20.南の果てに出城を見た!
魔の森に捨てられる子供達。その殆どが南側、ダキンドン王国ガードナー辺境伯領から捨てられている。
魔の森を形成する巨大なカルデラの南側が崩れ、ノキブル川の外部への出口となって開けているからだ。当然、最初に出会ったステラ達を始め、七割方の子供がダキンドン王国の子供だ。希に東や北から来る子もいる。
「せめて南側に城があれば、御屋形様の代わりに俺たち子供でも魔物を追い払って子供を匿えるんじゃないかって思うんだ」
成長したな、ダン。君も、ただ捨てられた被害者という立場に甘んじるだけではなく、一歩進んで他の子供達を助けようと頑張って考えたのか。私も本気で考えよう。
「有難い提案だ。だからこそ聞くが、どうやって、どこで子供達が魔物に襲われたかを知るんだ?すぐに助けなければ子供達は食べられてしまう」
「魔導機関車って、魔石と魔石が離れようとする力で動くんだろ?だったら逆に、魔物の力に引き付けられる魔石を出城の天守に取り付けて、魔物のいる方向を探るんだ。その先に子供がいる様だったら、超弩弓で倒して子供を助ける」
「大きな魔物ならそれでもいいが、角狼が群れで現れたら?」
「クロスボウの矢に火を点けて、魔物を追い散らして、馬車で子供を救う。」
色々考えているな。魔導機関車だけでよく思いついたな。
「俺たちは御屋形様がいなかったら魔物に食われて死んでいたんだ!俺はこの手で、俺みたいな奴を助けたいんだ、父ちゃん、あんたみたいに!」
ああ。父ちゃんって言っちゃった。ダンは真直ぐな目で私を見つめている。まあいい。その言葉、有難く受け止めよう。
「ダン。よく考えて、よく言ってくれた。私は君を尊敬する。ただ、今のままでは君や、君と一緒に行動する仲間がまだまだ危険だ。最悪出城ごと魔物に食い荒らされる危険も…」
「やっぱり俺じゃ駄目なのか?!」悔しさにダンの顔が歪む。
「最後まで聞きなさい。君の考えは否定しない。足りない分は皆でやってみて、皆で考えよう。どんな事だって、最初の一歩がなければ始まらないんだ。その勇気ある一歩を、ダン。君が踏み出したんだ。無駄にはしない!」
ダンの顔が喜びに満ち、すぐに決意ある表情に変わった。直ちに実行計画を細かく書き出す事とした。
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魔の森の南端より数キロ入った、魔物が徘徊し始める付近に出城を設ける。
あまり魔の森の外に城を築くと、子を捨てに来た親にも、辺境を巡回する騎士団や商人にも発見される。いずれは外部との接触も避けられなくなるだろうが、今はその時期じゃない。
捨て子を多数出しているガートナー辺境領の主、メダガニ伯は、正直悪辣な領主だ。贅沢を制限せずに増税しているため、領民は凶作の中貧困にあえぎ、結果子を捨てざるを得なくなっている。今護児城が奴の目に留まれば、金品を求めて無駄な出兵を仕掛け、一層領民に負担を強いるだろう。
まあ、そんなバカ殿がこれから何年も無事でいられる筈もないが。こちらか何かするのも筋が違うので、外の世界には干渉しないけど。
外輪山外側から見れば巨木に隠れて見えない程度に、しかし魔物の発見に邪魔となる木は剪定し、ノキブル川を西側に分岐させ外堀と出来る地を選定した。
イメージ的には、護児城のモデルとなった伏見城に倣った訳ではないが、その出城である向嶋城を縮小した感じになってしまった。一時は徳川家康の居城ともなった、三層の天守を持つ立派な物だった。昭和に痕跡も残さず消滅したけど。
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今まで助けてもらってきた弱い自分達が、これからは自分達の手で追放された子供達を助ける、ウ○トラシリーズ最終回のナントカ隊みたいな気概を胸に、完成した南向路線の試運転を行った。
例によって「そいやっ!」っと、城の惣構内、リンゴ並木の西側に線路を伸ばし、惣構南端の朱雀門脇の跳ね橋を直線で突っ切り、そこから魔の森を南南西に切り拓いた鉄の道だ。鉱山線は川沿いや山沿いで魔物が出ないルートだが、花街道線は魔物の徘徊する森を突っ切るので、線路を柵で囲み、随所に魔物除けの魔石を配置する。約20kmを40分強で連絡する。2~3日置きで週4交代の予定だ。
出城が子供や魔物の大群を見つけた時は、鉄道の線路に魔石と魔石を打ち付けて、三之丸駅まで魔力を飛ばす、通信インフラも兼ねている。
新たな景色に歓喜する一行を載せ、列車は出城に到着したが…
「スゲー」ダン、ボキャブラリが7歳児に戻ってるぞ?
