別視点:勇者と同郷の者2


「そうか…。それは、何とも。どう扱うかじゃなぁ…。」

 マイジンは顎に手を添えて、言いにくそうに呟くと頭の中で息子から聞いたユウヒの情報を整理する。


「この世界に来たばかりでも、ゴブリンを倒せる力を持つスキル。それに、この世界についてもある程度は理解しておる。そして、彼が元の世界へ帰るための条件は、旅の先で人々を救うこと…、か。」

「おそらく、そうではないかと。ただ女神様には何か異変も起きており、その条件が本当にそうなのかは分からないですが。」

「わしにはそれも信じ難いがな。我々を幾度となく導いてくれた女神様にそんなことが…。」

 頭を抱えてマイジンは、考えるように黙り込んだ。

 それから少し経ち、彼は漸く頭を上げた。


「オーヴァーはどうしたいんだ?彼を手助けするつもりか?それとも彼の監視を続けるつもりか?」

「…助けたいです。ユウヒのことを。」

「ふむ。それは、オーヴァーとしてか?それとも、この国の王子として勇者と同郷の者はほっとけないのか?」

「オーヴァーとして、です。彼の憧れの冒険者として。困っているユウヒは、ほっとけないですから。」

 試すように言ったマイジンに、彼はそう返す。


 その姿を見たマイジンは、少し嬉しそうに頷くと立ち上がった。


「そうか…、わかった。じゃが、おそらく道は険しいぞ?魔王と勇者の時とは訳が違う。女神様に何らかの異変も起こっている。ということは、確実に魔王よりも強大なナニカが現れた。もしくは…。」

「それでもです。俺の意志は揺るがない。彼と出会って、彼を助けた時からこうなる運命だったのかと。今では、そう感じます。」


「……ふっ、そうか。すまないな、ミールよ。ワガママな息子で。苦労も多いじゃろ?」

「いえ、私もオーヴァー様のことは好きですから。確かに苦労も多いですが、それ以上のものも貰っております。」

「ほう?」

「…待て、俺は苦労をかけているのか?」

「え?あぁ、いや。その…、それ以上のこともありますから…!む!?オーヴァー様!少年がギルドでトラブルのようです!」

「何!?」

 その時、ミールの[千里眼]がユウヒが冒険者に絡まれているのを捉える。

 二人は慌てたように立ち上がると、部屋を出て行こうとする。


「父上!申し訳ありませんが、少し用が出来ました!話の続きは、また後ほど…!」

「あぁ、よいよい。お前達で助けるんじゃろ?なら、好きなようにやりなさい。ワシへの報告は時々でいい。」

「…分かりました。いくぞ、ミール!」

「ハッ!」

 オーヴァーがそういうと、二人の姿が一瞬にして掻き消えた。


「…全く。いくら急いでいるからとはいえ、城内でスキルを使うとは。」

 呆れたようにマイジンはそう言うと、ソファから立ち上がり窓の方へ向かう。


「…勇者、か。懐かしいのう。……やはり、未だ彼を恨んでいるのだろうか。…鈴香よ。」

 そう独りごちるマイジンは、悲しそうに俯いていた。

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