15.まさにモーレツです!
冬も最中の外輪山北側の岩塩鉱山。ここは私がいなくなった後、子供達が塩を確保するための生命線だ。アンビーが言っていた通り、この山から北のプレート境界の間には古代海水の名残りである岩塩を始め、多くの資源が眠っている。
男子陣が岩塩を掘り出す中、雪がチラついて来た。
「よし、今日はもう帰ろう」
とその時。
今まで外輪山の北側からは聞こえてこなかった悲鳴が聞こえた。
「SOSだ!君達を、瞬間移動で城に戻す。助けた子達の、温泉と食事の準備を頼むよ」と一同を連れて本丸へ瞬間移動し、更に単身北へ向かう。
後に残った子供達が言う。「SOSって何?」しまった当然そうなるよね。
「御屋形様が飛んで行ったんだ!誰かを助けに行ったんだ!城に迎える用意を頼むんだ!」おお流石だぜダン!一同は馬車を飛ばして城へ戻った。
岩塩鉱山からは見えなかったが、外輪山の北寄りに聳えるイニロトナス山の裏は風吹だった。
岩の切り立つ斜面の中に、洞窟というか岩が折り重なって風を防げる場所があった。その岩陰に人影があった。
「大丈夫か?助けに来た!」
と叫び近づくと、女性が…頭に曲がった角を生やした女性がいた。
「ロリ-が!あたしたちの妹が落ちちゃったの!助けて!助けてー!!」
風吹の中で狂った様に叫ぶ女。その遥か下を見ると…
際しい岩場の下に、手足が激しく折れた少女を見つけた。ここからから滑落したのだろう、飛び降り「時間逆転!」で治癒する。
雪と血の中意識が朧気な少女に向かい「もう大丈夫だ!」と抱きかかえると、やはり頭に大きく曲がった角が。
「そいやっ!」と崖上を目指し飛ぶ。
洞窟の中には5人、女性がいた。光の魔石で照らし、よく見ると成人前後の美女たちだった。皆、頭に曲がった角を生やしていた。そんな事はどうでもいい。
「ロリ-!大丈夫?!ああっ!全く無茶してこんなに…」
「あれ?ケガしてないっすよ!落っこちたのに大丈夫だったんスね!」
ショートの女性のちょっとヌけた言葉に皆固まった。
助けた少女を心配しつつ皆が集まる。大きな怪我がないので皆安心した。
「この子、風吹の中道を探しに出て行ったのよ!バカ!でも私達のために頑張ってくれたの!」
ロリィと呼ばれた少女は、涙を浮かべて「ごめんね・・」とか細く応える。お互い、仲間思いなんだな。
「大丈夫だ、怪我は私が治した。他に怪我をした人はいないか?」と聞けば、皆あちこち打ったり摺ったりしている。
時間逆転で治癒した後、
「君達を私の城で守りたい。私の近くに来てくれ」と言うや、
「お願い、助けて!」「ここに居たらロリ-死んじゃうっス!」「お願い、早くロリ-を!」
本当仲間思いな人達だな。
ロリ-を横抱きにしたまま瞬間移動で本丸奥書院へ。
「御屋形様!!って…」ステラが心配そうに駆け寄るが、何か途中で止まった。
「風吹の中で遭難していた。ここで休ませてほしい」「あ~、はいー」何かステラからも吹雪が吹いてきそうだ。
「ここ、どこ?さっきまで山の中だったのにぃ?」
風吹の中叫んでいた、一番背が高い女が廻りを見回して聞いて来た。
「心配しないで。もう大丈夫よ」
「え?あんた、ヒト?」
「あ…」ステラが女の頭を見ると、角に気付く。「亜人?」
「ああ。この娘ら、亜人、ミナトナじゃなあ」アンビーが頷く。
この世界には、ドワーフもいれば、会った事はないがエルフもいる。動物の特徴を持った亜人もいる。ミナトナは牛の亜人の女性だ。因みに野郎はミナトンだって。
この世界のヒトの多くは亜人に会った事が無く、彼らの生活規範を定める創世教の中にも存在せず、何となくアンタッチャブルな存在になっている。
「やっぱり、迷惑かしらぁ…」
ちょっと腹が立った。
「いや、君達こそ、この城に住むべき人達なんだ!」私は宣言した。
別に、彼女ら6人のミナトナがみんな美女美少女だったからな訳じゃない。ないよ。牛の亜人らしく、汚れた毛皮から豊満な体付きが見え隠れしていたからな訳でも決してない。断じてない!半分以上下心だけど。
「安心して欲しい。君の名前は…プリンだね?ここは、住んでいた場所を追い出された子供達が、皆で力を合わせて生きていく場所だ。」
「あらぁ?あたしヒトなんかに会った事あったかしらぁ?」御尤も。
「私は時間を操り、人の過去を見る魔力を持っている。君達も、狂暴なミナトン(男がミナトンで女がミナトナ)から、奴のいう事を聞かなかったその子、ロリーを庇って追放されたんだろう?」
「えぇ?そんな、私達の事がわかるのぉ?すごおい、魔導士様って本当にいるんだぁ?」
ウェーブがかかった、何か、誘う様に垂れた目の片方が隠れた、豊満な美女、プリンが私を尊敬した様に見上げる。ううむ、魅惑の美貌だ。ちょっと何か気の抜けた感じの口ぶりがいい感じに癒される。
「スゴイっす!姉さんの優しさ解ってくれるっスか?!」
さっきから江戸っ子口調の褐色ショートくせ毛の、これまた豊満な元気娘ニップが…私を尊敬して褒める。
「なんか冴えないオッサンっぽいけどスゴイっすよ!」尊敬して…?
