04.今日は本丸、三之丸
二之丸の石垣と桝形門、塁線上の櫓や壁を築いた。これで中型の魔物なら入ってこれないだろう。子供達と普請から作事まで一気に見届けたその夜、森の南端、入り口から再び悲鳴が聞こえた。
「ステラ、すまない、起きてくれ」
「う~ん・・ヒィーッ!」まだ襲われた時の恐怖が残っているんだろう。無理も無い。
「起こしてごめんな、ちょっと出かけるんでミッシを預かってくれ」
「うん~、わかったけど~。どこいくの?」
「また子供達が捨てられて魔物に襲われてる。助けに行く」
「っ!!」眠気も消えて、ステラは昨日の恐怖を思い出した。
「お願い!その子達を助けて!」
自分と関係ない子供なのに、真剣に私を見つめて来る。
「ああ。ステラは優しいな。絶対に助けるぞ!」
私は外出着に瞬間的に着替え、現場へ瞬間移動した。
*******
今度は女の子二人。5歳か。
捨てられるのは労働力にならない女の子が多い様だ。5メートルはある魔物「角熊」に殴り飛ばされ、血まみれで虫の息だった。昨日同様に時間逆転で治癒し空間魔法で角熊の首を切断。朝飯前だ。朝飯の前過ぎる。
自己紹介し、城へ誘うと、幼いながら捨てられた事実を実感してしまったのか、二人は泣きながら頷いた。二人を抱え城へ飛んで向かうと、眼下には月明かりに二之丸塁線が白く浮かび上がり、昨夜とは違う迫力があった。
「あれがおしろ?」「きれい・・」よかった。二人は少し安心したみたいだ。奥書院と湯殿に灯りが点いていた。中ではステラがミッシを抱いて待っていた。
「おじさん、ミッシをお願い。子供は私が綺麗にするわ」
ステラ。助け出される子供達のために待っていてくれたんだ。
「ありがとう。やっぱりステラはとっても優しい、良い子だ」ミッシを受け取って礼を言う。
ステラが二人を温泉で洗っている間に軽食を用意し、風呂上りの二人に振る舞った。ミッシが泣き出し、あやしているとステラが二人を下の間に案内し寝かせた。布団も用意してくれたのか。
寝る間際、ステラは「二人とも、助けてくれた魔導士様にお礼を言ってお休みしましょう。ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
そういえば、最初の4人からお礼言われてなかったな。うん、ステラは礼儀も正しい。
その夜、何度かミッシの夜泣きにご飯やおしめを替えて、朝を迎えた。
朝食を用意している際真っ先に飛んできたのは、やっぱりヤミーだ。その後、二人の泣き声がした。
やはりステラが二人を抱いて慰めていた。
そんな二人も、朝食のおいしさとデザートはすっかり満足したみたいだ。
*******
今日は6人を連れて本丸塁線の構築だ。
二之丸より高い塁線を石垣でドコドコドコっと固めていく。
「昨日もだけど、今日も何て言ったらいいのか訳が分からない!」
「すげー!」「いしがおさとうみたいでおいしそー」
食べられないからねヤミー。
後。夜にゆっくり起きていられる様になったら絵本を読み聞かせしないとダンの語彙力が上がらんなあ。
なお、普通本丸から石垣を固めるため外郭に向かう程石垣の技術が高度に進化するものだけど、なにせこの城は昨日から築いたものなので、石垣の技術差は無い。全部綺麗な布積みだ。
地球で何度も訪れた、寛永期大坂城みたいな安定感がある。
本丸、二之丸の塁線と堀を石垣で固めたら、今度は水利だ。空間倉庫にストックしたアルミ材からアルミ管を作る。その長さ20キロ。本丸庭園予定地の地下から、ノキブル川上流、いくつかある湧出点の川底まで、このアルミ缶を空間魔法でひたすら這わせていく。
サイフォンの原理を使った地下水道で本丸庭から内堀に、更に二之丸を囲う中堀に水を流した。金沢城の二ノ丸庭園にある噴水をもっと大規模にしたものだ。水を湛えた堀は、得も言われぬ安定感がある。
水堀、石垣が積み重なる風景の上に、ビヨンビヨンと三層櫓を空間複写で上げてゆく。明石城本丸の様な、宮内庁御文庫の幕末大坂城の写真に残された様な、凛々しい三層櫓が六基立ち並んだ。間取りは6間×7間、入母屋破風や比翼破風が俯射装置となり、城内に侵入した魔物だろうが敵兵だろうが狙撃出来る。
白亜の塔が並ぶこの美観は、かつての我が時代の日本では見られなかった、古写真や復元図、模型でしか見られない、憧れの光景だった。
子供の頃、幕末の大坂城本丸の、三層櫓が三基立ち並ぶ姿を見た時には言葉にできない衝撃を受けたものだ。子供達、ミッシすら「ほほおおお」と口を丸くした。解る子だ、この子。
「昨日見たお城が二つ重なってる…」
「一日でできちゃうんだ…」新しく来た子二人は驚く。
「いやいやそんな訳ないでしょ、このオジサンが普通じゃないのよ!ヘンすぎるのよ!」
ステラ。君は私に感謝してんのか変なモノ扱いしてんのかどっちかね?
