無かった。


 気まずい。

 ミールさんは俺を警戒しているのか、さっきより一歩下がって、俺を見ている。

 そしてテイルは、ミールさんの後ろで険しい顔をしていた。


 どうしたんだろう、やはり魔力がないのはまずいことなのだろうか?

 俺は異世界ものは分からない。だから、これが異常なことなのかどうかも…。

 そんな考えが俺の頭を巡っていると、漸くテイルが口を開いた。


「ミール。それは…、本当か?本当にユウヒには魔力がないと?」

「えぇ、感知魔法で見た限りでは。…どうしますか?テイル様。」

「どうする?まさか、ユウヒに何かしようというのか?」

「ですがっ…。こんなの、まるで…!!!」


「魔王の、ようだと…?」


「えっ…?」

(テイルは今なんて言った?…魔王?俺が?)

 テイルが衝撃的な言葉を発した。

 ただ、テイルの顔とミールさんの雰囲気に呑まれて、俺はどう言葉を返せば良いのかわからなくなった。



「…ミール、剣から手を離せ。」


「テイル様!何かあっては…!!」


「何があると言うんだ?……少し、冷静になれ。ユウヒなら大丈夫だ、私が保証する。それとも、私が信用できないか?」


「それはっ…!!……分かり、ました。少し、周囲の警戒をして来ます。」

 剣から手を離したミールさんは、少し落ち込んだ様子でそう言うと俺たちから離れていった。



「……すまないな、ミール。俺から彼に話しておくから。」

 ミールさんのことを申し訳なさそうに見送ったテイルは、俺に近づいてくる。


 俺は何かされるんじゃないかと身構えたが、テイルは俺の肩に手を回すと、近くの石に誘導して座るよう言ってくる。


「ふぅ、すまない。ミールは俺の護衛を命じられてるから、いつも俺のことを考えてくれているんだ。ハハハッ、まぁそれが助かっているんだがな。」


「………。」


「大丈夫、君は魔王じゃない。これは俺の勘だが。まぁ、外したことのない勘だ。だから、ミールも信用して席を外してくれた。」


「…俺には、魔力がないんだよな?」


「あぁ、そうらしい。信じられないが、まぁミールが言うのなら、事実なんだろう。」


「なのに、魔王なのか?魔王って、魔力も多くて、魔法も得意でっていうイメージがあるんだけど…。」


「それも、友に教えてもらったのか?」


「いや、これはゲームの知識だけど…。」

 でも、俺の昔やってたゲームだとそんなイメージがある。

 だから到底、魔力がない俺が魔王と言われるのは納得が出来ないんだ。


「ふむ、あぁそういえば勇者も驚いていたな。だが、魔王には魔力がない。それがこの世界の常識なんだ。だからミールも、そして俺も。君のことを魔王だと考えてしまった。でも、それはおかしいんだよ。」


「え?」


「だって、魔王は俺のことだからね?」

そう言うテイルの目は、怪しげに光っていた。

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