「「「ぶっ!」」」ステラ以下年長少女が一斉に噴き出した、ヒデェ。
「何笑ってんだよ!おい、牛のねえちゃん!御屋形様をバカにすると追い出すぞ!」
「待てダン。テメェのツラはテメェが一番知っているからいいよ」
まあ正直な娘だ。気にすんあ。
「あ…何か助けてもらったのに、ごめんっスね」
ニップが詫びながら笑顔を向ける、こいつぁ可愛いぜ!ダンの顔が赤くなる。
「い、いいっスよ」ダンに江戸っ子がうつった。美女は得だね。
他の娘は、癖毛の多い中珍しいストレートロングヘアのロンゲ、ややボリューム豊かなチャビー、前髪が目にかかってるカクレ。彼女達は怪我も無く体調も悪くなかった。ミナトナは頑丈らしい。少女達に湯殿への案内を頼むと「おっきー」とどっかで聞いた様な声が聞こえて来た。
「御屋形様、前屈みじゃな?」と顔を近付けてくるアンビー。
「わしじゃあご不満かの?」と胸を押し付けて来る。子供の見てる前では止めてくれ。
「それより、アンビーも北から来たんだろ?ミナトナを知っているのか?」
「時間を超えて過去を覗けるんじゃろ?わしに聞くまでもなかろ」と素っ気ない。
「まあ、わしの知っとんのは、男は狂暴、女は愛嬌、って評判と、ミナトナから採れる乳は、王も欲しがる極上の宝って事くらいじゃな」
「このあたりの王様は、巨乳派なのか?」
「阿呆!あの娘らのミルクは、滋養強壮満点の特級品って事じゃ!
あの娘らがこの城の子にミルクを与えてくれたら、どの子も幼くして死ぬ様な事はなく、強い大人に育つんで」
ちょっと色々生々しすぎるなあ。
温泉から出て来たミナトナはじめ年長女子が湯気を立てながら出て来た。何故かみんな、凄くお肌ツヤツヤで。アルカリ単純泉なのでいつも美肌効果はあるが、今日は何かスゴイツヤツヤ。
ミナトナ、浴衣が色々収まりきらない。男子陣の目が釘付けだ。
「ふあ~、ここは楽園かしらぁ~」
「スゴイっス!きもちよかったっス!」
色々見えそうな姿で色々震わせながら歩くミナトナ達。くるっと踵を返すと、短い浴衣が翻って…正にモーレツです!
「男ってサイテー」ステラはもう氷点下である。
後で温泉に入ったら、女湯と続いている湯舟が乳白色だった。クレオパトラご愛用のヤツか。私達男性陣もツヤツヤになるのか?
ちょっと色々な視線と思惑が交差した空気に耐えつつ夕食の準備をする。本日はパスタ。ミナトナは人間同様雑食だけど野菜多めで持て成す。食前に一同にプリン達を紹介する。
食事に口を付けると…「うふぅ~、おいしいわぁ~」と何とも悩ましい声。
「とろけちゃう~」「ビクンビクンくるっスぅ!」「はあ、くせになっちゃうよぉ」
食事中に妙にアレな声やめてくれます?男子たちがすごい真っ赤で下向いてるんだけど?!