「もう驚かないって思ってたけど、やっぱりおかしいわ」久々ステラのキビシィーっ突っ込みだ。
南側に長方形の二之丸、北側に二之丸の西と北をL字を倒した様に抱える様に本丸を配した。南は魔物が少なく、東はノキブル川があるので西と北を護る形となった。
ほぼ正方形、一遍200mの小城だ。といっても名古屋城本丸程度の広さにはなる。
二之丸は馬出であり、巨大な桝形でもあり、森に捨てられた子供を招き、保護する区画となる。そのための治療小屋、休息小屋を設けた。
L字型を倒した本丸の北西隅に、三層の天守を魔物を威嚇する様に築いた。これも護児城みたいな行事や宴会を行う予定はないので内装は魔物を撃退するための超弩弓が並んでいる。
三層と言っても大きい。護児城本丸の三層櫓より大きい、8間×7間の規模で、二層の巨大な入母屋の大櫓の上に、三層目の望楼を載せる望楼式天守だ。しかし三層目の下に、2.5階ともいうべき大きな唐破風を持った出窓を南北に突き出している。二層目には東西に出窓を、その上には軒唐破風で装飾している。三層四重、一見4層の堂々とした天守だ。
…モデルは、かつて「皇居の東南隅に大きな石垣の出っ張りあるじゃん?寛永の江戸城完成期にはそこに櫓合ったっていうじゃん?あのでっぱり全部櫓台だったらどうなる?」なんてありもしない空想をブチ込んだ、とある城郭復元学で高名な大先生の研究をモデルにしてみました。知ってる人ー!いないよね?
「何かまたヘンな事考えてる」そのとおりだよステラ。
本丸の南西隅、二之丸の脇に突き出した部分にも三層の着見櫓を配し、夜は森の中を照らす様にライトアップし、子供達を招く灯台代わりとした。魔の森南側に捨てられた子供は、今までの様に昼夜宛てもなく彷徨い魔物が多い場所へ踏み込む前に、夜になれば城の灯りに気付き、自力で出城にたどり着けるという寸法だ。
天守の三層にはダンの発案とアンビーとの協力で完成させた魔物探知機を、着見櫓には子供の泣き声を探る魔道具を設置し、天守と連携が取れる様伝声管を配した。城の御殿で夜泣きする幼児の声を記録し、似た声に反応する魔道具で、その効果は不十分だが、今後の改良に期待して採用した。
その傍に超弩弓と同様に、水晶を溶かして磨いて作ったレンズを組み合わせた望遠鏡を据え、交代で番をし、子供を襲わんとする魔物がいないかを昼夜見張ることとした。
天守の東側に当番用の小御殿、保護した子供を洗浄し休息させる温泉、そして、北に向けて一直線の、護児城三之丸大手へ直結する「花街道線」と名付けた鉄道の終着駅を設けた。
この出城を、魔の森への入り口であり、捨てられた子供を見つけるので「見附城」と名付けた。
「おれはずっと居てもいい!」これが俺の城だ!なんて思ったのかな?