本丸は南正面に白金門の桝形を構え、北には桝形でも櫓門でもない「埋門」を設け、緊急時の通路とした。白金門はコの字型に、南面の高麗門を除く三方を多門櫓で囲った必殺の構えだ。名前の通り櫓門の扉は、魔の森北方の山麓で採れるミスリルを使った金属製の扉だ。
うん。門扉だけで王都の貴族の館が建つな。
櫓と門の間は全て多聞櫓、内部に倉庫や仮眠室となる部屋を持ち、屋根で覆われた渡り廊下で繋がれた。これも寛永期大坂城っぽいスーパー近世城郭チックな結構だ。但し西北隅だけ石垣が二段高くなっており、ここが天守を上げる一画、天守曲輪となる予定だ。
天守はちょっと体力や金とか鉱物を使うので後回しだ。みんなの健康状態が整って、作物も安定したらババ~ンと上げよう。
と、本丸の壮観を満喫しつつ間食を軽く取っていたその時。城の西側の森から地鳴りが聞こえた。
「みんな、この櫓に入ってみよう」と6人を本丸南西隅の坤櫓へ連れて入る。二層目、西向きの破風の窓を開け、異次元倉庫から巨大なクロスボウを出現させる。
「「ひゃあー」」と驚く子供達。
2キロ以上離れた西の森から駆け出すのは数等の馬。そしてそれを追いかける巨大な角狼数頭。
「おじちゃん、おっきいおおかみが、おおかみがー!」と慌てるヤミー。ステラはミッシを抱きしめ恐怖に震えている。
「大丈夫、あんなヤツこうしてやる!」と、全身を使ってクロスボウの角度を変え、測量機を射撃予定地点に合わせ距離を頭上で計算する。金属ロープ並の強度を誇る弦は魔道具を仕込んだ輸入桿(弦を引く装置)でギッチギチに引き、本体の上に載せた棚(連射用のマガジン)から、長さ2メートル、翼の様な幅1メートルの刃の付いた矢を装填する。
「今夜も犬鍋だ」と皆に向かって言い、撃鉄を引いた。
弦がビュッっと鳴り、その直後ボウッと衝撃が来る。矢は西惣堀外の角狼に向かって吸い込まれ---狼は上下真っ二つとなった。
すかさず二発目を装填、二頭目を切り裂き、三頭目を屠ると、残る角狼は退散した。不利を悟って退散する頭脳があるのは厄介なので、追尾し仕留めた。
馬たちは馬出から入って来て…ってややこしいな。とにかく捕まえた。三頭いた。私達が角狼をやっつけた事が解るのか、大人しく捕まった。これは移動や輸送に役に立つな。厩と荷物用の馬車を用意しなければ。急遽二之丸の馬場予定地に厩舎を立てた。
過去の世界で実績がある巨大クロスボウ、強力だ。各櫓にこのクロスボウを装備して、魔物の群れでも何でも追い払ってやろう。君たちが大人になった時のために。それまでは私の空間魔法で守っていこう。
しかし。
君たちが大人になった時、これを人に向ける事が無い様に祈りたい。
******
軽く昼食を食べて一休み。魔物の皮を剥ぎ、肉を解体して空間収納に保存する。
「いぬ、いぬ、おいしくなーれ、おんまさんもおいしくなーれ」
狩った角狼を解体する後ろでヤミーが物騒な歌を歌ってる。
「ヤミー!お馬さんは食べないのよ!」言いたいことを言ってくれてありがとうステラ。
「なーおじさん、狼の肉ってうまいのか?」
「もっと美味しい肉もあるが、まあ食えるぞ。塩に浸けて焼いても、焼いた後にソースに浸けて食べてもいいぞ?」
「にくー!やくー!」「スゲー!」うん。二人とも。
「お肉が食べられるの?」「ごちそう…」昨日来た二人の少女が唾を飲む。っていうか既に今朝もさっきも食べてるんだが。
