入れた。


「ミール、待たせたな。警戒ありがとう。」

「ありがとうございます。」


 ミールさんは振り返ると、俺の方を少し気まずそうに見ると、意を決したように近づいて話しかけてきた。


「少年、すまなかった!私は少し、君の事情を考えていなかった様だ。君は突然この世界に飛ばされ、森でも吐くほど泣いて。そんな君の姿を見ていたというのに。」

「い、いや!俺は、全然気にしてない!!だから頭を上げてくれ!それに、魔王がいた頃の事も聞いた。二つも国が潰されて、魔物も出てきて、ミールさん達も大変だったろうなって思うから。」

 俺がそう言ってもミールさんは頭を上げなかった。


「許す、許さないは関係ない。私が謝らないと気が済まないんだ。」

「でも…。」

 

「………ミール、ユウヒもこう言っているんだ。頭を上げろ。それよりもまず門を潜ることを優先しよう。何か、案はないか?」

 テイルがミールさんに尋ねる。

 ミールさんは、ようやく頭を上げてくれた。そして、顎に手を置き門を潜る方法を考えてくれた。


「…それでは、私の魔力を使いますか。」

「ん?どうやってだ?」

「前に渡されたこれは使えないでしょうか。」

 そういうと、ミールさんは懐から小さな石を取り出す。


「少年、これ魔法石と言ってな。魔法研究所の者達が最近試作して、それを私達に寄越してきたんだ。これには一つだけ魔法を込めることができ、任意のタイミングで放つことができるというものだ。」

「あぁ、確かにそれならいけるかもな。」

「はい。これに魔法を込め、水晶に手を翳した時に発動することによって、その際の魔力を反応させるということです。」


 そう言うとミールさんは、石を握り締めた。

 すると手の中から光が漏れ、石の色が半透明から白へと変色する。


「これで完了だ。あとは服の袖に忍ばせるなりして、発動させればいいだけだ。」

「あっ、俺って魔力無いみたいだけど発動できるのか?」

「その点は大丈夫。この石の発動方法は二つ。魔法を込めた本人が魔力を流す。もう一つは、ここを見てくれるか?」

 俺の前に石を持ってくる。

 指で示したところを見てみると、その部分だけ少し凹んでいるのがわかった。


「ここの凹みを押すんだ。すると発動する。ほら、持っとけ。」

「おっと…!」

 ミールさんが石を放ってきた為、落とさない様に慌ててキャッチする。

 それを俺は袖に入れると、テイルが話しかけてきた。

「よし、準備できたな?じゃあ、行くぞ。」


 門の前まできた。

 俺たちに気づいた門番さんは、隣にいた他の門番と共に慌てて話しかけてくる。


「テイル様…!何か、彼の対応が間違っていたのでしょうか!?誠に、申し訳ありませんでした…!!」

「申し訳ありませんでした。」

 彼らは俺たちが門から離れたことで、対応に不満を持ったと勘違いしたようだ。


「あぁ!いや、別にそんなことはないよ。彼は良くやってくれている。対応にも仕事の仕方にも文句などない。」

「そうでしたか…!あの、どうぞお入りください。そちらの方も検査は結構です!テイル様が連れてきた方でしたら問題ありません!!」

 二人の門番さんは、門を開けると中へと誘導するように手を動かしている。


 何かいけないことの様に思えたが、テイルとミールさんが先に歩いていった為、俺も慌てて門をくぐり抜ける。


 こうして俺たちは王都にあっさりと足を踏み入れることができた。

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