「駄目だ。ちゃんとこっちに戻って、出城で起きた事、気付いた点を報告するんだ。それを皆で理解して、確実に子供を護れる城にしていくんだ」
「しかし…」
「すまん、ちゃんと帰ってきて、ステラを安心させてくれ。いずれ、君に全部任せる様になる時も来るさ」
ダンは微妙な顔で考え、答えた。
「ああ。報告する。俺じゃわからなかった事を教えてくれ!」
「それにみんなヤミーの美味しいご飯が食べたいしね」周りで聞いていた子達が笑い出す。
「ヤミーちゃんばっかじゃなくてアタシたちもがんばってんだかんね!!」料理組の年長がいきり立つ。
ここは「ごめんなあ」と謝っておく。
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城の男子はほぼ2~3歳の幼児だ。5歳位になれば農村では色々手伝わされるので簡単に捨てられないからだ。
後は障碍児となって追い出され、この城で治癒された10歳超の年長組数十人。彼らは農業の主力なので出城に出ずっぱりだと困るんだが、幸い、畑の魔力のお蔭か耕作期間が短かったり収穫が多かったりするの。収穫の時以外交代制で出城への警備は可能だ。
その下となると、7、8歳、小学生中低学年だ。そんな子に武器は持たせられない。ダンのアイデアは解るが、後数年、せめて今の中学年が成人を意識する様になるまで、出城はおろかこの城の防衛も子供達に任せる事は出来ない。
結局、出城出征隊は10歳前後の数十人の内、農業指導に欠かせない何人かを除いて選出された。
今まで私がこっそりやっつけていた角熊、角狼、角猿人、角竜なんかを狩らせた。
また、もし操作を誤れば非常に危険な武器の取り扱い、安全確認を指南した上で、クロスボウの射撃訓練も行った。失敗したら、助けなければいけない子供や、訓練中の仲間を射ち殺す事になるのだ。
他にも、下手に撃つより逃げる心得を叩き込み、撤退の訓練もした。
出城組の1日は朝は野良仕事、昼は軍事教練、夜は座学と厳しいが、温泉と美味しいご飯が護児城同様にあるのが慰めだ。
お?訓練で疲労困憊してる若い衆に、時折ご飯の時に多めに装ってくる少女達がおるのう。城では男女比が圧倒的に偏ってるから、お世話係の志願者も早い者順なのか。
でもダンには…おう、ステラが盛っている。ヤミーは皆の仕切りに必死だ。成程ステラ、ナイスガードだ。この城の母みたいなステラを乗り越えてアタックしてくる女子は流石にいない様だ。
おまけにダンもヤミーの仕切りをステラに対して矢鱈褒め捲っている。完全に惚気だ。ステラもとても愉快な表情で流している。他の女の子達は、お目当ての男子にもっと積極的だ。いつの世も、女は戦う男に惚れるものなのだろうか。だが、戦って命を落とす事など無い様、末永く幸福を甘受出来る様、皆をフォローしよう。
「ちゃんと見て守ってあげてね!」とキツイ目で見て来るステラ。
「一応、私が来てからこの森で死んだ子供はいないのだが?」
「念のため!」今、彼女が心から信じられる唯一人の肉親だからな。
万一に備え、出城だけではなく護児城内でも、年長の少女も集めて救急措置の教育を開始した。機織り組に頼み、包帯を増産する。
「機織り機と工房を増やして!」と布工場のオーリーから訴えられてしまった。
「教本や帳簿と、おむつのための紙もふやさないとだめ!」紙もそうだし、糸も増産せねば。
「お酒造って売るなら、美味しいお酒の造り方を御屋形様からちゃんと教えてもらいたいの」発酵の流れを書き記し、不明点を朱書きしてモネラが持ってきた。
「怪我した子を御屋形様だけじゃなくてあたしたちも手当したいの」次々訴えて来る少女達。
どの子も強いな。増加予定をグラフにして書いて出している。必要な人数、やるべきアクションプランをも計算している。この城の教育の成果だ!偉いぞみんな!がんばって増やそう。
織機の増産を考える。紙工場の拡張・増産も考える。ウィスキー用のアルコールを本来の「命の水」=消毒用アルコールにするため、高純度に蒸留するための蒸留器の増産計画を考える。アンビーが死にそうな顔をしつつ、主旨に賛同して作業してくれた。
妻となる女を過労死させてなるものか。アンビーの技を受け継ぐ助っ人のスカウトも考えねば。
魔導機関車も二号機、ロケット号が出来、試運転も、追加の運転手への運転教育も終えた。桜街道線運行の体制が固まってきた。
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出城運用開始の準備と並行しながら、捨てられてくる子供の叫びは止む事を知らない。
出城内訓練の最中でも鳴き声を感じた時には、訓練生にクロスボウで支援してもらいつつ子供を救助し、保護した。
自力で出城にたどり着いた子もおり、訓練中の世話係が介抱に向かった。たどり着いた子は、夜中に白く輝く着見櫓や大手門に茫然とし、「早くこっちに来るんだ!」と促す当番に戸惑いつつ橋を渡った。
「もうだいじょうぶだよー!おなかすいてるよねー?いっしょにお湯を浴びて、きれいになっておいしーごはんをたべよーね!」と、笑顔で話すヤミー。
辿り着いた女の子が安心して泣き出す。
「よしよし」と土埃と垢にまみれた子を温かく抱きしめるヤミー。
「もうこわくなーい、こわくない。みんないっしょいっしょ、いっしょよー」
ヤミーに抱きしめられた少女は安心したのか、泣きながら眠ってしまった。ヤミー、聖母か?