食後、私はプリンとステラに頭を下げた。
「ミナトナの乳は子供に非常に良い栄養になるそうだが、アレルギーが気になる」
「アレルギー?」
「ああ。匂いを嗅いだり、触っただけで体がかゆくなったり、最悪口に入れたら死ぬ事がある」
「そんな!御屋形様はプリンさん達を悪魔みたいに言うの!?」隣で聞いていたステラが驚いた、すこし怒りが混じっていた。
「プリン達はとてもいい人だ。しかし、彼女達と関係なく、いや、肉や野菜でも、花でも動物でも、例え本人が大好きでも、全身がかゆくなって死んでしまう事がある。これがアレルギーの怖いところなんだ!実は最初に君達をここに連れて来た時もアレルギーがないかどうか確認したんだ」
説得の結果ミナトナの乳をステラ達に取って来てもらい、大急ぎ、年長組総動員で子供達にパッチテストを行った結果、アレルギー反応は無かった。
「何か変な事するのねぇ?」と、やや不機嫌なプリン。
「世の中には、酒アレルギーもあるんだ。匂いを嗅いだだけで息が出来なくなる人もいる」
「この世の地獄だわぁ~!」「かわいそ過ぎるっスー!」プリン達は酒好きだったせいか、理解して頂けた。
これ以後、新食材を入手した都度、アレルギー反応テストをする事とした。
*******
色々刺激的だったその夜。
小さい子の夜泣きや悪夢をあやそうとしたところ、泣き出した子を、隣で寝ていたプリンが抱き上げた。
「かわい子ちゃん、お腹空いたのねぇ?」と、乳を与えている。
他の子が泣きだすと、ロングやロリィ、近くにいたミナトナが起きて、あやしたり乳を与えている。心の中で彼女達に感謝しつつ、隣の部屋に移ると、夜の子守り当番だったステラが起きていた。
「今夜は出番なさそうね。あの人達、優しいのね」私の隣に着て座った。
「ああ。だから乱暴な男に痛めつけられそうな仲間を庇って、村を追い出されていたんだ。男に黙って従っていられなかったんだ」
ステラは過去を思い出したのか、辛そうに顔を顰めた。嫌な事を思い出させてしまった。
「世の中、なんでいい人が酷い目に遭うのかしら。悪い奴ばっかり威張るのかしらね」
「そうばっかりって訳でもないさ」
「そうね。でも。御屋形様みたいな人が、もっと一杯いれば…」
そう呟きながら、ステラは寝てしまった。私に寄りかかり、安心し切った様に。
*******
翌朝。
栄養も愛情も不足している幼児は何度か夜泣きするものだが、珍しくぐっすり寝て、朝に元気よく泣き出した。この時もサっとプリンやニップ達があやしてくれた。
全く頭が下がる。
「魔導士さまぁ、じゃなくて、御屋形様って言うのぉ?お願いがあるんだけどぉ」
朝早くから凄く紅潮した顔でミルクが迫る。
「その、お乳が…」待て、ミッドナイトかノクターンか?!
「お乳が張っちゃってぇ…」
すみません、気配りが足りませんでした。ミナトナは日に数リットルのミルクを分泌する。しかも牛乳と比べ栄養価や整腸効果、更には免疫力まで高めてくれる奇跡の恵みである。
早速湯殿に廊下で続く醍醐蔵と、保存用の氷室をポポポンと建てた。醍醐(古代日本に伝わった、ヨーグルトとチーズの中間みないな乳加工品)蔵は、ミナトナ以外立入禁止。蔵に保冷用の甕をいくつか置き、蔵の脇に小さい温泉も付けた。妙にスッキリして出て来たプリン達と朝食を摂った。
その後、念のためプリン達が夜と朝に世話してくれた子を見た所、アレルギー等の問題はない。それどころが、お通じも宜しく、血色もいい。これは正に天の恵みだ。
栄養過多の懸念がないか、まず自分、そして年長のステラやダンで異常がないか飲んでみた。ダンが何とも言えない顔で飲んで…「むほーっ!」何か異様に元気になった。
「おお、そうじゃった。ミナトナの乳は、大人には夜のアレにも効果絶倫なんじゃて」
知ってた。その日のダンは麦踏や雑草取りを通常の三倍のスピードで終わらせた。前の晩あやされていた子達も、いつもより元気よく歩いていた。というよりダッシュだ、100ダッシュだ。やっぱりオー、モーレツだ。
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