二之丸の外側1キロ周囲に向け空間魔法を放ち森の木々を殺獣メーサー宜しく伐採し、三之丸の敷地を確保する。将来人口が増えた際には商店街や住宅地等の城下町にするつもりだ。
三之丸は住宅地を確保するため南に張り出し、森の南部、西部から魔物や外敵が侵入した場合に備え、星形城塞(例えば五稜郭)の様な屈折した防御線を持ち、要所に単層櫓を、桝形門付近には二層櫓を、城の入り口となる南側の大手門の脇には三層櫓を立てた。石垣の高さは5間、三之丸外側と平地の高さは若干高い程度だ。そもそもこの城の周辺は森の中でもやや高く隆起しているので、過去発生した洪水や集中豪雨にも沈まない立地だ。
これからも、この地に多くの子供たちが捨てられる事になるだろう。そんな彼ら彼女らが増え、大きくなった時、ここに家を建て、道を伸ばし、店も建て、色々な商品を作れる様に教え、外の世界より豊で楽しい暮らしを贈れる様発展させて見せよう。
三之丸内から二之丸と本丸の塁線が重なる壮観を眺めつつ、おやつに甘いパンとフルーツを少量ずつ食べた。
「なんかもう何も言う気になれない。見てるだけで参っちゃうわ。おじさん本当に人間?」
「私はもう数千年以上生きてるからね。普通の人間じゃないな」
「ウソ。そんな人間いるわけないじゃない。それに夜中だってミッシをとっても大事にあやしておしめ替えて。何千年も生きてる人なんて嘘。まるで…タダのおじさんよ」あ、気付いていたか。
「ミッシ、おじさんにとっても懐いてるのよ。ご飯の時、とっても嬉しそうだし」
「このおしろのごはん、とってもおいしいんだよー!パンがふわっふわなの!」
ヤミーが得意そうに新しく来た二人に自慢する。
「ふわふわのパン…そんなの聞いたことない」そうだろうな、大麦の黒パンが この世界の普通で、小麦の柔らかく白いパンは貴族のものだ。
「おいしいんだよー!こんやたべられるー?」
「よし、今夜は昨日食べたふわふわパンにしよう!」
おやつを終わらせ、奥書院へ戻る。今日はもう温泉に入ってのんびりして、ご飯を食べよう。
肉を刻んだスープとふわふわパンを少し食べ…
「「「もっとー」」」「駄目だ。お腹が割けて死んでしまうぞ!」「「「えー」」」「じゃあ、ちょっとだけ果物と砂糖のお菓子を」「「「やったー!」」」
という毎度のやりとりをしつつ、食後に皆を集めて、勇者のドラゴン退治の紙芝居を披露した。
「現れたのは青い鎧をまとった凛々しい勇者!」「りりしー!」「すげー!」
「聖剣で悪党を倒す姿はカッコよし!」「かっこいー!」「すげー、かっけー!」
「現れたのはどでかいドラゴン!」「でかいー!」「す、でけー!」
「ついに勇者はドラゴンを倒し、姫を助け出したのでした。高砂やー、高砂やー、こーの浦ー船に帆ーを上げてー、めでたしめでたし」「めでたいー!」「・・めでてー!」
うん。ダンの語彙力、一歩前進。てゆーかこの二人、7歳の割にちょっとオツムが幼くないか?
これからは色々なお話を聞かせて、色々な事に関心を持つ子になって貰おう。
「勇者様、怪我してないかしら…」「最後の歌、素敵…」二人の少女、モネラとムジカもうっとりする。うっとり?あれ?普通女の子の関心ってそっち向く?
「私を助けてくれたの…おうじさまじゃなくておじさんだったー!!」そこ、ステラ、がっかりすんなよ!
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