗が凄いのか、土が凄いのか」

「両方だよ。私の稲は、他の世界で多く取れて美味しくなる様に手を入れられたものだ。それにこの土地には魔力が多く、その分多く収穫できる。魔物も多いけどな?」 

「御屋形様。これだけ取れれば、もっと多くの子供達を助けて食べさせられる。甘くて美味しい果物も一杯だ!食べる心配がないなんて、みんな美味しいなんて夢みたいだ!嬉しいよ!」泣くなって。

「それでも君達の手が無ければ只の森だった。アグリ、今日の御馳走は君達の手で育てて刈り取ったものだぞ。よく頑張ったな!」だから泣くなって。食べなさいって。


 我が妻、ステラは…年長女子と一緒に、年少、幼児組が転んだり泉に転がり込んだりしない様目を配っている。ミッシはそんなステラの裾を掴んで、楽しそうに「ふわー!ふわー!」と目を丸くして喜んでいる。


 もう一人の妻、アンビーは…当然の如く、プリンやニップ達ミナトナと飲んでる。今まで裏方で色々仕込んでくれてたんだ。大いに飲んでくれ。

 なお、ミナトナはワインがお好き。アンビーは、2年物のまだ若いウィスキーでも満足して堪能している。私は、当然日本酒。但しみんな何でも飲むし好き、只の酒飲みだあ。

 この秋の日も、幸せな夜が更けていく。

 この幸福を、この子達の手で維持できる様に守り、育てていかなければ。


*******


 数日後、ダン、ヤミー達出城当番が、試運転を終えた護児鉄道花街道線の一番列車で出発した。運転手は私だ。魔物が多い危険地帯なので、子供達を乗せての客車運転は今回は行わない。子供達の残念そうな顔に心が痛む。

 送るはムジカ達の演奏、曲目は…アレだ。怪獣が暴れて戦車とか宇宙船とかなんとかサイクル光線車が活躍する映画のマーチ、じゃなかった、アレグロ・マルチアーレ(ややテンポの速いマーチ)だ。元の曲が、古代日本の英雄の出征をモチーフにした曲なんでバッチリだ。バッチリだよね?


 数日後交代でコマッツェが出発した時も同じ曲を演奏した。

 練習中にムジカが「最初なんかこの曲、勇ましい感じより、ちょっと重い気がしたんです」 そうか、解るか。

「今日その訳がわかりました。やっぱり戦いなんて無くて、みんな一緒なのがいいですよね」そうなのよ。そういう曲なのよ。異世界でも正しい理解が得られて、原曲のファンとしては涙が出た。


 かくて花街道線、出城、名付けて「見附城」駅行一番列車が護児城を離れた。

 終点で当番の子達を下し、列車を残し、瞬間移動で独り城へ戻る。みんな、何事もなく帰ってこい。勿論何事がある前に私が飛んでくけど。


*******


 雪が降り始める頃、連絡用の魔石信号が出城の緊急事態を伝える。今年の捨て子は年中平均して多い。春先とか冬前とか季節を選ばない。しかも、障害を追っていない、虚弱した年長男子も多い。ガートナー辺境伯領の圧政は、とうとう未来の労働力である子供達を消耗させる惨状を呈した。


 私は出城に赴いた少年達のサポートに徹した。そして出城の少年達は良く戦った。

 魔物の発見と子供の有無の確認、クロスボウによる魔物の牽制と超弩弓による大型魔物の殲滅は中々上手くいっている。6割方成功し、残りは私がサポートした。

 少年達、良くぞ頑張ったな!だが問題は小型魔物の牽制と、子供の救助だ。


 小型魔物の群れを牽制するには、もう少々工夫がいるな、威嚇用の…花火とかあればいいか。

 年少の子供や少女は問題なく救助される。

 女子は、「どうせいつか捨てられるか、生臭坊主や悪徳村長の妾か、最悪奴隷に売られる」と、未来への夢を失っていたので、従順に救助される。今までもそういう女子は多かったので、救助された少女達は二之丸御殿で打ち解けて、新しい暮らしに喜んで溶け込んでいった。


 問題は年中以上の男子だ。

 今まで弟や妹を捨てる側だった。それが今自分が捨てられる身となり、その心は相当に荒み、梃子摺る状況を作り出した。

 救助隊に抵抗し喧嘩を吹っ掛けたり、自棄になって魔物に向かって走って行ったりと、出城当番を危険に巻き込む事が多かった。

 そういう場合、私がギリギリまで少年を放っておき、命の危険のギリギリで少年を掴んで投げ飛ばす。そしてビンタ喰らわす。で、魔物をやっつける。

「死にたかったら勝手に死ね!今からあっちに行けばまだ魔物がゴロゴロしてるぞ!

