憧れだ。



「確かに、危険な職業だと思う。ゴブリンだってスキルの力で倒すことができた。俺だけではあいつらを倒せることはできなかっただろうし。ゴブリンキングにも腰を抜かしそうになって、勝てないとも思った。」


「じゃあ、なぜだ?冒険者になるのなら、この先あのような魔物と対峙することは大いにあり得るぞ?」


「…………憧れ、なんだよ。」


「憧れって、向こうの世界にいた時からか?だが、それだけではやっていけないぞ?」

 テイルが問い詰めてきた。心なしかその表情は険しく見える。



「違う!向こうの世界ではそんなこと一ミリも思ってなかったし。この世界に来てゴブリンと戦って、この世界の話を聞いて、冒険者って大変だなって思った。でも…、二人に、出会ったから。」

「俺と?」

「私か?」


「うん、だってさ何も分からずこの世界に来て、ゴブリンキングに追い詰められた俺を助けてくれたじゃん。でも、俺はそんなテイルに酷いことを言ったろ?それでもさテイル、そしてミールさんは俺を見捨てずに、王都まで連れてきてくれた。」


「………。」


「だから、だよ。だから、俺は二人みたいな冒険者になりたいと思ったんだ。見ず知らずな困っている人を助けれる様な、冒険者にさ。」

 俺がそう言うと、二人は微笑みながら俺のことを見てくる。


「………なんか、言えよ。」


「いや、何も言うことはないさ。ただ、嬉しいと思っただけ。」

「あぁ、それにテイル様に憧れる気持ちは分かるぞ?私も好きだからな。」

「そうか?なら良かった。本当は護衛なんか嫌なんじゃないかと思ってたよ。」

「そんなわけないじゃないですか!」

「ハハハッ、思ったより嬉しいな。こうやって誰かに憧れられるってのは?」

 二人はそう言って顔を見合わせ、笑い合っていた。

 俺は気恥ずかしくなって、話題を変えることにする。


「テイルはS級なんだろ?なら、ファンの冒険者とか居るんじゃないのか?」

「ファン…?いや、俺はあまり聞いたことはないな。いつも遠巻きに見てくるだけだ。」

「それは、テイル様が気づいていないだけですよ。貴方はS級なんですから、憧れてる冒険者はとても多いです。ただ、恐れ多くて話しかけてこないだけで。」

「そうだったのか、話しかけてくれてもいいのにな。」


 そう言うテイルだったが、さっきの門番さんの反応を見るに、やはりS級冒険者というのはとても上の人物なんだろう。

 こうして、俺と普通に話しているのが異常なだけで。


 それとも、偉い人だってバレているのか?

 まぁ、そんなことあり得ないかもな。そこまでバレていたのなら王宮の情報管理はどうなっているんだ。って話だし。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る