別視点:勇者と同郷の者


 テイル達が門の前でユウヒと別れた後…。


「テイル様、彼のことはどうしますか?」

「どう、とは…?」

「勇者は魔王を倒すために現れた。じゃあ、かの少年はなぜこの世界に現れたのか。女神様は旅先で人を助けるようにと示唆した。なら、最悪の可能性もあり得ます。」

「…まぁ、考えたくはないが。だが、魔王の時のような魔物の出現などの予兆がない。ならば、どうすることもできないだろう?」

 渋い顔をしながらテイルは言う。

 それに同調するようにミールは頷いていた。


「まぁ、俺たちに出来ることは一つだけある。それは…。」

「それは…?」

「ユウヒを手助けする事だ。彼は助けなどいらない、一人で旅をすると言った。俺達に申し訳ないとな?だが、彼のように心優しい人間にこの世界は残酷すぎる。」

「確かに、少年は勇者と同郷の者。ということは戦争や人殺しが身近にはない平和な国。そこからやってきた彼に対して、この世界は…。」

「だから、サポートをする。スキルの使用を許可する。彼のことを視ておいてくれ。危ないことがあった時に、出張っていけるようにな。」


「分かりました。……今は、食べ物を買っているようですね。ですが、お金が多くて店の人に怒られている様子。」

「なに?…そうか、失念していた。平民に金貨は重すぎたのか。どうする、別れたばっかりだが助けに行くか?」

「いや、ちょっと待ってください。…通りすがりの人に助けてもらったようですね。それに、あの方角は銀行です。店の人に教えてもらったようですね。」

「そうか。ならば大丈夫か。…よし、ここまできたら。」


 二人が話しながら入って行ったのは、薄暗い路地の奥。

 そこには店が立ち並んでおり、窓から差した光が二人を照らしていた。

 そのさらに奥へと進んでいくと、二人はある店へと入って行った。


「いらっしゃい。何にする?」

「ドレスタ・アモーレを二つ。」

「あいよ。なら、vipに入りな。」

「分かった。」

 店主の男にそう告げられると、カウンター横の扉を潜る。すると、そこには魔法陣が書いてあった。


 その上に立つと、テイルは首にかけてあったペンダントに魔力を注ぐ。

 すると、二人の姿が一瞬で掻き消えた。



 気づくと二人がいたところは、薄暗い部屋に変わっていた。


「ふぅ、いつやっても慣れないな。」

「テイル様、やはり報告を?」

「当たり前だ。私達には少し荷が重いのでな。だが、父上にのみ報告する。大臣連中が知ると、厄介なことになりかねん。」

「確かにそうですね。」

「…さて、行くか。」

 そう言って、部屋から出ていく。

 どうやら地下のようで、階段を上がっていくと豪華な装飾が目立つ廊下に出てきた。

 さらにそこを進んでいき、ある扉の前へとたどり着いた二人は、ノックをする。


「陛下、オーヴァーです。至急報告したいことが。」

「入れ。」

「失礼致します。」


 部屋の内部は簡素な作りだったが、高そうな家具が立ち並んでいた。

 そして真ん中のソファには、半分ほどが白髪で、大きな口髭を伸ばした老人が座っている。


 彼の名は、マイジン・ドレスターラ。

 ドレスターラ王国の絶対的君主であり、稀代の王。その人だ。


「何だ、冒険者の格好のままで来たのか。久しぶりに見るが、よく似合っているな。」

「すいません、とても急いでいたもので。」

「そう堅苦しくなくていい。ここは公の場などではないのだからな。」

「分かりました。」

「それで?オーヴァーがそこまで焦るとはな。また竜でも出たのかの?」

「…俺は、竜よりも上だと思ってます。」

「何?」


「……勇者と、同郷の者が現れました。」


「それは、また何とも。話してくれるかの?」

 そう言う王の目は、鋭くオーヴァーを見つめていた。

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