やっちゃった。


 ミールさんが誰かの名前を叫ぶと、数拍置いて上の方からドタドタと誰かが駆け降りる音が近づいてくる。

 受付カウンターの後ろのドアが開き、その音の正体が慌てた様子で出てくる。



「な!何だ何だ!?魔物か!厄災か!それとも魔王が復活でもしたのか!!」

 それはスキンヘッドに多くの傷が付いている、筋骨隆々の男性だった。


「遅いぞ、ガンテ。また寝ていたのか?」

「?…おぉっ、テイルにミール!久しぶりじゃねぇか!!お前らがここのギルドに顔を出すとはな!やっぱなんかあったのか!」

「ガンテ、そんなに声を出さなくても聞こえる。貴様は五月蝿いから少し黙って喋れ。」

「何だよミール、別にいいじゃねぇか!ガッハッハッハッハッハ!!!」

「はぁ…。」

 ミールさんは疲れたようにため息を吐く。


 確かに俺も五月蝿いと思うくらいの声のボリュームだ。

 この五月蝿さはゴブリンキングを思い出す。アイツもすごく五月蝿かった。

 そう思っていると、テイルは怒ったように喋り出す。


「ガンテ。この冒険者がユウヒに絡んでいたぞ。しかも、手を出そうとしていた。しかも、周りはそれを見ていただけだ。」

「あぁ?そりゃ冒険者同士なんだから、小競り合いくらいはあるさ。まぁそんな細っこい奴に手を出すのは、どうかと思うがな。まるで弱いものイジメ…」

「何を勘違いしているが知らないが、まだ登録前だぞ?つまり、一般人だ。」

「………あ?ソリャ、本当か?テメェら。」


 突然ガンテさんの雰囲気が変わり、周りの冒険者を睨み付ける。その迫力はテイルよりもあって、俺は少し身震いした。

 その睨みを真正面で受け止めた冒険者たちは、物凄く怯えた様子で顔を青褪めさせていた。


「どうする?ガンテ。それにそこの受付も止めることすらせず、人も呼ばずに見ていただけだったぞ。」

「…すまないな、ユウヒ…だったか?」

「え!あ、はい。」

「テイル、止めてくれてありがとよ。確かにそれは大問題だ。市民を守るはずの冒険者が、その市民に手を出すとはな…!」

 憤ったようにガンテさんは腕を組む。


 件の冒険者と受付嬢はその姿に焦ったようで、多くの言い訳が口から飛び出すが、ガンテさんがそれを止める。


「言い訳は聞かない。いつも言っているよな?冒険者同士なら仕方ない、お前らのような気性の荒い奴らだ。多少は喧嘩にもなるだろう。だが、市民に手を出すとは何事だ!?貴様らも、それを黙って見ていただと!!?」

 ガンテさんは、周りを見渡し言った。


「……貴様は資格の剥奪。まぁ、未遂だからな。鉱山には送らないでやる。だが、この国で冒険者になれると思うな。お前ら見ていただけの奴らは後で地下に来い。たっぷりとお仕置きしてやる。それに、……確か名前はミミだったか?」

「あ、あの!」

「喋るな。貴様はここに来たばっかりだったな?だが、それでも他の奴らには教えられただろう?冒険者が市民に手を出すことは御法度だ。…ただでさえ俺らのような、血生臭い仕事をしている冒険者は嫌われてるんだ。貴様らのその行為は、冒険者の地位をさらに貶めることになるんだぞ?クビだ、出て行け。」

 ガンテさんがそう言うと、二人は肩を落としてギルドから出ていった。


 なぜか、最後に俺たちのことを睨みつけていたのは気にかかったが、これで騒動は片付いたみたいだ。


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