騙されたと思った。
「今、なんて…?」
「帰れるかもしれない、と…。そう言ったんだ。」
「テイル様、それは…!」
「何も知らないくせに、そんなこと…!!」
彼の言葉が頭に来た俺は、向かって行ってテイルの胸ぐらを掴んだ。
「な、少年!」
「俺は、もう帰れないんだよ!!こんな気持ちの悪い世界に勝手に送り込まれて!変な奴らと闘って!!しかも、前に来たやつには使命があった、だと!?俺には、そんなものはない…。俺は、魔王を倒せるような勇者じゃないんだよ!!!!」
そう叫ぶ俺を、テイルはただ見ていた。
俺から目を逸らさずに見てくるテイル。
その顔つきは、何か確信があるような表情をしていた。
「女神様は言った、貴方は選ばれたと…。そう説明されたんだよね?ユウヒは。」
「そう、だけど。今となったら…、もう。」
テイルが言ったのは、俺が二人にこの森にいた経緯を説明した時のことだ。
女神からの言葉も教えた為、テイルはその言葉を持ち出してきたが。
「今はもう、俺のことを騙そうとそう言ったとしか思えない…。」
「いや、女神様はそんな方じゃないさ。あの方は、時々神託を授けて下さるんだ。災害が起こりそうな時や、この世界に不都合なことが起こりそうな時に。」
「なっ!そんなことが、あり得るのか?」
「あぁ、魔王が出現した時もそうだ。勇者を召喚し、魔王を倒せと教えてくださったのも女神様だよ。これまでもそうやって、この世界は成り立ってきた。私が生まれる前もあったと聞く。これは文献にも残ってる事だ。だから…、そんな事をするような、ましてや君の話を聴かないなんて…。」
そういうテイルだったが、俺にはあまり響かなかった。
無視されたのは事実で、何も教えてもらえず異世界に来させられたのだから。
「いいかい?考えられるとしたら、三つ。一つ、使命を伝える時間がなかった。…これはあまりだね、女神様に時間などという概念は関係ないと思う。二つ目は、その使命がなくただ悪戯に送っただけ。これは君の考えだね?」
「あ、あぁ。」
「そして、最後。こんなこと私は考えたくはないが………女神様にナニカが起こったという説だ。」
そう話したテイルの顔は、見たこともないほど険しくなっていた。
「ナニカって…、何だよ。そんな、神ほどの存在に起こることなんて、…ッ!」
俺はそんな彼の顔に、何も言えなくなる。
それに、何故かさっきまでの感情が薄れていき、少し息苦しくなったように思える。
「テイル様、あまり興奮されると魔力が漏れてしまいます。ただでさえ存在魔力が多いのですから。少年、あまり気圧されるな…。少し護りをかけるぞ。」
そう言ったミールさんは、腰元から出した短剣を俺に振ってきた。
すると、呼吸をするのが少し楽になって来た。
「っは…!はぁ、ありがとう…ございます。」
「すまない、少し昂っていたようだ。あまり考えたくないことが頭を過ぎったからね。さて、話の続きをしようか。」
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