いや、なかった。



「…………嘘だよ。フフッ、アッハッハッハッハッハッ!!!!」


「は。は?は?は?え?………はぁっっ!!?お前、ふざけんなよ!?そんな、悪質な冗談!一瞬、マジになったじゃねぇかよ!!!ほんとに、馬鹿じゃねぇのっっっ!?」

 目の前の彼が俺を助けてくれた偉い奴だということも忘れ、俺はテイルに叫んでいた。

 その間も笑っていたテイルは、笑い声を止め真剣に俺の目を見つめてくる。


「…また、あの目になっていた。ダメだぞ、俺はあの目が嫌いだ。何かに堕ちた目、…っていうのか?その目は昔を思い出してしまう。」

 そう語ったテイルの顔は、俺が見ていた自信に満ちた顔とは違い、思い詰めた顔をしていた。


「…あぁ、すまない。俺がこんな顔をしたらダメだな。よし、魔王のことだったな。いいか?魔王というのは、"概念"なんだ。」

「概念?」


 概念…。じゃあ、魔王は生物じゃないのか?

 物語だと、魔王というのは魔族だったり、人間だったりで…、四天王を従えて魔王城に居を構えている。

 そんなイメージがあるが、違うのか?


「いや、"概念"というより"現象"と言った方が分かりやすいか?いいか、魔王というのは災害と捉えてくれて構わない。ただ、台風や地震といったものとは違い、桁違いの規模をもつ災害だがな?」


「災害…。でも、勇者はそれを倒したって。」


「あぁ、そうだ。魔王は勇者が倒した。それは、俺も知っている。女神様もそう言っていたからな。それに、父も見たと言っていた。勇者の仲間として最後を見届けた、と。」


「テイルのお父さんが、勇者の仲間…。」

 そう呟くと、テイルは続きを話し始めた。



「アレが起こったのは、俺がまだ生まれてくる前らしい。確かに昔から魔物というものはいた。しかし、呼び方は違ったんだ。それは"魔族"と呼ばれて来た。ゴブリンやゴブリンキングだって、本当は一つの種族として扱われてたんだよ。集落で暮らし、自給自足で生活をする。だが、決して人と関わろうとはしなかった。そりゃそうだ、彼らは迫害されるとわかっていたからな?」

 

「ゴブリンが種族…?それに迫害って…。」


「…あぁ、王国を先代が治めていた時代。人族至上主義というものがあってな、それが国の大半を占めていたらしい。そのせいで、俺たち人間とは違う姿形をしていたモノは魔族と呼ばれ、迫害されて来た。ゴブリン、妖精、ドワーフ、エルフ、ドライアド、悪魔、吸血鬼………。ありとあらゆる種族にわたって。」

 そう語るテイルの顔は険しく、地面を見つめていた。


「そんな事があったのか。」


「あぁ。本当に、クソみたいなもんだろ…?人間が上だという考え。そんな考えのせいで、あんなことが起こったっていうのに…!」

 

 

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