私達は湯を浴びて寛ぎ、白いパンと焼いた肉を食う。どっちに行くかはお前自身が決めろ!」

 全員、この一言で私について来た。そして見附城の中で、当番全員の前に引きずり出す。

 我儘野郎は許さないよ!というのもあるが、何事も始めが肝心!心を鬼軍曹にして叱咤する。

「お前の我儘で、お前を助けようとしたこの皆が魔物に殺されかけたんだ!お前が死ぬのはお前の勝手だ!だが私の大切な仲間が死んだら私は絶対お前を許さない!頭を地面に擦り付けて詫びろ!」と大声でなじる。


 弟、妹が捨てられるのを見殺しにして、今自分も死にかけた少年には過酷な詰問だ。だが、彼らはもう10歳前後、色々な考えも成長している。覚悟を決めて欲しい。

 涙と苦痛に歪んだ少年達に言う。

「私達は、君を助けるためにここにいるんだ。助けて欲しければ、そう言えば良い。もし仲間になりたければ、まずは非礼を詫びろ。そして、助けを求めるんだ」

 そして

「私達は、助けを求める子に応える」

 顔を上げた少年の前にあるのは、当番の少年少女の、答えを待つ真摯な顔。ダンは余裕で笑顔になっている。

「たすけてくれ。しにたくないよー、しにたくないよー!!」

 泣きわめく少年をダンが抱きかかえて応える。

「ああ!守ってやるぜ!だからお前も一緒にみんなを守れ!あの御屋形様みたいにな!」と激を飛ばす。

 あんま持ち上げるな。

 「ごめんなさい!ごめんなさい!」少年は泣き叫びながら詫びていた。


*******


 衰弱した少年達は1週間程度で健康になった。この地の作物と、ミナトナの力を含んだRUTF(栄養治療食品)のお蔭だ。

 只、結構な確率で、城内の子供の兄だった事が解る事態が発生した。当然、弟や妹は自分を捨てた兄を許せず、小さい子は兄から逃げ、大きい子は兄をなじる。そういう兄弟妹は個別に呼び出し、諭すしかない。


「兄を許せとは言わない。しかしいくら兄でも親が捨てると決めた弟妹を護る事は出来ない。だから」

 子供達は私が何を言うのかと睨んでくる。

「君達が捨てられた時、兄たちが何も言わなかったなら、自分と同じと思って許すんだ。だが、酷い事を言われたなら、罰を下す」

 結果、捨てられる前は弟妹と仲が良かった子は、再会を喜び弟妹に詫び、城内の生活のため率先して努力した。

 罪悪感を感じていた子は、「ここにいられない。ここから離れて罪滅ぼしをしたいんだ」と懇願して来た。そういう子は、メンタルケアも含め、出城当番を2巡連続で配し、先輩の出城組に鍛えてもらう事とした。


 城に助けられた恩も忘れ、豊かな暮らしに増長し、捨てられた弟妹を軽視したり侮蔑し威張りだした奴は、寝ている間に森の外の都市部にある孤児院の前に放り出した。子供とは言え他人に共感できない彼らが人に優しくする事なんて、大人になってもあり得ないだろう。私はそう思う。

 彼らは、十分とは言い難い劣悪な環境の下で、労働力として扱われ厳しい暮らしを送ることになる。都市の孤児院は人身売買の巣窟でもある。しかし、殺されはしないだろう。それより、再び傷つけられた子供達の心のケアの方が余程問題だ。

「追い出さないでくれー!捨てないでくれー!」もう遅い。助けられた時、お前も周りに感謝すべきだったんだ。

 食べて行けるだけ感謝すべきだ。泣き叫ぶ悪童を無視して城の子供達の元へ戻った。

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