「魔物は俺がやってやる。子供はヤミーが守るんだ!」何か凄い鼻高々なダン。
そして周りでニヨニヨしている当番の少年少女。
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一方で、別の問題が。こちらは想定済みだ。本丸御殿がパンク状態だ。元々最大200人を想定していたのが限界に達した。
出城と花街道線を完成し、当番組の編成も終えたので、「そいやっ!」と本丸の東に、一気に広大な二之丸御殿を作り上げた。
とは言っても、結構楽だった。建物数は多いが、個々の規模は小さい。そもそも来賓用ではないので、装飾が殆ど無い。金銀も使っていない。
全て城内の執務空間、お祭り等の集会場、その他は子供達の住まい、学生寮みたいなものだ。大きいのは集会場となる大広間、食事を用意する台所、そして本丸温泉の4倍になる温泉大浴場だ。露天風呂からは本丸東塁上に天守の上部が見え、眺望もバッチリだ。
その他の遊興施設として、内部を御殿風に作った月見櫓と御殿と廊下で繋ぎ、高い位置から本丸と天守を一望できる様にした。子供達は天守から城全体と森を見下ろすのが大好きだが、私はここから天守や城下を眺めて酒を飲みたい。
かくて、ムックリムックリと、ズンズンズンと御殿を完成させた後、内堀越しに壁や屋根で囲われた廊下橋を架け、200人が二之丸へ引っ越す。
最初この城に来た子供達には何も荷物は無かった。しかし最長で2年暮らすと、作業着、おしゃれ着、浴衣、下着、教科書、お祭りで貰った玩具等、自分だけの持ち物が増えた。皆、箱を大事に抱えて橋を渡って新しい御殿に移っていく。「メリーちゃんもおひっこしよ」と、箱の上に座らせた人形に語り掛けながら歩いてゆく子もいる。新しい家に、皆期待が一杯だ。
お料理組に食器や調理具を任せるのは流石に大変なので、食器棚ごと空間移動で引っ越し、更に空間複写で食器を倍増させた。広い台所は、当面半分を使う。最大500人規模を賄える。
勿論城の人口はそれを超えるだろう。しかし、もう数年で二之丸御殿を去り、自分の家を三之丸に持つ「夫婦」も生まれる。そして、産声が聞こえる日も来るだろう。その日が待ち遠しい。
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秋の収穫も恙無く終わった。
魔物に追われて城に守られたのは何も少年少女だけではない。森の中に住む馬や牛、鳥もいた。
中にはクロスボウを上手く避け、逆にこっちを挑発する、大きく純白の狼もいた。勿論空間魔法で弾き飛ばしてやったが、首を切断して止めを刺すには何故か惜しく感じ、森に戻っていくのを見送った。
暫くしたら、子犬というかを小さい狼を連れて惣構えの西、白虎門まで戻ってきた。敗北を認め親子ともども軍門に降りに来たのか?魔物にも対話を求める、知能のある者もいるのか。
この狼達を始め、逃げて来た動物達は、前に逃げて来た馬たち同様農耕や畜産に使った。鳥は卵を産み、大狼-知性のない角狼と区別してフェンリルと呼ばれている-は、まずは何もせんでいいので年少組の遊び相手になってもらった。ところがコイツら親子は、自主的に家畜の移動を手伝ったり、魔物の接近を私より早く察知し子供達に知らせた。コイツ、出来る。
最初は「憎い魔物ぶっころせ!」とか言ってた子達も、数日後には子フェンリルにメロメロとなり仲良くなり、「射つな!魔物だって友達だ」と手の平クルー。やっぱり犬は人類の友なのか。ミッシが子フェンリルを馬みたいに乗って走ってる。ミッシ、元気になったね。いつしか大フェンリルは白牙と呼ばれていた。何かどこかの海賊王の声がその名を叫んできそうだ。
そんな、家畜達の助力を得て、秋。護児城は二回目の収穫祭を迎える事が出来た。
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